夜明けの新宿
2人を乗せたバイクは都内をあちこち回ったあげく結局、新宿オルタ前に戻って来た。
エンジンを切りバイクから降りるジュリアとマキ。2人は実家にでも帰って来たような感じで自販機で缶コーヒーを買う。
深夜だがそろそろ街が起き始める時間だ。納品のトラックがアチコチのビルの前に停まっては荷物を出し入れしている。
オルタのシャッターの前に腰をおろす2人。それらの光景をボンヤリと眺めてると改めて自分達はいろんな人達と関わり合いながら生きてるのを実感する。
「こうやって見てると人って1人じゃ生きられないなぁって実感しますね」
マキの時折みせる知的な横顔を眺めながらジュリアは
「そうだな」
と短く返事をした。
マキは缶コーヒーを飲み干すと立ち上がり直立不動になると真顔でジュリアを見つめ
「ジュリアさん今日はありがとうございました」
そう礼をいうと頭をさげた。
ジュリアも咄嗟に立ち上がり
「いや、礼を言わなきゃいけネーのはこっちの方ダワ。ありがとうな。マキ」
爽やかな風が2人の間に流れ頬を撫でて行く。その合間をぬうように
「で、もう終了ですか?お二人とも」
と巨漢警備員寺田が話しかけてきた。
「でぇ!!イキナリなんだよテラっち!」
「巡回ですよ、巡回。それはそうとこんな時間まで何してたんですか?」
マキが寺田の前に立つと人差し指を自分の唇の前に当て
「ナイショ」
と言い放ってジュリアの後ろに隠れた。
「まぁ、プライベートで2人が何をしようが関係ないですけど」
寺田が少しムッとした感じで返事をすると回れ右をして巡回業務に戻っていった。その大きい背中を見送ると2人は白み始めた空を見上げた。
歌舞伎町からは始発を目指してる人の波がゾロゾロと押し寄せて来て、新宿駅東口に吸い込まれていく。
マキはその人の波を横目でチラッと見ると静かな口調で話しかけた。
「ジュリアさん。私帰りますね」
その問いかけに慌てるようにジュリアは
「ちょっと待てよ。送っていくから後ろ乗んな。何かあったらご両親に申し訳たたねぇ」
そう言うとジャケットにしまってあるキーホルダーを取り出した。
しかし、マキは首を左右に降りながら人の波に向かって歩き始める。
マキの後をジュリアは追い掛けるように小走りで寄っていく。その気配を感じたマキはクルリと振り返り。ジュリアの目を真っ直ぐ見つめながら
「私はもう大丈夫です!帰りが遅くなった事も自分から両親にキチンといいます。もう社会人ですよ。それ位できなくちゃ」
そう言うとパチンとウィンクをしてそのまま人の波にその姿を溶かして行った。
余りの勢いに押されて面喰らったジュリアだが人の波にまだかすかに見えるマキの赤いツインテールを目で追いながら叫んだ。
「家についたらメールしろよー!」
人の波の謙遜でこの声がマキに届いたかどうかは定かでないが、ジュリアは一晩でどういう訳か社会人として、頼もしい雰囲気を出し始めたマキに喜びを感じずにはいられなかった




