58 光泰 嚇す
三月、明智光秀と兵五千人が、坂本城にやって来た。
武田家を、完全に滅ぼすのを見届ける、織田信長の護衛役らしい。
つまり、この兵達は戦闘には加わらず、降伏した武将を脅し
織田家の力を、見せ付ける為のものだ。
少しは、残党狩りをするかもしれないが。
光泰 「油断しておるのう」
茂兵衛「仕方がございませぬ。武田は滅んだのも当然ですから」
諸将や兵達は、遠足に行く子供のように、緊張感の無い顔をしていた。
光泰 「少し、活を入れるかのう」
権兵衛「なにか、面白い事をなさるので」
光泰 「飯に細工をするかのう」
身分の高い、指揮官以上の武士は、台所で別メニューを作っている。
こちらのご飯に、入れるのは止めておこう。
怒られるのが、オチだからな。
光泰 「飯の支度は、雑兵にやらせていたな?」
茂兵衛「数が多いですから、二の丸で作るそうです」
唐辛子を収穫して、一年が過ぎていた。
いくら乾燥させていても、賞味期限はやってくる。
古い唐辛子など、食べたくないので、ここで使ってしまおう。
兵達の食事支度をしている、二の丸に向かった。
光泰 「そこの者、飯が旨く成る、胡椒を持ってきた。
皆に、振る舞えるようにしたい」
雑兵 「そのような貴重な品、宜しいのですか?」
光泰 「構わぬ。わしからの褒美じゃ」
雑兵 「有り難きお言葉。皆、喜びましょう」
ご飯を取りに来た、雑兵達を並ばせた。
光泰 「良く混ぜるのだぞ」
雑兵達のご飯の中に、唐辛子を少しずつ、かけていった。
雑兵A「これは、何じゃろう」
雑兵B「胡椒らしいぞ」
雑兵C「なに、金より高いと、聞いた事があるぞ」
雑兵D「そんな高価な物、わしらに馳走するとは驚きじゃ」
雑兵E「明智家は、太っ腹じゃのう」
雑兵F「どれ、食ってみるか」
雑兵達は、唐辛子入りご飯を食べた。
雑兵達一同「「「「「辛えーーーーーーー」」」」」
初めて食べる唐辛子の味は、雑兵達には新鮮で辛すぎた。
断っておくが、大した量は入れてない。
光泰 「驚いたか」
雑兵A「飯が辛うて食べられませぬ」
光泰 「味噌汁を飲め、辛味が収まるぞ」
雑兵達は、味噌汁を飲み落ち着いた様子だ。
光泰 「良いか、皆の者。おぬしらはこれから、戦に行くのであろう。
なのに、その腑抜けた顔はどうじゃ。油断するで無い。!!
敵は窮地に陥った時、何をするか解らぬぞ!!!!!!」
???「ほほう、ではこの騒ぎは、皆に注意を怠らぬよう
わざと仕掛けたのじゃな」
顔に、大きなキズの有る、若い武士がやって来た。
光泰 「見ておいででしたか」
???「十次郎殿は、噂どおり面白い物をお持ちのようじゃのう」
この人、誰だったかな。合ったことあるはずなのだが。
姉の結婚式ぐらいしか、明智家以外の武士には会っていないはずだ」
光泰 「お久しゅうございます。姉上の婚儀以来ですかな」
???「そうじゃのう。珠も元気にしておるぞ」
珠子姉さんの夫で、長岡(細川)忠興だった。
光泰 「長岡殿に、お恥ずかしい所を見られましたな」
長岡忠興「十次郎殿の言う通りじゃ。良いか皆の者、
もし上様(織田信長)になにか合った時は、
無事に帰れるとは、思うでないぞ!!!
わしが、みずから仕置(刑罰)すると心得よ!!」
光泰 「私が言おうとした事、先に言わないでくださいませ」
兵達の前だと、まともな人なのかな。
家庭に帰ると、モラハラ男になるのか。
人は、見かけによらないな。
長岡忠興「わしにも、それを食わせろ」
光泰 「辛いので、お気を付けくださいませ」
長岡忠興「刺激が合って、美味いではないか」
もしかして、辛党なのかな?
長岡忠興「これは、目が覚めるのう」
光泰 「目に入れたら、悶え苦しむほど痛いそうです」
長岡忠興「戦に使えるかのう」
やはりこの人、モラハラ男だ。
光泰 「砂の方が、安上がりです」
長岡忠興「ハハハ確かに。流石、明智殿の子じゃ。
どうじゃ、この後手合わせぬか」
うわー面倒くさい。光慶が憧れていたから
そちらに向かわせよう。(光慶は坂本城にいません)
光泰 「私は、武芸が苦手でございます。
帰りに亀山城で、兄上とお相手してくださいませ」
長岡忠興「なら、角力でも良いぞ」
長岡忠興は着物を脱ぎだした。この人、体にも傷が有るよ。
跡取りが前線に出るのは、良くないはずなのに。
光泰 「相撲はした事、ございませぬので、少々変わった技を、
致しますがよろしいですか?」
長岡忠興「構わぬ。かかってきなさい」
雑兵達が、土俵を地面に書き始めた。
僕が準備をしている間に、雑兵達や諸将が見物に集まってきた。
明智光秀「これは、何の騒ぎじゃ?」
斎藤利三「長岡殿と十次郎様が、角力と取るそうでございます」
明智光秀「十次郎は、いつも騒ぎの中にいるのう」
斎藤利三「しかし、十次郎様がお勝ちになれば、
長岡殿も大人しくなるのでは無いでしょうか」
明智光秀「勝てぬであろう」
聞こえているよ。そんな事、当然解っているよ。
長岡忠興は僕より、年の差が八才も上だよ。
いくら僕が身長が平均より高くても、体格差が有りすぎる。
長岡忠興「始めるぞ」
光泰 「お願い致します」
僕はちゃんと、四股を踏み両手を拳にして、土俵の真ん中で手をついた。
長岡忠興は、良く解らない構えをしている。
雑兵C「なんじゃ、あの構えは?」
雑兵D「若様は、角力を知らないそうじゃ」
雑兵E「それでは、長岡様の勝ちかのう」
ふんどし姿は恥ずかしいので、早く終わろう。
雑兵F「ハッケヨイ、ノコッタ」
{{バチーーーン}}
僕は、長岡忠興の目の前で、手を叩いた。
驚いて、一瞬目を瞑った。
すかさず右足の膝を掴んで持ち上げた。
バランスを崩した、長岡忠興は後ろに倒れた。
雑兵達「「「ざわ・・・ざわ・・・」」」
明智光秀「十次郎が勝ったのか?」
斎藤利三「よく解りませぬが、勝ったかと思われます」
長岡忠興「それは、卑怯であろう」
光泰 「変わった技を使用したまででございます。
戦に、卑怯もクソもございませぬ」
相撲の技”猫騙し”は、まだ無かったのか。
明智光秀「何をしたか、説明せよ」
光泰 「相撲を始まってすぐに、目の前で手を叩き驚かせ、
怯んだすきに、足を持ち上げただけでございます」
明智光秀「角力とは神事でもある。
あまり卑怯な手は、使うものではない」
光泰 「ご安心してください。二度目は、効果が有りませぬ。
油断した者にしか効きませぬ」
猫騙しは、乱発するものではない。
長岡忠興「確かに、わしは油断しておった」
光泰 「お気をつけくだされ。戦は何が起きるか解りませぬ。
武田も浅間山が噴火するとは、
思ってもいなかったでしょうから」
長岡忠興「そうじゃ、気を付けるかのう」
光泰 「父上も油断なされませぬように。
どうですか?南蛮胡椒を食べてみては。
目が覚めますよ」
明智光秀「余計なお世話じゃ」
長岡忠興「なんと頼もしい、明智殿も安泰ですな」
明智光秀は、口をへの字して去っていった。
雑兵I「ヘマをしたら、目を潰されるらしいぞ」
雑兵J「長岡様が、恐ろしき笑みを浮かべておったのう」
雑兵K「あの胡椒、また食えぬかのう」
雑兵L「物好きじゃのう。わしは嫌じゃ」
雑兵M「それより、明智のご嫡男は噂通り、恐ろしき人じゃ」
雑兵o「あの胡椒は、火山の噴火で出来るそうじゃ」
雑兵P「もしや、浅間山を噴火させたのは若様では?」
その後、明智光秀の軍勢は、一糸乱れぬ行軍をしていった。
それを見た町民達は、
「流石、明智様の軍勢じゃ。他の武家とは違う」と
口にしていった。
光泰が余計な事をしたとは、殆どの者が知らなかった。
忠興の傷は、右の額に有ります。
鼻の傷は、まだです。




