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第二二〇段 人の硯を引き寄せて

 人の硯を引き寄せて、手習いをするにせよ。文を書くにせよ、

「その筆は使わないで下さいな。」と言われるのは、まったくやりきれない気持ちがするであろう。 その言葉で使うのをやめるのもみっともないし、かと言って、そのまま使うのも意地が悪い。


 そう思われるのも分かっているので、ほかの人が私の筆を使うのを黙って見ていると、特に字がうまくもない人で、それなのに何かと書きたがる人が、私が使いならしてある筆を、妙な風に水をたっぷり含ませて、

「これを使うといかがなものか。」とかなんとか言いながら、細櫃(ほそびつ)(ふた)(ふた)などに字を書き散らして、横向きに投げ出して置いているので、筆が水に(つか)ったままにして伏せてあるのも、憎らしい。それでも、憎らしいと言えようか。(言えはしない。)


 人の前に座っていて、

「ああ暗いこと。奥に寄ってくださいな。」と言われるのも、また、やりきれない。


 何を書いているのか、のぞいてみて、驚いて文句を言われるのも、やりきれないが、これは互いに気心の知れた相手の場合はそうでもない。


(文房具の貸し借りは良くするが、自分のものを勝手に使われたり、雑に使われるのは、いやだなあ。座っているのに、よけろと言われたり、ノートをのぞいて怒られたり、教室でも、よくある風景ですね。 葉月)

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