39 十次郎 暴走する
流行り病の話を聞いた。
爺 「京の都でも流行り始めたと聞き及びましたぞ」
十次郎「対策を取らねばな」
現在、亀山城の城代(お留守番の責任者)は明智秀満が務めている。
本当は、隠岐惟恒(十五郎の傅役)が城代なのだが、年寄り過ぎて
支障をきたす為、明智秀満が代理で仕切っていた。
十次郎 「弥平次(明智秀満)殿、流行り病の対策はどうしておる」
明智秀満「病に罹りました者は、離れ(城の端っこ)に
隔離する手筈になっておりまする」
十次郎 「それだけか?」
明智秀満「後は、神仏を拝むか、薬を飲ませるくらいしかありませぬが、
量も少ない為、家臣達には飲ませられませぬ」
これでは、流行るはずだ。現代知識を使うか。
風邪なら、ビタミンCだったな。柑橘系の果物を取り寄せるか。
南蛮のやり方だといえば納得するか?
いや、信用しないな。
十次郎 「では、わしの考えた対策で防ぐとするか」
明智秀満「対策がお有りですか?」
十次郎 「手洗いと、嗽を徹底させる」
明智秀満「効果が有るのですか?」
十次郎 「嗽は解らぬが、手洗いは効果がある
爺で試してある」
爺とは普段から、手洗いを一緒にしていた。
嗽は下手で出来なかった。
石鹸は無いので、油と灰と米のとぎ汁と牛乳を混ぜた物を使う。
効果は解らない。
十次郎 「後は、口を覆う布を付けさせる」
口を覆う布とは、マスクの事である。
腕と同じ長さの布を、三角に折り曲げ、後ろで結ぶ。
明智秀満「口を覆う布とは、一体何でございましょう?」
十次郎 「流行り病とは、口から入ってくる物じゃ。
それを防ぐには、塞いで唾が飛ばぬようにするのじゃ」
明智秀満「病に罹った者に付けさせれば、よろしいのですね」
十次郎 「いや、無理をしている者も居るやもしれぬ。
城の者、全員に付けさせよ」
明智秀満「全員でございますか?」
十次郎 「一人残らずじゃ」
それから、家臣達を庭に集めた。
家臣Ω 「病に罹ておらぬ者もで、ございますか?」
十次郎 「不服か?」
家臣Ω 「いえ、そのようなございませぬ」
十次郎 「よいか、守らる者は、南蛮胡椒(唐辛子)と雷(静電気)を
食らわすぞ」
家臣達 「ざわ・・ざわ・・」
明智秀満「罰を与えるのですか?」
十次郎 「南蛮胡椒を食えば、嗽をするじゃろう」
明智秀満「強制では、ございますが」
十次郎 「雷で火傷をすると脅しておれば、手洗いをするじゃろう」
明智秀満「しかし、納得しますでしょうか?」
たしかに家臣達は、納得していないな。
誰かに演技をしてもらって、脅してみるか。
にぶそうな家臣を発見した。
十次郎 「おぬしに、頼みが有る」
家臣γ 「何でございましょう」
十次郎 「耳をかせ。(ゴニョゴニョゴニョ)」
家臣達を並ばせ、手洗いと嗽を実行させた。
十次郎 「おぬし、嗽をしなかったな」
家臣γ 「お許しくださいませ」
十次郎 「ならぬ、食べよ」
家臣γ 「うぎぁぁぁ!!!死ぬ、死ぬ、水、水ぅ」
十次郎 「ほれ、ここにあるぞ、よく嗽をするのじゃ」
家臣γ 「ガラガラガラ、ペッ」
十次郎 「よく出来たのう、美味かったであろう(笑)」
家臣達 「(鬼じゃ)」
にぶそうな家臣は、過剰な演技で皆を騙した。
後で、褒美をやろう。
十五郎 「なにをしておる」
十次郎 「病を防ぐ対策を行っておるのです。
兄上にもしてもらいます」
十五郎 「わしは、元気じゃ」
十次郎 「明智家の跡取りとして、
皆の、手本に成って貰います」
十五郎 「しかし、わしにも威厳という物が・・・」
十次郎 「そのような物、まだ在りませぬ。
しなければ、南蛮胡椒と雷を食らわせます」
十五郎 「待て、わしはおぬしの兄じゃぞ」
十次郎 「ならばこそ、出来るでしょう」
(注:家臣達には、あまり聞こえていません)
家臣D 「流石、明智家の跡取りじゃ、弟にも容赦がない」
家臣E 「そうじゃのう、御家も安泰じゃ」
家臣F 「(あれ、十五郎様が兄では無かったか?)」
(注:十次郎達には、まったく聞こえていません)
明智光秀「これは、一体なんの騒ぎじゃ」
仕事が終わった明智光秀が、城に帰ってきた。
十次郎 「病から身を守る為の、対策を行っているのです」
明智光秀「なぜ、おぬしが指示をしておる」
十次郎 「なにもせぬのは、阿呆でございます」
明智光秀「皆にも、しておるのか?」
十次郎 「父上にも、布を付けて貰います。
手洗いと嗽も、して下さいませ」
明智光秀「わしは付けぬぞ。みっともない」
十次郎 「せぬのなら、南蛮胡椒と雷を食べてもらいます」
明智光秀「わしを脅す気か!!」
僕は、ニッコリ笑い、
十次郎 「人聞きの悪い、死にはしませぬ(残念ながら)」
明智光秀「・・・・(絶句)」
十次郎 「私は、監視に参ります」
家臣達 「(殿にまで・・・鬼神じゃ)」
明智光秀「十次郎は、いつもこうなのか?」
爺 「若様は、殿の体を思んじておるのでございます」
明智光秀「しかしだな・・」
爺 「若様は、皆に優しく知識に優れ、
御家の事を、常に考えておりまする」
明智光秀「褒めすぎではないか」
爺 「若様は申しておりました。
殿は、いつもお疲れのご様子、早く安心出来るように、
お支えしたいと申しておりましたぞ」
明智光秀「そうか」
その後、流行り病が世間で治まるまで監視した。
十次郎 「そこの者、指の間もよく洗うのじゃ」
家臣G 「すぐに致します(恐ろしや)」
十次郎 「布は毎日、取り替えるぞ」
家臣H 「畏まりました(面倒じゃ)」
十次郎 「体調の悪い者は名乗り出よ。薬(注:不味い蜜柑)を飲ます」
家臣I 「よろしいのですか?(南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏)」
十次郎 「兄上、適当にしたら・・・(カチカチ)」
十五郎 「解っておる(容赦無しじゃな)」
十次郎 「乙寿丸、上手くできたか」
乙寿丸 「はい、できました」
効果があったのか、亀山城での死亡者は、ゼロだった。
しかし、褒める者はいなかった。
1580年編終ります。
流行り病は弱毒性のインフルエンザの設定です。
明智家の人達は、唐辛子を毒だと勘違いしています。
静電気は理解していません。




