あちらが立たねばこちらが
「ほぇ~、そんな事があったんスかぁ~」
マキがスナック菓子をボリボリ食べながら叫んだ。
「そーなの、号泣よ号泣!」
カヨがパックジュースを飲みながらマキに言う。
オルタの八階休憩室でカヨが昨日起きた出来事をマキに言っていた。
「でも以外ッスね~。ジュリアさんって案外涙もろいんスね~」
「あいつとは長い付き合いだけどあそこまで泣いたのは小学生以来だわ」
「ほぇ~」
スナック菓子を食べる手を止めてマキが天井を仰ぎながら相槌をうつ。
店に戻るとマキは鼻歌まじりに商品を整理しているジュリアをマジマジと見た。マキの異様な視線に気付いたジュリアは
「なんだマキ?」
と聞いた。
「最近のジュリアさん何か変わりましたね」
「へ!?オメーいきなりナニ言ってんだよ」
普段から「スイーツ」「かわいいもの」など女の子を自で行くようなマキがこのような事を言って来たのは初めてだったのでジュリアの方も困惑してしまった。
ジュリアの少し困った表情を見たマキはハッと我に返り
「アハハ~!私なに言ってるスかね~!!さっ、お仕事お仕事」
そう言うと腕まくりのジェスチャーをしてからレジカウンターの裏に私物を放り込むとトレードマークの赤いツインテールをなびかせながら店の外で興味ありげに覗き込んでいる客に近づいて行き話しかけていた。
一連の動作に一抹の不安を抱きながらもジュリアはレジカウンターへ入って行った。
連休最終日と言う事もあり客足はまばらだったが、途切れる事もなく程よく忙しくて2人共業務に没頭する事ができ余計な事を考えずにすんだ。
店内に「蛍の光」が流れてオルタが閉店の時間を告げて来た。
「ふぇ~、なんだかんだで今日は忙しかったスね~」
「そうだな、売り上げも結構いいモンな」
売り上げを集計しながらジュリアは返事をする。
「ところでジュリアさん。今度の休館日なにしてます?」
ジュリアは電卓を打つ手を止めて中を仰ぎ、再び電卓を打ち始めながら
「う~ん。最近バイクで遠出してないからな~…。たまにはツーリングかな?」
何も考えずそう答えると。
「ツーリングかぁ…」
マキは表情を曇らせながらつぶやいた。普段とは違った反応をしたマキを見てジュリアは少し不安を感じたが気のせいにして受け流した。
「じゃっ!ジュリアさん私お先します!」
マキは急にハツラツした表情をして従業員用のエレベーターへと消えて行った。
ジュリアがマキが去ったあとをボンヤリ見つめていると
「ハルナぁ。相変わらずレジ締めおせーな」
と声がしたので慌て声の方を振り向くとスーツ姿の女性が立っていた。
「ジュリアさーん!こんな時間にどうしたんですか?」
ジュリアが突然母親でも見るような感じで叫んだ。その女性はミドルネームの「ジュリア」と呼ばれる事に違和感を感じる事なく
「ちょっと近くまできたからな。しかし今のジュリアはお前だろ?変な事言うなよ」
と言い放った。しかしジュリアは
「私にとってのジュリアはいつまでも上原店長です」
と羨望の眼差しで切り返した。
店長と呼ばれた女性はジュリアの肩を軽くポンっと叩くと
「マキのやつなんか塞ぎこんでないか?」
と聞いた。
「さぁ、ハラでも減ってんじゃないスか?」
なんの気もなくそう答えたが
「そうか?エレベーターの前で、さっきすれ違ったけど捨てられた子犬みたいになってたぞ」
「え…」
そう言われてジュリアは心当たりを必死に探ったが答えは一向に見つからなかった。
そこへ閉店作業を終えヒマを持て余したカヨが降りて来た。上原店長を見付けると
「あら、こんな時間に珍しいですね上原店長」
「お久しぶりカヨちゃん。ウチのモンが迷惑かけてないからしら?」
上原店長は笑顔で組んだ手の片方をヒラヒラさせながら返事をする。
「ところでウチのマキなんだけど最近変じゃない?」
いきなり重たい内容の質問に少し戸惑ったカヨだが館内の天井をボンヤリ見つめながら記憶の糸を探った。
「そういえば…」
何か思い出したようにカヨは口をゆっくり開いた。
「あの娘今日、スナック菓子残してたわ…」
その事を聞いたジュリアは
「食い意地の張ったアイツが!?」
かなり驚いた様子で声を上げた。その声は館内に響き渡りまだ残っていた他のテナントの従業員が作業の手を一瞬止める程だった。
一瞬の沈黙の後に上原店長は問いただすような口調で
「なぁハルナ。マキの事最近かまってやってるか?」
「あ…」
ジュリアは全ての辻褄があったかのように声を漏らした。
最近、趣味の事に没頭しすぎてマキの事がおなざりになっているのに気が付いた。
「そーいえばアンタ達、最近店終わった後も一緒にいる所見ないわね」
ジュリアに追い打ちをかけるようにカヨは言う。
その言葉を聞いたジュリアは肩を震わせていた。そのせいで帳簿を付けるボールペンがカタカタと鳴っている。
なんでマキが寂しい思いをしてた事に気付いてあげられなかったのだろう?後悔と悔しさがこみ上げてくる。
インピダンスの顔とも言えるマキを自分のせいで危うく潰しかけていた事に今ようやく気付いたのだ。ジュリアはいても立っても居られなくなり
「ジュリアさん後お願いしていいですか!」
そう言うとレジ裏に放り込んでいたメットとゴーグルを鷲掴みにして飛び出ていった。
カヨと上原店長はジュリアが走り去った跡を見届けると2人とも顔を見合わせた。
「カヨちゃんありがと。マキの事見ててくれて」
「いいえ、お安いご用ですよ。それにしてもあの2人ソックリですね」
笑いながらカヨが上原店長に話す。
「そうだな昔の私とハルナ見てるみたいだわ」
上原店長はそう呟くと今一度ジュリアが走り去った廊下を暖かい目で眺めていた。
ジュリアを飲み込んだ店員用のエレベーターは一階の裏口でジュリアを吐き出した。
血相を変えて飛び出てきたジュリアが裏口で立哨中の寺田の目に留まる。寺田と目のあったジュリアは
「テラっち!マキ何処にいるか解る!?」
あまりの形相に少し戸惑ったが寺田は冷静に
「五分位前に退店してるからまだ表の自販機にいるんじゃないですか?」
「サンキュー!」
ジュリアはそう言うと表に向かって走り出した。
通行人の波を掻き分けながらオルタの正面に着くと、閉じられたシャッターの前で1人寂しく缶ジュースをしゃがみ込んで飲んでいるマキを見つけた。
上原店長の言うようにその様は正に捨てられた子犬の様で照明の落ちた正面口の淋しさがそれを際立たせている。
ジュリアは改めて自分の犯した罪の重さを痛感した。
ジュースを飲んでいるマキに駆け寄るとジュリアは
「すまん!」
と言って頭を垂れた。あまりにも唐突な出来事にマキは理解できずそのまま固まってしまい大きな目をパチクリしてジュリアを見たがそんなマキに構う事なしに頭を垂れたままジュリアは喋り続けた。
「もう少しで大事な仲間を失うところだった。今までの事を許してくれとは言わないが、もし許してくれるなら罪ほろぼしに何かさせてくれ!」
ひとしきりそう言うとゆっくりジュリアは頭を上げた。
徐々にマキが視界に入ってくるがキョトンとしたままでまだしゃがみ込んでいる。
異様な緊張感の中マキはようやく立ち上がった。無数のアクセサリーがすれ、ガチャガチャと金属音を響かせる。
「ジュリアさーん!」
マキはそう叫ぶとジュリアに抱きついた。




