トモダチ①
ナツキの血刀が風を裂き、トカゲ型ランバートの装甲の隙間に深々と食い込む。
「らァッ!!」
鋭い切っ先が鱗をめくり上げ、内部の生肉へと達した瞬間、ユウキがその後ろから疾駆する。
「おらよっと!!」
殴打と同時に、ブラッドグローブが音を立てて爆ぜるように震える。
ズドォッ!!!
ユウキの拳が、ナツキが作った切り口へ寸分違わず叩き込まれる。
骨の軋む音。肉の裂ける音。トカゲの異形が短く悲鳴を上げてよろけた。
「“昔”を思い出すなァ、ナツキよぉ!」
ユウキが振り返り、唇を吊り上げて叫ぶ。戦場の混沌の中でも、その声はひどく朗らかで楽しげだった。
「やっぱ、お前と一緒なら、この"終わった世界"だって楽しめちまいそうだ!!」
だが、ナツキは言葉を返さない。
ニヤリと笑っただけで、すぐに次の斬撃に意識を切り替えていた。
そして何より、ユウキの顔色が異常だった。血の気が引き、まるで数日眠っていないような青白さ。呼吸も荒く、視線もやや焦点を失いかけている。
無理もない。グローブに送り込まれている血液の量が“異常”なのだ。通常なら安全装置で止まる出力を、ユウキは強引にリミッターを外している。
そして
「ッ……あの位置、いける……!」
ユウキは瓦礫を蹴って跳躍した。狙うは、トカゲ型ランバートの頭部。ナツキが切り開いた突破口に当てれば…脳幹を直撃する一撃。
まさに勝負を決める拳だった。
だが、その瞬間。
バチン!
空気を裂いて、鋭く伸びる影。ランバートの長い尻尾が、予備動作もなく真っ直ぐにユウキの腹部を貫いた。
「ぐっ……!?」
血飛沫が空中に散る。ユウキの体が空中で硬直し、そのまま吹き飛ばされそうになる。
「ユウキッ!!」
ナツキの声が鋭く走る。
咄嗟に地を蹴り、尻尾をめがけて血刀を振るう。乾いた金属音と共に、尻尾の一部が切断され、ユウキの身体が宙に投げ出される。
「この野郎……!」
ユウキを空中でキャッチしたナツキは、ユウキを少し離れた所まで運び、すぐに追撃へ戻る。
ユウキは動かない。倒れたまま、血に濡れた拳を握りしめていた。
「畜生が…!!」
激しい怒声が響く。
ユウキはグローブの強制停止処理をかけながら、歯を食いしばっていた。限界を超えて血液を失った彼の身体は、すでにまともに動かせる状態ではない。
その場に駆け寄ってきたのは、タツヤだった。
「大丈夫か!?」
メディカルキットを取り出し、止血と投薬処理を始めようとする。が…。
「……触んな!!」
ユウキはその手を叩き落とす。
「陰キャが……お友達ヅラしてんじゃねぇぞ!!」
吐き捨てるようなその声に、タツヤは一瞬言葉を失う。しかしすぐに眉を寄せ、きつく口を結んで彼を見据える。
応急処置の手は、決して止めなかった。
「僕たち兵士にとって、君ら市民は“守る対象”だ。それに声がデカい。出血多量で死にたくなきゃ、黙ってろ」
タツヤの声は、冷静だった。鋭く、刺すように冷たい。
そしてその背中の向こうで、ナツキが叫ぶ。
「タツヤァ!!わりぃ!!俺もそろそろやべぇ!!」
タツヤはふぅ、と静かに息を吐くと立ち上がり、ユウキの傍らにライフルを置く。
ホルスターからリボルバーを抜き出し、ランバートの方へと走り出す。




