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第二四一段 一条院をば(後)
藤原の輔尹は、木工寮の三等官で、六位の蔵人になっている。ひどく振る舞いが荒々しく、不快な人物なので、殿上人や女房は『あらわに』というあだ名をつけている。
それを歌にして、
「そうなしのぬし 尾張人のたねにぞ ありける』とうたっている。尾張の人、兼時の娘の産んだ子であるそうだ。
一条天皇が、この歌を御笛で吹いていらっしゃると、高遠が、
「もっと音高くお吹きなさいませ。輔尹は、聞き申し上げることはありません。」と申し上げると、
「そのようなことはできない。私が吹いていたと、聞き知るであろう。」とおっしゃって、ひそかにだけ吹いていらっしゃる。
そのあと、定子様の御殿にいらっしゃって、
「ここには、輔尹は、いないのだな。今こそ、音高く吹こう。」とおっしゃって、お吹きになった。とても「おかし」。
(清少納言が書いてしまったら、せっかくひそかに吹かれたのに、本人に伝わってしまうのでは。)




