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鮮血硝煙  作者: 有友美琴
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鮮血硝煙 二話

軍集団を覆っていた熱が徐々に冷め軍集団は次第に落ち着いてく。そんな中変化が生じていない、つまりは初めから最後まで冷静な面持ちでいたラルフは、あることを懸念していた。クルツの熱狂的演説はすでに魔術的ともいえるもので、魔力をもって精神に干渉しているレベルになっている。それを無意識に跳ね除けて冷静に考察をしているラルフはかなり強靭な精神の持ち主なのだが……それはともかく、彼は常日頃から考えてしまうことをここでも考えていたのだ。


(クルツが見せる帝国に対する異常な敵愾心、あれは正直に言えば問題だ。俺があいつに会った時から帝国に関する話題を出せばあの調子。ちっとも和らぐ様子もない。この間は命令違反までして帝国から流れ込んできた兵隊崩れの集団を皆殺しにしていた。……クルツの故郷が帝国兵に焼かれたのは知ってるが、今後大規模な戦争の中であいつの気性が悪いように働かなければいいが。放っておくわけにもいかないんだよなぁ。友達だし。)


 そんなラルフの思いを知ってか知らずか、クルツはやや冷静な表情を浮かべながら士官たちに自己紹介するようにうながしている。まずは白衣の男が――高笑いした。


「フゥウウウハハハハハハッハッハ」


そんな光景ももう見慣れたものなのか士官たちは何も言わないが、クルツ達はあっけにとられている。先程までの狂気の表情が嘘であったかのようにクルツは目が点になっているのだ。……それにしてもこの博士、とんでもない性格をしているものだ。


「私は狂気のマッドサイエンティスト、Docterキャンベルだ! 魔術と科学を融合させた新時代の学問、魔科学を使用した兵器を開発し、実戦運用するのが私の目的だ! 帝国の連中との戦争が始まって本当にうれしい! 私の愛しいフューチャーガジェット(FG)達がついにその真価を発揮するときが訪れたという事なのだから! それにしてもあなたの考えは素晴らしいですなクルツ特務中尉殿。私の研究思想ともぴったりあっていて、貴方とならば最高の成果を上げることが出来そうですよ……!」


魔術と科学の併用をしようという発想からうまれた学問である魔科学。これ自体は有用性が非常に高く、最近盛んに研究されている学問なのだが、彼の研究方針故にマッドサイエンティストと呼ばれることになっているのだ。自らの研究の為ならば平気で人体実験を行う。研究の邪魔をしようとした人間で自らの研究成果をテストする(その人間はあまりの恐ろしさに一晩で白髪になってしまった)。人道的、倫理的観点からみた制止などまるで聞かずに、自らの心が赴くままに研究を推し進めるその姿勢から恐れられるようになったのだ。そんな人間が実に十数年ぶりに自らの研究思想と合致する上官を得た結果がこれである。


「――そもそもこれまでの上官たちは科学がなんたるか、魔術がなんたるかさえもわかっていなかったのです。まして魔科学など基本すらも理解していなかった!優秀だともてはやされてきた人物達らしいですが、何のことは無いただの保守的な考えを持った化石のような連中です。私が性能実験の為に人間を捕まえようとすればやれ倫理的にそれは認められないだの神がそんな行為を許さないだの。まったくもってナンセンスな奴らだったのです」

「なるほど……さぞ無念だったであろうな博士。だが私の指揮下に入ったのだから安心すると良い、帝国兵をいくらでも捕まえてきてやる。奴らは人間ではないのでな、倫理的にも道徳的にも何の問題もない。……だが、自国民を使わせるわけにはいかない。そこだけは君の以前の上官たちと同じだ。だから、あと半月だけ待ってくれ、私たちが帝国軍と交戦するまでは」

「もちろんですクルツ特務中尉殿。私とて無闇に一般市民を使った実験をするつもりはなかったのです。以前から私は犯罪者や帝国人を使った実験しか行っておりません。なんせ、奴らならば社会的に立場がないので私の研究を阻害する要因が発生しにくかったので……それすらもなかなか供給されなかったかつてを想えば、半月など待ち続けられますよ」

クルツという賛同者を得て感涙すらも流し始めた博士は興奮気味にそう言いながら自らの研究室へ戻っていった。白衣の姿が完全に消えると、次に口を開いたのは顔中が傷だらけでかつ右耳が完全に消失している男だった。

「私はリンネ・ホッパード少尉です。趣味はは爆破解体、帝国兵の連中で血と肉の雨を降らせてやりますよ。……爆破した時のあの音、爆破された人間の欠片、それを見て恐慌する周囲の人間、私にはそれが一番の報酬になるのですから。貴方に付き従い、常にすべての敵を殲滅する事をここに誓います」

優秀でありながらもその特異な趣味、戦術によって士官学校卒業後すぐに懲罰部隊に送られてしまった彼は、あらゆる爆破戦術に長け、これまでの敵対勢力はすべて爆殺してきたという根っからの爆破中毒者なのである。

「そうか。これからの時代の戦争は巨大兵器と魔術が担っていくことになる。歩兵の身でそれらに対抗するための戦術として爆破は非常に有効なものとなるだろう。帝国の連中の頭上に奴ら自身の体から作られた雨をぶちまけてやれ。恐怖に駆られ撤退していく敵もすべてを爆殺しろ。お前の衝動が導くままにな」

リンネは一礼すると後ろへと下がっていった。次に前へと歩み出たのはいかにも魔術師然としたローブをまとった人間であった。ローブの中にあるはずの顔は、なぜか不自然な影に覆われてみることができない。その人間は老人なのか若者なのか男性なのか女性なのか子供なのか大人なのかまるでわからなかった。まるで理解できないことだけは理解できるという文章的矛盾をもってして表現するのが最も適切である。そんな存在であったのだ。そこから発せられた声も素性をうかがい知ることのできないどこか不気味なところのあるものだった。

「ワタシハうぃんぐすとん・はーとらいデゴザイマス。こ、んごトモヨロ、シクオねがイシマス」

というよりは、人間の喋り方からかなり離れていた。イントネーションも奇天烈かつ言葉の切り方も同様だった。

「すまないがもう一度言ってくれないか?君の喋り方は何というか……少しばかり解りにくいんだ……」

さすがにやや困惑した様子で問いかけるクルツ。いくら彼でも今の言葉は聞き取ることができなかったようだ。

「――んんっ」

そういわれのどの調子を整えるかのように咳払いをする人間。

「これはこれは失礼いたしました。何分まともに話すのもこれが久し振りでして。私はウィングストン・ハートライと申します。〈詠唱者〉〈付与者〉〈召喚者〉すべての特性を持ちあらゆる魔術を行使いたします。ふぇっふぇっふぇっふぇっふぇ」

ウィングストンは喉の奥で笑うかのような音を立てた。彼の言っていることは一般人が聞いたら正気を疑う程の発言なのである。魔術は大別すると三種類存在するが、それらすべてを修めているというのはほとんどありえないというのが常識だからだ。優秀な魔術師であっても大抵は一つの特性しか修める事ができないのだ。二つ修めているような人間は十数年に一度の逸材と呼ばれることになるのだ。そして彼をさらに有名たらしめている事実がある。

「その体も魔術の賜物なのか……?〈マスター〉ウィングストン。君の体はあまりにも魔力が溢れている。前々から聞いていた噂通りのようだしな」

「……ふぇひひひ、さすがですな。この私の身体がある意味では殻であり空であるのだと見抜かれるとは。――そうです。これは魔術によって作成された行動用端末四号〈バーテックス〉です。私の安全を保ちながら、魔術の性能を減衰させることのない素晴らしい作品だとの自負があります」

「ほう。魂を事象化したのか。単に付与魔術による魔道人形作成だと思っていたが。そんな危険性の高いことをしていたとは予想外だった。――その魔術の力をもってして私の役に立ってくれ」

クルツの呼びかけに答えるかのようにウィングストンのローブが下からの風に仰がれてはためく。その風によってすら顔をうかがい知ることは出来ない。

「もちろんですクルツ中尉殿。私が魔術の探求を始めたのはそのすべてを極めるためですから。魔術というのは本当に奥が深く日々発達していく物です。目的のためには人間の寿命だけではまったく足りません。魂を形にして延命を図ることは第一段階でしたから。――そして、帝国兵との戦闘はその目的を達成するためにも必要なものです。魔術は机の上で考察しているだけでは完成することのない物ですから。実戦にて使用して対象への影響を観測し、敵からの攻撃の効率のいい防ぎ方を学び、そのすべてを魔術の探求へと生かしていく。素晴らしい事ですよ。ふえふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇ」





主だった士官たちが挨拶を終え、クルツがひと段落つけるように手を打ちならす。


「さて、皆の自己紹介も終わったことだしそろそろ今回の作戦行動について説明する。ラージェリア平原での大規模戦闘が予想されているため、それに伴ってラジリカ村への強襲をかける。これが全てだ。ラジリカ村には現段階で既にかなりの戦力が駐屯しているそうだ。……だが、我々ならばこれを殲滅することは十分できる。現地に到着し次第簡易陣地を構築する。その後本隊の戦闘開始と共に襲撃する。詳細はこれから会議をしようじゃないか」



クルツと共に地図を囲み作戦について話し合い始める士官たち。彼らの顔はラジリカ村での勝利を確信したものとなっていた。



数日後、クルツ達特務小隊は前線へと向かう集団に混ざっていた。近代化され始めた王国軍は多数の軍事車両を交えながら移動している。特務小隊はその一画に集まっている。ほかの集団がある程度統一された服装であるにもかかわらずクルツ達の恰好はある程度個人の好みに任されているようだった。キャンベルは相変わらずの白衣でなにやら赤い液体をあおりながら知的飲料が等と叫んでいる。リンネは丸い物でなにやら曲芸めいた事をしている。ウィングストンは相変わらずのローブ姿だ。彼らの行軍を街道で眺めていた民衆たちは訝しげに話し合っていた。

「なんなんだありゃあ。まったく、軍人らしくない恰好の連中ばっかりだぜ」

「本当にそうだねぇ。でも、あの隊長みたいな格好してる男の人、結構カッコいいじゃない」

「その人の横に座ってるワイルドな人もいい感じねー」

「お前らなぁ……」




「ラルフ副隊長。カッコいいって言われてますよー?」

揶揄するかのように声を上げたのは士官世話係に任命されたニュージー・ホーネットだった。クルツ達が着任してからすぐに彼らの世話係となった彼は、すでに二人に馴染んていた。

「そうだな。よく言われることだが、言われるたびに嬉しく思うぜ」

「……ラルフ特務中尉、ニュージー一等兵。軽佻浮薄が過ぎるぞ」

「ハッこれは失礼しました隊長殿」

生真面目にクルツの叱責に応えるニュージーだったが。ラルフはこう返した。

「まあ、そういうなよクルツ。こうも長い行軍じゃ、こっちもだれちまうんだよ。国境線あたりで攻撃を仕掛けてくるゲリラがいるんじゃないかって懸念されてたが、結局襲撃は無かったし、これだけの大部隊で動いている以上、これからもゲリラの襲撃があるとは思えない。索敵部隊の出撃回数もちゃんと規定通りだ。これ以上何を警戒しろって言うんだよ」

「……お前は昔から変わらんな。いざってときにしか真面目にならないで女やら酒の事ばかり考えている。――だが、本当に油断だけはしないでくれよ。既に本隊がここを通過しているとはいえ、小規模なゲリラ部隊なら潜んでいる余地はまだまだある。なんせここはちょっと前まで敵地だったんだ。地の利は向こうにある」

改めて警告するクルツ。その表情は真剣そのものだった。

「はいはい」


クルツ達の行軍は夜を超え、そして翌日の朝を迎える。彼らの中から一部が索敵にまわされるのだ。あらゆる作戦に従事し、その成功率は実に九割といわれる特務部隊への期待の結果だった。その日通るのは先日まで国境付近の大都市として有名であった〈交易と歌謡の町・アルリヒデ〉ゲリラの一部が本拠地にしているとの噂も有り、周辺では襲撃警戒度合をひきあげなくてはならないからだ。

「索敵任務ですか。それならば私のFG一五号〈ヘパイストサーチャー〉を使ってください。登録された人間以外が周囲に接近すると警告通知、その人間が武装している事を感知したら臨戦通知がいくようになっています。武装を感知できるように改造するのは苦労しましたよ。全身に装備している鉄からなる物体の比率、魔術的な力を身にまとっているものの検知。これらすべてを可能としながら小型化するなど……この私以外にはできなかったことでしょう」

「そうか、ありがとう。全員に装備させておこうじゃないか」

装備品を全員に配り出撃態勢を整えるクルツ。そこにウィングストンが話しかけてくる。

「中尉殿、私の身体はまだ予備があります。このような危険な任務にはうってつけですのでどうか、同行の許可をください」

「ふむ……まあいいだろう、ついてこい。最前列に立ってもらうことになるが、良いな?」

無言で頷くウィングストンに納得し、今度こそクルツは前に歩き始めた。



都市につながる大きな街道、その両脇には森林が並び近寄りがたい雰囲気を出している。それは索敵の難易度が上昇したことも意味している。まるで人間がいるかのように揺れ動く木々、そして野生動物たちが建てる音に徐々に神経をけずられていくような場所だからだ。また、奥に進めば魔力に満ちた場所もあり、そんな場所では魔術による索敵もおぼつかない。そして何よりもクルツ達を苦しめているのは……



「あ~もう鬱陶しい!さっきからふよふよ周りを漂って!なんなんだよこれは!」


キノコの胞子だった。毒性はなく人間には全く影響はない物なのだが、とにかく量が多い。帝国のみならず王国にまで伝わっている童謡〈きのこの森〉は、この森がモチーフだと言われているほどだ。森の中から空を眺めれば、覆い尽くさんばかりの胞子が漂い、ただでさえ少ない日光を遮ってしまっているのだ。無害とはいえ視界の中をふわふわとこぶし大の黄色い物体が浮いているのは非常に不愉快に感じられる。


「――落ち着けラルフ、ここで苛立っても仕方がないだろう。それに、不謹慎かもしれんがお前の望んでいる戦闘がやってくる可能性もあるんだからな」

「ハッまさか俺たちに襲撃をかけるような連中がいるとは――」


瞬間。クルツ達の持っていた〈ヘパイストサーチャー〉が警告してくる。

(敵性の集団を確認、銃器で武装している人間が二七名。魔術的な力を帯びているのは三名です。)

 同時に画面に映し出される赤い点、それはクルツ達を半包囲するような形で展開していた。


「まずいな……総員、気が付いていないふりをして右斜め方向に五〇m進行しろ、恐らくそこで襲撃をかけるつもりだろう。それに対応するため、ウィングストンは最前線で防御措置をとってくれ。小銃手及び選抜射手はその後方から援護を。……この舞台で最初に戦火と共に戦果をあげるのは我らだと心に刻み込め。さあ、楽しい虐殺の始まりだ。帝国人は皆殺しにしろ」



一方、彼らの動きを観察していた第二一三山岳猟兵大隊所属のミハイル・ローベルトヴィチは部下たちに命令を下した。

「王政の先駆者達がやってきたぞ。連中の様子から見ていわゆる特務部隊ってやつだろうなぁ。すべての猟兵部隊と同時攻撃を仕掛けるぞ」

「承知しました同志ミハイル中尉殿。ここならば政治委員殿もおりませんし我らの革命を推し進めることができますな」

「ふっ。確かにその通りだが……あまりそういう事を言うな。粛清されるぞ?同志メレンチー少尉。まあいい、そろそろ攻撃地点だ。魔術師は簡易詠唱を開始せよ。銃火器班は攻撃用意。突撃者は抜刀準備せよ。ここが正念場だ。連中に紅き共産主義の力を見せつけてやれ!」



「中尉殿、魔力の人為的な動きを感知いたしました。敵魔術師集団が簡易詠唱を始めた模様です。……まだまだ稚拙ですな。こんな遠くにまで簡易詠唱の気配が漂ってくるなんて。私との決闘だったらこの時点で殺しています。この程度の腕前で私の前に立っているのですから」

自身のローブをはためかせながら忌々しげに報告するウィングストン。表情が見えないはずの彼から、底知れない怒りの感情が覗われる程であった。魔道の精髄を極めようとしている人間である以上レベルの低い魔術師が敵対することはウィングストンのプライドを傷つけるのだろう。

「――ならば魔術師に対する反抗はウィングストンに任せようじゃないか。真なる魔術師の力を共産(コミュ)主義者(ニスト)の連中に見せてやるんだな。その他の物理火力班は魔術師以外を始末させようじゃないか。配置に変更は必要ない。さあ……来るぞ!」



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