30 十次郎 隠す
亀山城での暮らしに慣れてきた頃。
乙寿丸「あにうえ、碁のあいてをしてくださいませ」
最近、碁の遊び方を覚えた乙寿丸は、様々な人に対局を申し込むようになった。
十次郎「十五郎兄上と、遊んでいたのでは無いのか」
乙寿丸「じゅうじろうあにうえと、遊びなさいといわれました」
十五郎め、面倒だから逃げたな。
十次郎「もうすぐ夕方じゃ、碁では勝敗に時間がかかるから、他の遊びで良いか?」
乙寿丸「なにをするのですか?」
名前決めていなかったな。
日本語だと”オセロ”だが、元々シェイクスピアの演劇が由来だし、
英語だと”リバーシ”になるが、イギリス人は、まだ日本に来ていない。
仕方ない、わかりやすい方がいいだろう。
十次郎「”白黒碁”じゃ、囲碁より簡単じゃぞ」
本来、オセロは8☓8のマス目の盤に、プラスチック製の石64個を使うが、
将棋盤を流用した、10×10のマス目に、片面を墨に付けた木製の石100個で遊ぶようにした。
乙寿丸「これは碁なのですか?」
十次郎「白黒碁と名付けたが、碁のような陣取りではないぞ」
ルールを教えながら、一局打ってみた。
乙寿丸「たくさんとれました」
オセロ初心者は最初の内に、できるだけ多めにひっくり返そうとするが、
終盤になると一気にひっくり返る。
最初にそれをするのは、大人げないので手加減しながらやってみた。
十次郎「角はひっくり返す事ができないから、早めに取るのじゃぞ」
4つの角のうち1つだけ、乙寿丸に取らせて終了した。
勝敗は62対38で僕の勝ちだった。
乙寿丸「負けたしまいました」
十次郎「角を多く取らないと勝てぬぞ」
乙寿丸の側にいる、初菊の反応を見てみた。
十次郎「初菊もやってみないか」
初菊 「私もですか?」
十次郎「碁や将棋より簡単じゃぞ」
初菊を正面に座らせ、対局を始めた。
顔が近くて嬉しい。
初菊 「私の顔に、何か着いてますか」
十次郎「初菊は可愛いのう」
初菊の顔を遠慮することなく、まじまじと見た。
初菊 「私のどこがよろしいのですか?」
十次郎「全部良いが、あえて言えば顔じゃのう」
初菊 「皆と比べると、美人ではないと思うのですが」
十次郎「そうかのう。皆、見る目がないのう」
初菊 「私のほうが、六つも年増ですよ」
十次郎「武家の者は、女子の事を解っておらぬ」
初菊 「どこがで御座いますか」
十次郎「小さい頃に子を生むのは、体に悪いぞ」
初菊 「誠なのですか?」
十次郎「生むのは少なくても、十六歳を越えてからの方が良い」
初菊 「では、歳がちょうどよいから結婚したいのですね」
なんだか疑っているような。
十次郎「側室は持つ気はないぞ」
初菊 「ですが私の家では、身分が低いのでは?」
十次郎「気にする事ではないと思うが」
初菊の父親、武市半兵衛太郎の身分は明智家の直臣ではなく、
斎藤利三の家臣である。
陪臣の娘である初菊と結婚するには、家老の誰かの
養女にならないと無理なようだ。
乙寿丸「あにうえ、はつぎくは、おとじゅまるのせわやくです!」
十次郎「安心せい、まだ先の話じゃ」
初菊 「そうですよ、まだ先の話です」
十次郎「ということは結婚してくれるのか?」
初菊 「え~とそうですね、この白黒碁に勝てましたら」
なんだか誤魔化されたような。
白黒碁の勝負は終盤になっていた。
僕が話に夢中になっていた為、初菊の白一色になっていた。
初菊 「あと二つですよ」
十次郎「では本気を出すかのう」
僕は容赦なく黒に塗り替えていった。
初菊 「ぜんぜん置けません」
十次郎「また、わしの番じゃ」
勝敗は100対0、圧勝である。
十次郎「では、結婚してくれるな」
初菊 「親の許しを得ませぬと無理です」
乙寿丸「はつぎくをこまらせてはいけませぬ」
十次郎「別に困らせてはおらぬぞ、なあ初菊」
初菊 「すこし困っています」
え!困っているの?
十次郎「そうか、急がぬから考えてはくれぬか」
初菊 「考えるだけなら」
十次郎「少しずつ、わしと仲良くしてくれれば良いぞ」
初菊 「少しずつでよろしいのですか?」
十次郎「出来れば、今すぐにでも結婚したいのだがな」
乙寿丸「げんぷくするまで、はつぎくをさしあげませぬ」
初菊 「そうです。元服するまでお待ち下さい」
十次郎「元服すれば結婚してくれるのだな」
初菊 「あ!・・えぇ・・まあ」
十次郎「元服するのが楽しみじゃのう」
言質を取ったどぉぉぉぉぉ!!!!!!
白黒碁を片付けながら、ふと思った。
これ、売れないよな。
十次郎「乙寿丸、初菊この白黒碁の事じゃが
秘密にしてくれぬかのう」
初菊 「どうしてですか?」
十次郎「武家の遊びでは、不都合なのじゃ」
乙寿丸「ふつごう?」
十次郎「白と黒が、しょっちゅう入れ替わるじゃろう。
これでは、裏切り者を多く得たものが、勝ちになってしまう」
初菊 「そういえばそうですね」
十次郎「最近、織田家中では裏切り者が、たくさん出ておるからのう」
乙寿丸「おもしろかったのに、ざんねんです」
十次郎「良いか、三人だけの秘密じゃぞ。特に十五郎兄上には、内緒だぞ」
初菊 「まあ」
乙寿丸「ないしょにします」
白黒碁が流行った場合、明智家に変な誤解が生まれては困る。
小さなトラブルは未然に回避しとかないとな。
売り出す前に気づいてよかった。
ただ、少し残念。
十次郎は遊んでばっかりですが武家の勉強はしています。
面白くないので書いてません。




