54 光泰 城代になる
元服して最初の仕事は、引っ越しだった。
爺は、去年の十二月二十五日に、隠居して坂本に帰っている。
茂兵衛「甲冑は、誰が持ちますか?」
権兵衛「わしが持ちまする」
光泰 「盾は、棒を取り外して持つのじゃぞ」
茂兵衛「着物はどう致しましょうか?」
光泰 「蛇柄(迷彩柄)で向かうから、それ以外の物は、
小間使い達に運ばせよ」
前回は爺がやってくれたのだが、今回は僕が指示しなくてはならない。
光泰 「準備は終わったな」
二年間の亀山城の生活は終わった。
光泰 「乙寿丸、元気にしておるのだそ」
小次郎「兄上、小次郎でございます。覚えて下さいませ」
乙寿丸もとい小次郎は、すくすく成長している。
光泰 「皆に、迷惑をかけぬようにするのだそ」
小次郎「兄上も、初菊を困らせる事をしませぬように致しませ」
初菊は、僕の婚約者候補になった。
光慶の婚約者が決まれば、すぐに結婚できるが
それまで待てないとごねた結果、二年後無条件で結婚出来る事になった。
決められないのは、明智光秀の責任だからね。
元々、身分の低い武士の娘として育てられた初菊は、
斎藤利三の養女になり、花嫁修業で坂本城に住むことになる。
光泰 「安心いたせ。大事にするからのう、初菊♥」
小次郎「嫌になったら、いつでも戻って来るのだぞ」
初菊 「小次郎様、お心遣い感謝いたします」
なんだか初菊の保護者が、小次郎になっているような気がする。
光泰 「そういえば、武市半兵衛太郎は、どうするのじゃ。
挨拶したいのじゃが」
初菊 「叔父は、坂本城にいますので、後でご挨拶にいきましょう」
初菊の育ての親である、武市半兵衛太郎に合った事があるらしが、
誰だか解らない。(1578年編の家臣の誰かです)
亀山城を出発して、一日がかりで坂本城に向かった。
前回は、京の都に一泊したが、今回は小次郎や京子姉さんが居ないので、
素通りする。
主要な同行者は、明智光秀と光慶と溝尾茂朝。
この三人は、坂本城についた後、僕と一緒に安土城に向かう。
溝尾茂朝は護衛役で、光慶は安土城の内部を覚えさす為、
明智光秀は、僕が織田信長と会うための、引率である。
近習の茂兵衛と権兵衛は、僕の左右にいる。
初菊は、僕の後ろを歩いている。
光泰 「初菊、疲れてはいないか?」
初菊 「大丈夫でございます」
僕は馬に乗っているが、初菊を乗せてはいけないらしい。
女の子が乗るのは、はしたないそうだ。
時代劇だと馬に乗っている女の人がいるが、
だいたい、身分の高いお転婆の姫である。
夕方に成る頃、坂本城についた。
光泰 「坂本城よ、私は帰ってきた」
光慶 「当たり前の事を叫んでどうする」
光慶は、ロマンが足りない。
僕は二年前まで住んでいた、元いた部屋に戻った。
光泰 「懐かしのう、初菊は姉上のいた部屋に住むのじゃな」
初菊 「なんだか畏れ多いのですが」
光泰 「気にするな。それより疲れたであろう、
揉んでやるから足を出せ」
初菊 「疲れておりませぬから、ご遠慮いたします」
光泰 「そうか、無理するでないぞ」
今回も、初菊の足を触れなかった。
ああ、早く揉みたい。
権兵衛「私は疲れました」
茂兵衛「こら、何を言っておる」
光泰 「どれ、揉んでやろうか?」
権兵衛「え!!」
茂兵衛「ボスがしては、なりませぬ」
光泰 「そうかのう、爺にはよくしてやったのじゃがのう」
茂兵衛「え!!」
僕は、皆に優しくするのがモットーだ。
モットーは英語だったのね、爺に伝わらなかったよ。
初菊 「ボスとは、なんで御座いますか?」
光泰 「わしの事を、そう呼ばせているのじゃ。
初菊は、愛しの十次郎様と呼んでもいいぞ?」
初菊 「恥ずかしい上に、長うございます」
光泰 「では、ダーリンと呼ぶか」
初菊 「?意味が解りませぬが?」
光泰 「南蛮人の女子が、夫をそう呼ぶそうじゃ」
初菊 「いままでどおり、十次郎様と呼ばさせてくださいませ」
光泰 「遠慮しなくてもよいのに」
権兵衛「私は、遠慮など致しませぬ」
茂兵衛「では、わしが代わりに揉んでやろう」
権兵衛「痛い痛い、強すぎるぞ!」
茂兵衛は権兵衛の足を、思いっきり揉んでいた。
光泰 「二人共、仲が良いのう」
明日は、安土城に向かう。
本物の織田信長の顔が拝めるとは、去年まで思わなかった。
果たして、僕の作りしスイーツの評価は、どうなるのか。
光泰 「楽しみじゃのう」
権兵衛「茂兵衛に揉まれても、楽しくありませぬ」
茂兵衛「次は、左の足じゃ」
初菊 「この二人、近習ですよね?」
やっぱり初菊も解るよね。
どうやら、僕の近習は変わり者のようだ。




