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ようこそ現代へ③

タツヤの背筋がわずかに震えた。

かつて軍事雑誌を愛読していた…所謂“ミリオタ”として、彼はそのフォルムに見覚えがあった。


「…それ、本物…ですか?」


問いかけに、マントマンは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに納得したように頷く。


「ああ、なるほど。君たちの時代は…“平和”だったんだもんね」


その声には、わずかに皮肉と哀しみが混じっていた。


「そう、本物だ。

そしてこれが“命を奪う”ための武器だということに、何一つ誇張はない」


そう言いながら、マントマンは銃のスライドを引いた。

カシャン、と金属音とともに薬室から一発の弾丸が跳ね上がり、宙を舞う。それを器用に指先で受け止め、ふたりに見せる。


それは、異様な美しさを放っていた。

ルビーのような深紅の、先が蕾のように窪んだ弾頭。銀色の薬莢に包まれたその形は、兵器であると同時に、どこか宝石にも似た輝きを持っていた。


「この弾は“特殊血晶”と呼ばれる旧世代人の血液から抽出・精製した成分を混ぜた合金で作られている。

かつて、ランバート因子に感染した人間の体内では、それに対する抗体が生成されていた。

そしてその抗体は、ランバートの組織そのものを破壊するように進化した。…この弾はその“毒”だ」


タツヤとナツキは、その弾丸を言葉もなく見つめる。


「……けど毒だけじゃ意味がない。問題は、“どうやって奴らの身体にそれを届けるか”だった」


男は、弾頭を指先で回しながら続けた。


「通常の銃弾は、硬く貫通力が高いほど変形しにくく、内部に与えるダメージが小さくなる。

逆に柔らかくて破壊力が高い弾頭は、外皮で潰れてしまって届かない。

だから、この弾頭は回転しながら対象に突き刺さるホールソーのような形をしている。

奴らの外皮を“食い破って”内部に到達し、弾頭がそこで花のように開くことで運動エネルギーと一緒に臓器を徹底的に破壊するんだ」


花の蕾にも似た形は、ただ美しいだけではない。

それは殺すための、理にかなった“構造”だった。


「つまり…君たちの“血”そのものが、武器であり、希望なんだ。

現代の技術をもってしても抗えなかった“生命体”に対抗できる。そんな存在になった君たち旧世代人は、言わば特権階級だ」


マントマンの言葉に、ナツキが「特権階級だってさ」と茶化すように言ったが、彼の表情は笑っていなかった。


「国家レベルで、君たちを丁重に扱えという通達が出ている。旧世代の暮らしとほとんど変わらないか、それ以上の権力を手に入れた者もいるくらいさ」


「けどな、それにも代償がある」


マントマンの声が少し沈む。


「"血税けつぜい"――この世界で暮らす者は皆、血液を“税”として納めている。

言葉通り、エネルギー資源として命に支障がない程度に、国やR.W社へ定期的に“採血”されてる」


「"旧世代人の血"は…中でも別格でね」


タツヤとナツキが言葉を失ったその瞬間、マントマンが前方を指差した。


「さ、そろそろ、外に出られるよ」

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