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第七〇段 草の花は(中)
葦の花。これはことさら見どころはないが、神が宿る「御てぐら」などと言われているのはなにか風情があるのだろうと思うと、意味がありそうである。すすきに劣ることはないが、水辺に生えているのが、おもしろいのであろうかと思う。
「この『草の花は』に、すすきを入れないのは、たいへん不思議なことだ」と、人は言うであろう。
秋の野に通じてのおもしろさは、すすきにこそあるであろう。穂先が暗紅色の蘇芳色で、朝露に濡れて打ちなびいている様子は、他にこのような素晴らしいものがあるであろうか。
秋の終わりになると、まったく見どころがない。どの色の花も跡形もなく散ってしまう。後には、冬の末まで、頭は真っ白になり、昔の思い出に浸って、よろめくように立っているのは、人のようである。そのように思うことがあって、しみじみと感慨深く「あわれ」と思うべきであろう。




