60 光泰 てんかいする
一晩、坂本城に居た兵達は、各地の城に帰っていった。
範熈祖父さんは、まだ城にいる。
最近、目立ちすぎたか?
玩具や菓子なら、子供らしく見えるから大丈夫だとおもう。
もしかして、武田にちょっかいを出している事がバレたか?
別に、利敵行為をしている訳では無いから、怒られないだろうが。
あ!!祖父さんと目が合った。
妻木範熈「吉寿丸、わしが稽古をつけてやるぞ」
光泰 「私はもう元服しております。十次郎か、光泰と御呼び下さいませ」
妻木範熈「そうであったか、十次郎じゃな。わしの得意な弓が良いかのう」
光泰 「申し訳ございませぬが、これから近習達と、
城壁の周りを走りますゆえ、ご遠慮致します」
坂本城に帰ってきてから、日課の早朝?(九時)ランニングを行っている。
亀山城の頃は一人で行っていたが、近習の二人を鍛える為、一緒に走っている。
妻木範熈「見回りを致すのか?城代の仕事ではあるまい」
城代の主な仕事は、城主の代わりに領地で起こった問題の解決、
領内の警備、城の管理である。
簡単に説明すると、警察署長と消防署長と警備会社の支店長を、
兼任していると思ってくれたらいい。
光泰 「見回りもついでに行いますが、足腰の鍛錬には、
走るのが一番良いのです」
妻木範熈「移動には、馬を使うであろう。
大将が、乱りに動くものではないぞ」
光泰 「これからの戦は、大軍同士か城攻めが大半を占めまする」
戦国時代も終盤に近い。大きな戦いはあと八回ぐらいだ。
光泰 「大軍同士なら、数の多さで決まります故、連絡が重要になりまする。
馬が常に走れるとは限りませぬ。いざという時の為で御座います」
戦国時代の馬は、足が遅い。撃たれる危険性は十分にある。
光泰 「城守りし時は、馬を使えば援軍を呼ぶさいに使い難く、
攻める際は、火縄や大筒を用いる為、馬は使えませぬ」
馬はデリケートな生き物、大きな音に弱い。
妻木範熈「よく考えておるのう。弓や槍の時代はもう終りかのう」
光泰 「戦の無い平和な時代になれば、火縄は不要になりますが、
槍や弓は、賊や獣を仕留める為に残ります」
妻木範熈「平和な時代か。早く来るかのう」
光泰 「あと、二十年ほどすれば叶いましょう」
妻木範熈「二十年か、思うたより早いのう」
光泰 「残る敵は、関東の北条、九州の島津ぐらいです」
妻木範熈「上杉や毛利を、忘れておらぬか?」
光泰 「上杉は、当主がまだ若く、家臣達を上手く扱えていませぬ」
妻木範熈「そこを付け入れば、勝てると見ておるのじゃな」
光泰 「毛利は、当主の叔父等の権力が強すぎて、
仲を切り裂くか、叔父等と和議を結べば戦わずに、
織田家に下りましょう」
妻木範熈「そう、上手く行くかのう」
光泰 「戦わずに勝つは、兵法の基本で御座います。
それに、初陣もまだな子供の戯言、机上の空論で御座います」
妻木範熈「ハハハ、机上の空論か。しかし大した見立てじゃ」
範熈祖父さんは、孫に甘いようだ。
光泰 「では、見回りに参ります。茂兵衛、権兵衛、走るぞ」
坂本城の城壁の側を一周走った。
最初に一の丸を周り、二の丸、三の丸と走る。
三の丸は、僕が亀山城に居た時に拡張された外壁だ。
外壁は城を全部囲んではいない。
半分は琵琶湖に面しており、凹状に走る形になる。
光泰 「おぬし達も、多少は慣れたか?」
茂兵衛 「最初、手と足を逆に出すは難がしく、
慣れるのに手間が掛かりましたが、
今では、こちらの方が早う走れまする」
光泰 「権兵衛は、すぐ出来たからのう」
権兵衛 「走るのは昔から得意でございます」
茂兵衛 「逃げ足の間違いであろう」
権兵衛は足が早かった。
よくイタズラをして、母親に怒られたから、
逃げ足が早くなったそうだ。
茂兵衛は真面目だけで、未だに特技が見いだせない。
ランニングが終わった後、城に来客が現れた。
門番 「天台宗の僧のようですが、いつもの様に追い返しますか?」
光泰 「またか、熱心じゃのう」
坂本城の西、比叡山延暦寺は天台宗の本山で、真面目な僧が時折、
復興を嘆願しに来ていた。
トップである延暦寺は、織田家と敵対して、私生活では堕落していたが、
地方の僧は真面目な者が結構いる。
おそらく、堕落した僧達と距離を置いていたか、
地方に左遷されていたかの、どちらかだろう。
光泰 「何人で来ておる」
門番 「それが、一人で御座います」
一人?それは可怪しい。戦国時代の僧は、偉そうにしていて
自分の家来のように、身分の低い僧を連れて歩くのが一般的だ。
光泰 「面白い、会ってやるから、庭に通せ」
庭で会うのは、意地悪でしている訳ではない。
城の中で、謁見するのはそれなりの身分が必要である。
武士なら侍大将以上、僧なら大きな寺の住職以上である。
(注:城によって様々です)
光泰 「面を上げよ」
歳は三十ぐらいか?坊主は歳が解りづらい。
天海?「善光寺の僧、天海で御座います」
?!天海だと・・ちょっと待て・・ヤバイ人が来たよ。
あの天海か?出て来るの早すぎないか?
明智光秀同一人物説が有る人だよ。胡散臭いけど。
光泰 「天海とやら今日は、なにようじゃ」
天海?「明智様に、延暦寺復興の嘆願に参りまして御座います」
光泰 「残念じゃが、まだ父上はここに戻ってはおらぬ」
明智光秀はまだ、安土城にいる。
天海?「左様で御座いますか。ではまた改めてお尋ね致します」
この人があの南海坊天海なら、徳川家康と仲介に利用出来ないかな。
光泰 「善光寺はどこの寺じゃ?」
天海?「甲斐の國で御座います」
茂兵衛と権兵衛が身構えた。この人、大胆だな。
今、甲斐から来たと言えば、敵と思われても仕方がないだろ。
光泰 「では、織田家に恨みが有るのう」
天海?「いえ、御座いませぬ。比叡山の掃除をして戴き、感謝しております」
延暦寺と対立が合ったのかな。無理もないか。
僧が武器を持っているのは、金儲けの為に人を殺し葬式を出させる
自作自演の様なものだからな。
色々ぶっちゃけるかも、何か面白い事を聞けないかな。
光泰 「ちと尋ねるが、寺の普請の銭は、誰が払うのじゃ」
天海?「信者達の寄進で賄いまする」
光泰 「自ら、稼がぬのか?」
天海?「出家した者は、贅沢をしては為りません。
托鉢で命を繋ぎ、人々を救うのが僧の役割で御座います」
光泰 「しかし、延暦寺の僧は違ったようじゃがのう」
天海?「嘆かわしい事で、心ある者は何度も戒めたのですが、
実家の威光を笠に着て、好き勝手な事ばかり申しておりました」
寺の僧には身分が有る。実家の位によって出世したり、
新しく寺を立てて、住職に成ったりする。
光泰 「僧の評判はかなり悪かろうて、そう簡単に復興出来ぬであろう
自ら稼げば、誰も文句は言わぬであろうに」
天海?「売僧に成るしか、稼ぐ方法は御座いませぬが」
売僧とは、物を高く売り利益を儲ける、悪徳僧である。
現代では、多くの宗教家が当てはまる。
光泰 「折角、寺の土地と僧が居るのじゃ。
良い銭儲けの方法が、有るのじゃがのう」
妻木範熈「どの様な方法が有るのかのう」
祖父さんが、いつの間にか現れた。
光泰 「御祖父様、何時から聞いておりましたか?」
妻木範熈「善光寺の場所を尋ねた所からじゃ」
結構、最初から聞いていた。危ない、危ない。
変な事言わなくて、良かった。
光泰 「聞き耳を立てずとも、側に来てくれても宜しいですのに」
妻木範熈「なにやら、面白い話が聞けると思うてな。
して、どの様に儲けるのじゃ」
光泰 「本を作るのです」
妻木範熈「本?あれは一つ一つ、写さねばならぬから
手間がかかるぞ」
光泰 「簡単に写す方法が、いくらかあります」
妻木範熈「それは、どの様な方法じゃ」
光泰 「文字を一つ一つ分けた印を作り、文になるよう
組み合わせ、紙に押し当てるのです。
文字印は、何度も使い回せますので、様々な本が作れます」
妻木範熈「それなら安く作れるのう」
光泰 「しかし、漢字は多いので管理が難がしく、平仮名や片仮名
でしか使いこなせないでしょう」
妻木範熈「漢詩などは、無理なのじゃな」
光泰 「漢字の多い本なら、木に文字を掘り、土に押し込み
土型を作り、鉛を流し、文字型を作ります。
あとは墨を塗り、紙に写せば完成します」
妻木範熈「その方法なら、沢山作れるかのう」
光泰 「費用が、かさみますので、大量に売れる物にしか使えませぬ」
妻木範熈「大量に売れる本のう。思いつかぬ」
光泰 「他にも紙に文字に添って針穴を空け、穴から墨が落ちるのを
利用して写す方法もありますが・・・」
妻木範熈「早くに出来そうじゃが、問題があるのか?」
光泰 「何度も使えませぬので、作れる品数が少ないのです」
妻木範熈「どの様な方法でも、欠点は有るものじゃ。
使い分ければ良い」
光泰 「なので、寺で作るのには、鉛の文字型が適していると
思われます」
妻木範熈「他の方法は、駄目なのか?」
光泰 「他のは、別に寺でなくても作れます。
鉛の文字型を置く場所が要りますので、広い寺が必要なのです」
妻木範熈「城では作らぬのか?」
光泰 「父上は、物売りをしようとは致しませぬ」
妻木範熈「光秀殿は、頭が硬いからのう」
頭はハゲてるだけでは無かったか。
光泰 「それで、天海とやら、やってみる気は無いかのう」
天海? 「私の一存では決めかねまする」
光泰 「そうか。やりたくなったら、また訪ねてくるが良い、詳しく教えよう。
寺の普請を人に頼っていては、何時迄たっても出来ぬであろうからな」
人の財布を当てにする奴は、碌な者がいない。僕の座右の銘にしよう。
光泰 「ところでこの後、徳川殿の下には行かぬのか」
天海? 「徳川様の所で御座いますか?」
あれ?まだ面識無いのかな?
光泰 「もし向かわれるのであれば、文を届けて欲しいのじゃ」
天海? 「畏まりました、徳川様にお届け致します」
徳川家康に直接手紙を出すのは、失礼かもしれない。
光泰 「徳川殿では無い。服部半蔵殿に届けてほしいのじゃ」
天海? 「服部半蔵様で御座いますか?」
光泰 「ちょいとのう、仲介を頼みたいのじゃ。中身は教えられぬがのう」
天海? 「はあ、お安い御用で御座います」
服部半蔵に手紙を書いた。
別に、誰に読まれても困らないように、内容を
{もうすぐ貴方様は、伊賀の知識で徳川様を助ける事に成られるだろう。
詳しく聴きたいなら、忍びの者を寄越してほしい。
私も忍びの家臣が欲しい。紹介してくれたら有り難い。}
よし、これなら例え明智光秀にバレても、
忍びを使って金儲けをしようとしていると言える。
本当は、服部半蔵に本能寺の変を一部分だけ教え、
徳川家康に恩を売る為だが、上手く行かなくても大丈夫。
なにもしなくても助かるし。むしろ助けてほしい。
光泰 「では頼んだぞ」
天海は帰っていった。
妻木範熈「なんと書いたのですかな?」
光泰 「伊賀の忍びが、今どのように動いているか知りたいのです」
天正伊賀の乱が終決して、忍びが何処にいるのかよく解らなかった。
もし、雇えれば色々役に立つはずなのに。
信長の次男、織田信意(のちの信雄)め、余計な事をしてくれるよ。
僕も次男だが大違いだ(笑)。
徳川家康「して、どうであった」
服部正成「坂本に流れておりました」
徳川家康「明智の謀略と考えるべきかのう」
服部正成「私の所に、明智の次男から文が届きましてございます」
徳川家康「おぬしにか?忍びの者と気付かれたか?」
服部正成「いえ、忍びを紹介してほしいようです」
徳川家康「見せてみよ・・・なんじゃこの文は、
わしを助けるとは、どういう意味じゃ」
服部正成「忍びの者を、勘違いしているのでは無いかと思われます」
徳川家康「確か、十二歳の子供であったな」
服部正成「評判がよろしく無く、妙な菓子や玩具ばかり作る
変わり者と聞き及んでおりまする」
徳川家康「してどうするか。忍びを向かわせてみるか」
服部正成「新参者が居ますので、一人位ならすぐにでも向かわせられますが」
徳川家康「安土に向かう際に、連れていけ」
服部正成「畏まりました。あと、新しき本を考えているようで御座います」
徳川家康「本?小難しい物を作りそうじゃのう」
服部正成「完成するのはまだ先かと思われます」
徳川家康「本当に明智の子か?奇抜な考えをする男ではないぞ」
服部正成「鳶が鷹を生まず、孔雀を生んだようでございます」
徳川家康「例えが下手くそじゃな」
間違い探しをして下さい。
嘘だらけの小説です。




