17/186
第二二段 すさまじきもの(その一)
『すさまじきもの』(興ざめなもの)たーくさんあるんですねえ。いくつまで続くかなあ。
すさまじきもの。
まずは、昼に吠えている犬。犬なら犬らしく、夜の不審者を見つけて吠えてればいいのに。なんで、昼間にワンワン吠えるかなあ。まったく、興ざめ。
春になったというのに、氷魚を取るためにそのままになっている網代。興ざめだったら、ありゃしない。
三月、四月に着ている紅梅色の衣。あれは、一月、二月に来てこそ美しい。季節外れの紅梅なんて、見られたものではない。
そして、赤子の亡くなってしまった産屋。生まれたての赤子とその母が暮らしてこその産屋だというのに、いつまでもそのままにしていては、見るに堪えない。
火をおこしもしないのに置いてある火桶や地火炉。牛が死んでしまって用のなくなった牛飼い。大学寮や陰陽寮の博士が次々に女の子を産ませているもの。(ほかの家なら、女の子が生れたら喜んで大切に育てるんですけどねえ。)




