ブッ飛ばすぞ!!
ジュリアはマキにメットを被せるとバイクに跨った。慣れた動作でマキもリアシートにヒョイと跨る。
夜とはいえ人通り多い新宿のオルタ前。タダでさえ派手で目立つ2人の女性。これが派手で爆音のバイクに跨っているとネオンの光も相まってまるで映画かアニメのワンシーンにも見える。
外国人観光客が慌てカメラのレンズを2人に向けてるのが伺える。
そんな事を知ってか知らずかジュリアはいきなりフルスロットルの鞭をバイクにいれる。
250ccDOHC水冷シングルのエンジンは暴れ馬の嘶きの様な排気音を吐き出すと「キュッ」っと短いスキル音をリアタイアから放ち急発進した。
前加重の抜けたフロントタイアは浮き上がりリアタイアのみでバイクは進んで行く。フェラーリのエンブレムの如く暴れる車体をジュリアはリアブレーキと巧みなアクセルワークで制して行く。
「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
マキが片手を突き挙げて西部劇の主人公のように雄叫びあげる。
それに答えるように2人を乗せたバイクは猛烈な勢いで加速してゆき新宿通りを埋め尽くすテールライトの波をプロジェクターランプの青白い光で切り裂いて行った。
ジュリアとマキを乗せたバイクは外苑東通りに差し掛かると新宿通りを右折した。しばらくして青山まで来ると正面にドカンと東京タワーがその姿を表す。
「わーおう!!東京タワーだ!ジュリアさぁん!」
走行風と排気音に負けないようにマキは大声を張り上げる。
「おう!今からあそこまでブッ飛ばすぞ!!」
「ヒャッホー!」
外苑東通りを更に爆走するバイクは六本木に差し掛かった。東京ミッドタウンのビルが放つサイバネティクスな光は首都高速3号線の高架と合間って2人をまるで近未来小説の主人公みたいに映し出す。
渋滞と二重駐車の地獄。六本木ロアビル前の信号に捕まると否が応でもジュリアとマキの跨ったバイクに視線が集まる。その様子に気付いたジュリアは良からぬ事を思い付いた。
「マキィ!久しぶりにアレやるか!!」
「やっちゃいますか!ジュリアさん!!」
そう2人とも叫ぶとマキはバイクのステップに足を載せたまま立ち上がった。
赤いツインテール。大袈裟にフリルの開いた真っ赤なスカート。厚底のロングブーツ。
そんな派手のお手本を地でいくような女性がいきなり車列から現れたのだ。
通行人がビックリしない訳が無い
その手応えを確かに感じたジュリアは長い両足を地面にしっかり付け上半身をトップブリッジの上に押し付けるような大袈裟な前傾姿勢をとった。
「いくぜマキ!」
「OK!ジュリアさん!」
2人はまるで戦隊モノのヒーローが必殺技を繰り出すかのように声を合わせて叫んだ。
「ANGEL DUST!!」
次の瞬間に凄まじい勢いでジュリアとマキを乗せたバイクのリアタイアはホイルスピンを始めた。辺りに白煙が漂いゴムの焼け焦げる臭いが周囲を覆う。
六本木には土地柄、外国人が多い。そんな彼らがこのようなド派手なパフォーマンスを見逃す筈はない。奇声にも似た歓声があちこちから沸き上がる。
激しいホイルスピンを尚もつづけるジュリアのDトラッカー。白煙は益々増え遂にバイクをスッポリと煙幕の様に包んでしまったのだ。
するとバイクの上に立っているマキがまるでバーンナウトの煙の上に立ってるように見えはじめた。
揺らめく白い煙に包まれる事によって妖艶かつ神秘的な女性へと変貌を遂げるマキ。
その姿は天国へといざなってくれる「天使」なのか?
はたまた、地獄へと陥れる「悪魔」なのか?
ラファエロのフラスコ画にも似た余りにも幻想的な雰囲気は幻覚性麻薬エンジェルダストのようにギャラリーを一瞬、現実世界から剥離させてしまった。
信号が青色に変わるとマキはリアシートに落ち着き、ジュリアは速やかにバイクを発進させた。走り去ったアスファルトの上にはタイアの焦げた匂いとブラックマークが刻まれていた。




