幸せですか?
巨人達の行進が落ち着くとジュリアはマキに近づき
「どうだ凄いだろ?ここがとっておきの場所。今から整備を受ける飛行機がここには集まって来んだよ」
と自慢気に話しかけた。
マキは呆然としたまま旅客機の通り過ぎたコンクリートウォールと金網を見ていた。
羽田空港は海に近い。心地よい海風が2人の肌を撫でる…。マキのツインテールもフワフワと風になびいている。
ジュリアは問いかけに反応がなかったので少し心配になりマキの顔をそっと覗き込んだ。それに気付いたマキもゆっくりとジュリアの方に顔を向ける。そして落ち着いた口調で質問をした。
「ジュリアさん。飛行機ってできてからどれ位経つんですかね…」
思いもよらない質問にジュリアはいささか困惑したが
「大体100年位だな。」
「100年かぁ…その間にいろいろあったんだろうな…」
「あぁ、初めは1人の人間を60m飛ばすのがやっとだったんだぜ。それが今や300人近い人をのせて何千キロも飛んでいくんだ。技術の進歩ってのはスゲーな」
マキは視線を夜空に向けると再び話し始めた。
「やっぱり飛行機も戦争に使われてたりしたんですよね」
マキと一緒に夜空を見上げるジュリア
「はじめの頃はむしろ戦争にしか使われなかったんだ」
「なんだか可哀想」
「そうだな。機械とはいえそれはわかるわ」
「この子達は幸せなのかなぁ?辛かったり虚しくなる時とか無いのかなぁ?」
ジュリアはチラとマキの横顔を伺った。目線の先に何を捉えてるかは解らないが少しもの悲しい目をしているような気がした。分厚いコンクリートウォールと金網の中で飼われている巨人達。常に厳重な管理の元で運航される航空機。
自分の生い立ちと何か被るものがあるのだろうか?
ジュリアの頭の中にそんな考えがよぎる。そして視線をマキと同じ方に向けると問いかけに応じた。
「さぁな、でもいろんな人が一生懸命になって飛行機ってのは初めて飛ばせるからな。それは昔から変わらねーんだよ。ベテランのパイロットや整備士なんかやっぱり自分が手をかけた機体は可愛いって言うもんな」
ジュリアのその言葉を聞くとマキは勢いよく振り向いた。
「そうなんですか!?それならよかった!このコ達は幸せですね!」
先程の物悲しい横顔は消えパァっと明るい表情になる。
その表情に合わせるかの如くまた巨人達の行進は再開した。それはまるで彼らの意思のようにも思えた。
一時の静寂を打ち破る轟音。しかしマキはその音の大きさに不快な感じはしなかった。
彼女はコンクリートウォールまで走って近づくと巨人達の行進を背にしてジュリアに向かって何か叫んでいるように見えた。もちろんジェットエンジンの轟音で声は聞き取れない。
「なんだってマキィ!聞こえねーよ!!」
ジュリアはマキが何を叫んでいるかを聞き取ろうとコンクリートウォールまで歩いて近づいて行ったが聞き取れそうな所でそれは終わってしまった。
何を言ってたのかジュリアはマキに問いかけたがマキはケラケラと笑ってるだけで答えようとはしなかった。
その事が別段気になる訳でもなかったがジュリアはアゴを人差し指でポリポリかくと
「ま、いいか。さて次はドコに行くかな?」
と言って回れ右をしてバイクの方に向かっていった。その後をマキが着いていく。
羽田空港の巨人達は2人を見守るかのようにジェットエンジンの轟音を吐き出しその雄叫びを夜空に刻み続けていた。




