トモダチ⑤
ダストハイブの食堂が、今夜ばかりはまるで別世界のようだった。
普段は栄養効率だけを重視した合成タンパクや噛み応えだけが取り柄のパサパサしたパンが並ぶその空間に、目にも鮮やかな本物の寿司がずらりと並んでいた。
ねじり鉢巻に割烹着をまとったP.Jが、テーブルを並べて作った簡易カウンター越しに寿司を握っている。
「ネタはいくらでもあるよーん! …て言うのもさ、HG住宅で魚の養殖と野菜の栽培が独自に発展してたみたいでね〜。今日はヒデユキさんが、いっぱい持ってきてくれたんだ!」
背後の巨大な冷蔵庫から続々と新鮮な魚と色鮮やかな野菜が運び込まれ、兵士たちは歓声を上げる。
そんな中、ユウキが目を輝かせてナツキに顔を向ける。
「おいナツキ、どっちがたくさん食えるか勝負しねぇか!?」
「いいねぇ!負けた方はパンイチでダストハイブ外周ダッシュな!」
無邪気な笑い声とともに、大食い対決が始まる。周囲の兵士たちが笑いながら拍手と声援を送る。
その騒ぎを少し離れて見ていたタツヤは、眉をひそめて呟いた。
「…どうしよう、ナツキが一人増えたみたいで騒がしい」
そんなタツヤの言葉にユリがくすっと笑う。
そして寿司を口に入れるとあまりの美味しさに頬の力が抜け口角が緩む。
「ホタフーキくんも、この魚の養殖のお手伝いしてたんだね。偉い偉い」
彼女はテーブルの下から顔を出していたホタフーキの頭を優しく撫でる。
「お、お姉ちゃん……」
ホタフーキは顔を真っ赤にして、もじもじと背を丸めた。
食堂の各所では、先輩兵士たちも箸を進めながら談笑していた。
「やっぱ食事ってのはこうでなくっちゃな。命がけの戦場には、こういう瞬間が必要だ」
「寿司なんて初めて食ったぜ…泣けてくるわ…」
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食堂の奥の静かな一角。
そこではヒデユキとマントマンが、騒ぎから離れて向かい合っていた。
黙って寿司をひとつ口に運んだマントマンが、ふと小声で呟く。
「……悪いね。こんなにたくさん、貴重な食料をもらって」
ヒデユキは静かに首を振った。
「問題ない。HG住宅ではまだ、栽培にも養殖にも余地がある。……それよりも、だ」
彼の目が鋭くなる。
「“始祖”を狙って暗躍している組織があるはずだ。恐らく…R.W社の中でも、ごく一部の人間がこれに関わっている」
マントマンは苦い表情を浮かべ、箸を止めた。
「……あ〜。やっぱりそう思うよね」
彼は一度だけ深く息を吐くと、再び声を潜めた。
「…今、地上で人類を蹂躙してるランバートは…間違いなく“人工物”だよ」
甘い酢飯と魚の香りに包まれた空間。
その裏では静かに…しかし確実に、新たな戦いの火種が見え始めていた。




