from 上原
アライバルフロアの謙遜を背中に受けながら2人は最寄りのエレベーターに小走りで駆け込んだ。
ターミナルビルのフロアは吹き抜けになっており、カベをブチ抜いて作られているこのエレベーターはターミナルビルの様子が一望できるようになっている。
マキはエレベーターのガラスにへばり付くようにしてそれを見て
「ほぇ~、閉まってるけど空港っていろんなショップ入ってるんスね~」
と声を上げた。後ろからそっとジュリアが近づきマキに教える。
「乗り換えとかのお客さんが時間潰せるようになってンだよ」
「なるほど~。合理的にできてんスね~、何だかジュリアさんが遊園地って言ってたの解る気がする。」
エレベーターは最上階に到着して2人を吐き出すとジュリアは慣れた足取りでエレベーターの先にあるドアを開ける、その瞬間に先程聞いたジェットエンジンの轟音がまた聞こえてきた。そこは展望台になっており羽田空港の滑走路が見渡せたせるようになっていた。
「スゲー!!」
転落防止の金網まで走り寄って壮大な光景を全身で受けるマキ。
夜なので国内線はほとんどのフライトが終了しているが貨物や国際線のほうはまだ動いている。
羽田空港はあまりにも広大なのでここからは西側に位置するA滑走路しかみえないが、それでも初めてみるものにはその巨大さに圧倒される。
夜なので見通しがきかないがそれがかえって神秘的な魅力を醸し出していて魅惑的ですらある。
闇夜のベールをまとい機体全体がハッキリとは見えないが、翼端灯の淡い光とキャビンから漏れる機内の光が薄らぼんやりと巨大な機影を写し出す。
滑走路は誘導灯が付いておりその光の花道をまるで歌舞伎役者の女形が歩くように機体はしずしずとタクシーウェイを進んで行く。
そして全長約75M、重量約200トンの千両役者は早変わりの如くその姿を変貌させるように轟音を吐き出し巨大な機体を瞬く間に時速300キロまで加速させると離陸し漆黒の闇へとその姿を溶かしていくのだ。
この光景はどんなに鈍感な人間が見ても感動しない事はないだろう。
「はっえーー!!あんなデカイのに!!」
マキが次々と驚愕する声をあげるのも無理はない。目に見える全ての光景が規格外なのだ。
絵に描いたような非日常。空港はタダで入れる遊園地と比喩したジュリアの言葉通りだったのだ。
「はー。飛行機が飛び立つだけなのに見てても全然飽きネーっすね。ジュリアさん」
金網を掴みながら頭だけこちらにむけながらマキはジュリアに話しかける。
「そうだろ」
腕組みをして微笑みながらそうジュリアは答えると
「実はとっておきの場所がまだあんだよ」
自慢気にマキに言ったがマキは少し困った顔をして
「行きたいけどそろそろお家に帰らないとママが心配するから…」
そう言うと淋しそうに金網から手を離した。
ジュリアはしまった!という顔をすると慌てスマホを取り出し時間を確認した。
「わりいマキ!こんな時間まで引っ張り回して!私も一緒に謝るから!早く帰るぞ!」
ジュリアは一旦頭を下げると急いで先程入って来たドアに身体を向けたがその瞬間、2人のスマホが同時にメールの着信を知らせて来た。
ジュリアとマキは顔を見合わせるとメールを開いた。開口一番にジュリアが口を開く
「あっ、店長からだ」
「え?ジュリアさんもですか?」
form:上原
to:ジュリア・マキ
sub:遅くなっても大丈夫
私の方からマキのご両親に仕事で朝帰りになるかもって連絡いれといたから遅くなっても大丈夫だよ。
2人とも明日休みにしとくからたまにはゆっくりしてね。お店ことは心配いらないよ。
2人共一緒の内容になっており写メが添付されていた。
自我撮りで手前のアップの女性が上原店長だというのはわかるのだが奥にいるセミロングの女性が検討付かない。
「ジュリアさん、写メのこの人ダレっすか?」
マキに言われて慌てて添付の写メを見ると確かに見覚えのない女性が写っていた。しかめっ面で写メを食い入るように見るジュリア。
「誰かに似てるンだよな…あーーーーっ!!これカヨだ!!」
突然叫ぶジュリアに驚きつつもスマホの画面に視線を移すマキ。
「えっ!?これカヨさっ♂$〠*」
その別人っぷりにマキは呂律が回らなくなる程だった。
「これが噂の『上原マジック』か…地味のお手本みたいなカヨが…」
「パネェっすね…」
ターミナルビルの屋上で2人はしばらく放心状態のままだったがその沈黙を打ち破るようにマキの腹の虫が「ぐ~」っと悲鳴を上げた。
「ブハハハハっ!!マキ!オメーのハラの音、ジェット機の騒音よりスゲーな!」
ジュリアは豪快に笑い飛ばすと顔を真っ赤にしてマキが
「安心したら急にお腹空いちゃいましたよ~。だってウチのママ恐いんだも~ん」
「ヨシ!腹が減っては戦はできねーからな!腹ごしらえだ!」
そう言うと2人はターミナルビルの中へと戻っていった。




