うぇーい 金曜カレー
「ひゃー。やっぱ金曜日の夜は忙しかったですねー」
マキはレジカウンターに寄りかかりながら言った。
「売り上げもそれなりにあるからな。忙しいハズだわ」
ジュリアは閉店後のレジ閉めをしながら今日の忙しさを売り上げで再確認した。そして久しぶりに仕事による心地よい疲労感に浸っていた。
「あー、お腹減ったー!」
マキはそう叫ぶとその場にへたり込んだ。
「私も」
そう言いながらカヨが店内に入って来た。
「なんだよカヨ何か用か?」
「階段下って来たら珍しくアンタんとこまだ電気が付いてるから覗いただけよ」
「へーへー。いつも売り上げショボくてすんませんねー」
レジ閉めの作業は売り上げに比例して早くなったり遅くなったりする。
当然、売り上げの多いテナントは帰るのも他のテナントより遅めになる。
「あれ?インピダンスさん今日は残業ですか?」
閉店後の巡回で寺田がまだ居残っているジュリアとマキに気がついた。
「あー、もうちょっとしたら帰るからフロア閉めんのチョット待って」
「了解」
寺田はそう言うと防災センターに無線を入れた。
防犯の都合上従業員の居ないフロアはエレベーターと階段に通じるドアを全て施錠する事になっている。
「よし!あとは出納に寄るだけ。マキ、カヨさぁ帰るよ」
そう言うとジュリア達は従業員用のエレベーターに向った。その道すがらジュリアは寺田に
「テラっち今日は泊まり?」
「そうなんですよ~」
寺田はそう言うと階段のドアを施錠した。
「え~たいへ~ん。ご飯とかどーすんの?」
マキが興味本位で寺田に聞く。
「まぁ、適当に。今日は金曜日なのでカレー食べます」
「お前軍艦かよ!」
ジュリアが寺田にツッコミを入れる。
「さすが大和萌えの神田さん、金曜カレーの習慣をご存知でしたか」
「たりめーだ、また店で本名いいやがって。そのうちオメーなんて三式弾の染みにしてヤンよ」
「ふ…。大和の職人技に頼っている火器管制で高速飛行する航空機に有効弾を送るのは至難の技」
「ざけんな!危害半径225メーターだぞ!」
寺田とジュリアのやり取りを見てたマキがイキナリ
「あー!なんか超カレー食べたくなったんですけどー!!」
と叫びそれと同調するようにカヨも
「やだ、私も何だかカレー食べたくなっちゃったじゃない!」
「よし!じぁ今からカレー喰いに行くか!」
「うぇーい」
宿直の寺田を残しカレーを連呼する女三人をエレベーターは飲み込んでいった。
近辺の飲食店の豊富さは働くモノにとってありがたいものだ。しかも新宿は土地柄、夜遅くまで開いている店が多い。中にはチョット本格的な店もあったりする。
「あー美味しかった♩」
マキはご満悦の表情をして水を飲んでいた。
「やっぱタダ飯は旨さ倍増ね」
カヨも満足気な表情で食後のコーヒーを飲んでいた。
「それはようござんした。ったく女ばかりでよう喰うわ。帰りのガス代大丈夫かな…」
1人ジュリアだけが腑に落ちない表情をしながら財布の中味をみながら満足している二人をチラ見した。
「ジュリアさ~ん送って行って下さいよ~」
「あー!マキちゃんズルい!春菜!私も送って!」
「オメーら二人とも馬鹿か?バイクは二人しか乗れねーの!」
「てかてか、ジュリアさん名前春菜ってゆーんですか?カワイイ~」
「確かに今のアンタの格好で春菜は可愛らしいわね」
ニヤニヤしながらカヨがジュリアの方を見ながらいった。
「ったく。戦艦『榛名』と一緒で由緒正しい名前だろーが」
ムスッとした表情でジュリアはお冷を飲み干した。
「ねーねーところでジュリアさん。戦艦大和ってそんなにスゴイんですか?」
「そりゃスゴイわよ~。大和が表紙だと雑誌の売り上げ全然違うもの」
カヨが変わりに本屋の立場からの回答をする
「うおー!スゲーッすね!売れっ子モデルみたい大和って」
「カーヨー。大和を読モみたいに扱うなよ」
「あら、じゃあ他に何かいい例えあるの?」
挑発するようにジュリアを見ながらカヨはいった。
「あー…。例えばだ。えーと」
マキが目をキラキラさせながらジュリアの方を見ている
「二人とも『超弩級』って言葉しってるだろ?」
「知ってまーす!なんか超デカイヤツの事ッスよね?」
マキが勢いよく答える。
「そうねぇ。あとは映画の新作とかにも使われてるかしら?」
カヨも自分なりの解釈で答える。
「その超弩級って言葉はもともとある言葉を縮めてるんだわ」
「えっ?そうなんスか!?」
「そうだったの!?」
カヨとマキが鼻息荒く前のめりでジュリアの話しに喰いつく。
「そう。超ド級のドって戦艦ドレッドノートの略でドレッドノートを超える大きさの戦艦って意味で本来は使われていたんだわ、その代表的な存在が戦艦大和であって、大和が紹介される度に超弩級って言葉が使われてるから自然ととてつもなく大きいモノの例えに超弩級って言葉が使われるようになったワケよ」
「ほえー」
マキがわかったようなわからないような感嘆の声をあげる
「確かに、何気なく使われてる言葉の由来が戦艦大和から来てるって凄いわね」
カヨの感心した表情をジュリアは見ると、どうだといわんばかりの顔をした。




