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59 光泰 監視を付けられる

四月二十一日、東の甲斐方面(山梨県)に遠征していた、明智軍が帰ってきた。

また坂本城に一泊して、各地へ帰るそうだ。

明智光秀は安土城に留まり、事後処理をいているそうだ。


光泰  「長岡殿は、おらぬな」

明智秀満「安土城に留まっております」


長岡忠興に、また絡まれると面倒くさい。


光秀に変わって、兵達を連れて帰ってきたのは、

領地防衛を務めてる、明智光忠以外の家老達である。


藤田行政「妻木殿、こちらに御座います」


妻木?母親、煕子の親戚かな。


妻木??「吉寿丸、久し振りじゃのう、げんきだったか」


誰だ、この爺さんは?僕の幼名、吉寿丸を呼び捨てに出来る人物といえば、

馴れ馴れしい態度から判断すると、煕子の父親、

つま木勘解由左衛きかげいゆざえ門範熈もんのりてる、僕の祖父に当たる人かな?

(注:勘解由は官位です。自称の可能性有り)


光泰  「御祖父おじじ様、どうしてこちらに居られるのですか?」

妻木範熈「光秀殿に、頼まれてのう」    


頼まれた?明智光秀が、余計な事を言ったのか?


光泰  「父上に、何を頼まれたのですか?」

妻木範熈「吉寿丸の、補佐をしてくれと頼まれてのう」


やられた!!祖父じいさんを監視に、寄越すとは考えたな。

これでは、拒否出来ない。

監視しないと行けないのは、明智光秀の方なのに。


光泰  「城のお勤めは、宜しいのですか?」

妻木範熈「年寄りが出しゃばっては、貞徳殿がやり難いからのう。

     兄上も隠居したし、ここが潮時じゃ」


貞徳とは、妻木城城主で妻木源二郎貞徳の事である。

僕との関係は、母親の父の兄の息子、つまり血縁関係は薄い。

兄上とは、妻木藤左衛門広忠、元妻木城城主で、僕の大伯父にあたる人である。

妻木城は美濃にあり、妻木家は織田家の直臣で、明智家の親戚扱いだ。

広忠の子供が、貞徳で孫が頼忠か・・貞徳だけ名前に統一感が無いな。

もしかして庶子なのかな?


光泰  「御祖父おじじ様は、隠居なされたのですか?」

妻木範熈「そのつもりじゃったのだが、光秀殿が吉寿丸が悪さばかりするので、

     心配して傅役の代わりをしてくれぬかと、言われてのう」


悪さするのは、明智光秀ですよ。


光泰  「傅役は、森殿が努めておりますが?」

妻木範熈「隠居したのであろう?」


しまった!!爺を隠居させなければよかった。

この祖父じいさん、まだ元気そうだ。正直言って、明智光秀より若く見える。


光泰  「悪さなど、しておりませぬ。

     少しだけ変わった物を、作っておるだけでございます」

妻木範熈「ほほう、ではこの祖父じじ様に、見せてくれるかのう」

光泰  「茂兵衛、部屋から髑髏どくろの書かれたひつ(箱)を持ってまいれ」

茂兵衛 「楽の字のひつはよろしいのですか?」

光泰  「余計な事を申すな。あれは、わしが作ったものでは無い」

茂兵衛 「畏まりました」


髑髏の絵の箱には、オセロや髪飾りなどの、失敗作が入っている。

楽の字の箱は、ただの玩具箱だ。見せても良いが、今後期待されても困る。

現在、僕の発案した(注:パクった)玩具は、発明者を知っている者は、

焼き物屋店主だけである。

僕は、ただのお客さんで、試作品の改良点をアドバイスしているだけだと、

言う事にしてある。


茂兵衛 「お持ちいたしました」

光泰  「期待しないでくださいませ。恥ずかしい失敗作ですよ」

妻木範熈「これは碁か?」


祖父じいさんに、最初に見せたのはオセロだ。


光泰  「囲んだら石を取るのではなく、挟みましたなら石をひっくり返して、

     陣地を増やす碁にございます」

妻木範熈「ほう、簡単な碁じゃな。なぜ、失敗作なのじゃ?」

光泰  「してみれば解ります」


妻木範熈とオセロをしてみた。


妻木範熈「これでは、わしが簡単に勝ってしまうが、手加減しておるのか?」

光泰  「勝負は、最後まで油断しては成りませぬ」


終盤で、勝敗はひっくり返った。


妻木範熈「全然、取れぬではないか」

光泰  「最初に取り過ぎると、守りが手薄になり、

     終盤で、ひっくり変えるので御座います」

妻木範熈「成る程、戦でも城を取りすぎると、

     他の敵に隙を突かれる事が、有り得るからのう」

光泰  「それに、今迄の織田様を暗示しているようで、

     不吉であると思いませぬか?」

妻木範熈「これ!滅多な事を、申すでない。確かに不吉じゃが・・」

光泰  「なので、世には出さぬようしております」

妻木範熈「その方が良い。このような物で、疑われてはかなわぬ」


このような物か・・出したら大ヒットするのに。


次は、髪飾りを見せた。

妻木範熈「これは飾りか?」

光泰  「女子おなごの髪を、束ねる紐に付ける飾りなのですが、

     私には好みが解らず、売れなかった物でございます」

妻木範熈「わしにも、解らぬ」


そりゃそうだ。解るとは、期待していない。


次は、静電気発生装置を見せた。

光泰  「これは父上に、危ないので禁止された物です」

妻木範熈「こんな小さい物が、危ないのか?」

光泰  「ここを押すと、この銅線から小さい雷が出るのです」

妻木範熈「噂では聞いておったが、誠に作っておったとは驚いたのう」

光泰  「大した物では、ございませぬ。体に、害はありませぬ」

妻木範熈「しかし、雷は恐ろしい物ぞ」

光泰  「茂兵衛、手を出せ。御祖父おじじ様に効力を見せたい」

茂兵衛 「それは御勘弁下せれ。恐ろしゅうてなりませぬ」

光泰  「仕方ないのう、少し部屋を暗くせよ。

     私が試して、雷を見せましょう」

妻木範熈「大丈夫なのか?」

光泰  「何度も試しているので、大丈夫です。

     一瞬ですので、見逃さないで下さいませ」

権兵衛 「私が代わりに、お請け致します」

光泰  「そうか、よう言うた」


茂兵衛は今迄、荷物運び以外に、役にたった事はない。

能力が平凡で、真面目なだけが取り柄だ。

権兵衛は今日、始めて役にたった。

静電気なのは解っているが、使用するには躊躇する。

痛いのは嫌だからな。


権兵衛 「どうぞお試し下され」

バッチン!!

妻木範熈「光ったのう、それが雷か?」

光泰  「糸屑ほどの雷でございますので、少し痛いだけで御座います」

権兵衛 「はい、これ如き、痛くございませぬ」


権兵衛は涙目になっていた。

ごめんよ、後で褒美に菓子をあげるからね。


妻木範熈「良く思いついたのう」

光泰  「雷様は、太鼓を叩いて、雷を起こします。

     しかし、人が叩いても、雷は起きませぬ。

     雷様の太鼓は、皮では無く鉄の太鼓ではないかと考え、

     試しに作ってみたら、成功致しました」

妻木範熈「流石は、わしの孫じゃ。知恵が回るのう」


妻木範熈は、妻木広忠の文官である。

おもに妻木城の書類管理などをしていたそうだ。

(注:家臣証言)


光泰  「私は御祖父おじじ様のように、兄上をお助けしとう御座います」

妻木範熈「千代寿丸より、賢そうじゃがのう」

光泰  「武芸で、兄上には敵いませぬ」

妻木範熈「兄を気遣うとは、立派に育ったのう」


光泰  「私より、叔父上達に会いに行かれてはどうですか」

妻木範熈「光秀殿が帰城したら、会いに行くかのう」


妻木範熈の子供で、僕の叔父達は、明智光秀の家臣になっている。

簡単に説明すると、

長男、妻木 主計頭範賢 秀満の部下 (財務文官、調略にも活躍)

次男、妻木忠左衛門範武 光忠の部下 (武官)

三男、妻木七右衛門範之 亀山城留守居(警備担当トップ、新任)

名前に統一感が有る。実に解りやすい。


三人と会った事はあるが、挨拶をしただけで、会話はしていない。

しかも、重要なポジションに就いているわけではないので、

率先してなにかしようと思ったことがない。


あともう一人、叔母がいた。

人質として織田信長の側室になった、芳子がいたが、

一年半前ぐらいに、病死したそうだ。

僕が城の者に、流行病防止を徹底した時に亡くなっていた。

会った事は無いが、あの時もしかしたら、助けられたのではないかと

少し後悔した。

明智光秀が、予防策を広めてくれたら、良かったのだが。


妻木範熈「どうかしたか?」

光泰  「母上の事を、思い出していました」

妻木範熈「吉寿丸はまだ小さかったからのう。

     どれ、煕子の話をしてやるか」


その後、明智光秀と煕子の婚約した時、アバター顔の姉より

美人の妹と結婚させようとしたら、光秀が顔で選ばなかった話や、

貧乏な時代に、煕子が髪の毛を売って、お金を工面した話などしてくれた。


僕は、感動する良い話より、光秀の弱みを聞きたいのだが、

話してくれなかった。


妻木範熈「吉寿丸、光秀殿や煕子は、素晴らしいじゃろう」


あ!お祖父さんに、僕の名前を訂正するのを忘れていた。

まあいいか、面倒だし別に問題ないからな。

(注:まだ、痘痕の意味を知りません)

広忠と範熈は、同一人物説がありますが、

子供の名前の都合上、別人説を取らせて頂きます。

明智家の周りは、同一人物説が多すぎます。

誰だ、勝手な説を唱えているのは。

正確な情報を判断しにくいぞ。

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