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最恐の旅館

目を覚ますと知らない天井ではなく、どうやら保健室のようだった。窓を見れば夏独特の赤暗い色が空を染めていた。恐らく19時くらいだろうか、雨はいつの間にか上がり、体育館から出てくる部活生が帰宅する姿を眺めながら、ふと思う。

(ーーー私を運んだの誰?)

いや頭ではわかっているのだ。倒れた場にいたのは猫葉さんのみだ。猫葉さんの性格的に放置するようなことはしないだろう、、、、、、さらに決定的なこととして理解したくないがこの場にはあの気配を感じるのだ。

(、、、、、、この部屋のどこかにいる)

そう考え、重い腰を上げる。いた。カーテン越しにドア付近を見ると椅子に座り、眠りこける猫葉さんの姿があった。眠っているため首をちょこんと傾ける猫葉さんは普段の美しさとプラスして少し幼げな可愛らしさを兼ね備えていた。ダイヤであろう宝石を装飾した髪飾りとそれに結われた髪が太陽のように輝いている。

(綺麗だなぁー、、、、、、、ひぅっ!?)

いる。 いや、いた。猫葉さんのすぐ真後ろにいたのだ。あのメイド霊が。なぜ気づかなかった? その考えが即座に頭を支配する。メイド霊は直立したまま動かずにじっとこちらを見つめる。両手にあった刀は先程とは違い腰の鞘に収まっていた。そうして数分、あるいは数秒、私は刀を凝視していた。そうして先の光景を思い出し、前髪をゆっくりと触る。無い。やはりあの刀に切り落とされたのだろうか?

「、、、んー」

そんなことを考えてるうちに猫葉さんが大きく伸びをして目を覚ました。

「おや?起きていたか。それでは改めて私は猫葉汐音 といっても同じクラスだから認知はしているか。」

「あ、えと、は、はい。か、影村千夏で、す。」

「そんなに怯えなくてもいい。とって食べたりはしない。と、君は視えているのだったな、 こっちは私の従者だ。先は驚かせてすまないな。」

そういうと猫葉さんは深々と体を畳む。

「い、いえ、私が出しゃばっただけですので、、、」

「さっきまでのは他言しないでくれるとありがたい、クラスメイトを襲ったという事実が広まるのは構わないが魂を近くできると皆に知られるのは困るからな。」

「た、他言しません。と、というよりも他言する友達がいないので……」

「そうか。気を遣わせてしまったな、、、」

気を遣うも何も無く事実なんだけどなぁ

「怪我などは大丈夫だろうか?」

「こ、この通り怪我もないですし、あ、でも髪、、、 で、ですがこのくらいは大丈夫です!では、

もう日も落ちかけですのでここで失礼します!」

もうこの場から一刻も早く離れたい!猫葉さんの話も半分にこの場から立ち去ろう、そんな考えが頭を占める。今は大人しいこのメイド霊がいつ私をまた襲うかも分からない以上、この場は危険だ!

「夜道は危険だろう。どうかな?送らせてはくれないだろうか?」

「え!? は、はい!」

「それは良かった。バスとかかな?」

「あ、はい!少し遠目のバス停です。」

「そうか。では帰宅しよう。」

うぅ、陰キャ特有の「とりあえず返事しなきゃ」という思考を利用されたぁ。 今更こっちから断ることも当然無理だし。

(大丈夫、大丈夫。あの霊も今は危害を加えるとは考えづらい)

必死に自分に言い聞かせつつ帰宅の準備をする。

ハァーー 断ればよかったなぁ、、、

保健室を出て、学校の門を出る。少し赤みがかった雲の少し緊張もほぐれてきた(後ろのメイド霊はまだ怖いが)帰り道も5分ほど過ぎた頃私は重大な点を見落としていたことに気づいた。それも陰キャにとって霊以上の点だ。話題がない !どうして気づかなかったんだ、地味な私とスーパー女子高生では空気が違うのに!

(こ、こういう時は、天気の話だ!)

「い、いい天気ですねー」

「そうだね、さっきまでの雨も止んだからね。少し涼しい。」

「そ、そうですね、」

(ムリだ、、、、、、こんなことなら見て見ぬフリしとけば、、、、、、ハァ、、、)

気づけば会話の続かない気まずさと見捨てておけば良かったなんて薄情な自分への嫌悪のダブルコンボでクソデカため息をかましていた。

「家には誰かいるのかい?」

「あ、えと、同居人が1人、います。」

「ほう、家族ーについては聞かない方がいいかい?」

家族。 長いこと考えてなかった人達だ。

「家族は、別に暮らしています。会えなくはないですけど最近、というよりここ数年は会ってないです。」

「ふむ、挨拶ぐらいはと思ったのだが。なぜなら今日から少し君を預かるのだから。」

「ど、同居人はあんまり帰って来ないので実質ひとりぐら……へ?」

今聞き捨てならないこと言わなかった?この人。

「え、ちょっと どういうこと ですか?」

「とりあえずまずは君の家に行こう。話はそれからだ。」

「は、はぁ」

今にして思えばこの時断っておけば良かったと本当に思うが、もうそれに気づいた時には遅すぎたのだ。

歩くこと数分、やっとの思いでバス停に着き、運の良いことに1分足らずでバスが来た。

バスに乗るといつもは満員バスのように霊がごった返すのだが、いまは数えること数人、というより生きている人しか見えないのである。

(私が霊を見えなくなった、、、訳じゃなさそう。後ろにいるし。いや、コイツの所為で居なくなったのかな?)

「? 乗らないのかい?」

「あ! 乗ります、乗ります!」

考えが煮えきらず、渦のようにごちゃついているが、これ以上はパンクしそうだと思い、後で考えれば良いかとブレーキをかける。

バスが走り出して10分ちょい経っただろう頃、強烈な睡魔が私を襲う。

「猫葉さん、少し眠くなってしまったので『加賀』というバス停前で起こしていただけませんか?」

「ああ、構わないよ。ゆっくりと休むといい。」



(って言ってたのになぁ。 どこ、ここ?)

ざっと数分眠っていたはずの私の体は何故かバスではなく大きな旅館?のような木造建築の前にいた。

「さぁ、入ってくれて構わないよ。ああ、ここは私の所有しているから自由にしてくれて構わない。」

「いやいやいやいや!!なんでですか!?」

「何がかな?」

「これですよ!?なんでバスから目が覚めたらこんな旅館にいるんですか!!」

「それも含めた話は後で部屋で行おう。さぁこっちへ」

「あ、ちょっと!」

そう言って猫葉さんは私の手を引き強引に旅館の中へ誘う。 旅館の中へ入るとそこはまるで竜宮城のような別世界だった。高そうな壺や絵で溢れ、照明が暖かな光を放ち、辺りを優しく包み込む。

「うわぁ…… 凄い」

元からない自分の語彙がありえないほどボコボコにされていくのを実感するほどそこは別世界だった。

「ここを曲がれば大浴場さ。あとで二人で入ろうか」

「あ、はい…… はい!? 」

「さぁ着いたよ。この部屋に入ってくれ、」

(まだお風呂の件を呑み込めてないんだけど!?)

戸惑う思考に反して体は素直に部屋へと入り出す。部屋はよく漫画などにある和室で落ち着く匂いで溢れている。テーブルにはいま出来上がったのだろう食事が豪勢に並んでいる。

「さぁ、好きにかけてくれて構わない。」

「は、はい。」

荘厳な雰囲気に緊張の汗が止まらない。

「では頂きながら話をしようじゃないか」

「は、はい。」

明らかに高そうなお刺身や綺麗に盛り付けられた漬物?に目をやり、箸で口に運ぶ。

(信じられないほど美味しい……と思う、けど気まずすぎて本来の味がわかってるのか分からない)

食べること2、3分ほど 先の帰宅と変わらず、自分の食器の音のみが響く部屋で考えを巡らせる。

(いや、なんで猫葉さん何も言わないの?こっちから話すべきなのこれ?)

「あ、あの、」

「ではそろそろ楽しいお話をしようか。」

「そ、そうですね!あはは、、、」

「?」

陰キャ特有の話被りのシチュを回避したところで会話が始まる。

「まずは改めて放課後の件はすまなかった。なにぶん私も初めてでね、凪が命なく青剣を抜いたのは。」

「い、いえいえ、ちょっと前髪が切れただけですし。こうして命がある訳ですし。」

「そう言ってもらえると助かるよ。この食事はその贖罪と思ってほしい。」

(料金払わなくていいんだ! 良かったよ最も不安なのが消えて)

そこからは本当に他愛ない話のみだった。家族の話とか猫葉さんのモデル仕事の話とか(モデルとかもやってたんだ、すご)こうして食事も終わりかけて緊張も解れてきた頃合になる、がしかし本当に聞きたい事、例えばどうしてここに連れてきたのか(というより誘拐)やメイド霊については何も話してくれなかった。

「っと、すまない。少し野暮用を思い出したため退出する。何かあれば凪に言うといい。」

話の途中で急に猫葉さんが言ってきた。

「え、あの 、え?」

「では失礼する」

反応するまもなく部屋を出てしまう。

ただ扉を出る瞬間猫葉さんの表情が少し不敵な笑みを浮かべ、スーッと引き戸の音を最後に部屋にはメイド霊との静寂の空間が現れる。


猫葉さんが退出の約2分後……

(いや気まずいよ!? てかまだ怖いよ!?だって命狙われてたんだよ!?何故かずっと前髪見てくるし!?しかも何も喋らないどころか動きもしないし!? )

お家に帰りたいと嘆きつつもどうにもならない現状、猫葉さんという普段慣れていたい陽キャとの絡み、メイド霊への恐怖にもみくちゃくちゃにされながらも会話を試みる。

「あ、あのぉ あなたは一体何者なんでしょうか?」

「……」

「ええと、なんで猫葉さんと一緒にいるんです?」

「……」

何を言っても正座を1ミリも崩さないメイド霊。

(はぁ、結局何にも喋ってくれないな、)

ぼーっと障子の網目を見ながら猫葉さんについて考えてたがそれもまとまらずただただぼーっとしていた。一時、気の迷いでメイド霊に触れようと試みて、ゆびを太ももに当てようとしたら人差し指がピクリと動き、

(あ、これダメなやつだわ)

と思い直し、再び元の場所に戻った。

多分6分ぐらいだっただろうか?

メイド霊も居なくなったことにも気付かずに私は緊張もとっくに解け、油断しながら猫葉さんの帰りを待っていた。

直後、ガシャン!

「!?」

ガラスが割れるようないやな音が部屋に響く。

しかし、部屋を見渡しても何かが割れた様子はなく、霊が見える訳でもない。驚き、腰が抜け、扉まで四つん這いで進もうとした。しかし、それも暗闇に遮られる。扉へ近づこうとした時部屋の電気が消え、唯一あるのはテーブル上にある料理を温める炎だけだ。 反応する余裕もなく、ただ踞る。

(……どうして、こんな目に……もうヤダ、帰り、たい……)

「待たせたね、もう大丈夫だよ、」

うずくまって地面を向いていた視界に銀色が映る。

「猫、葉さん……?」

涙でぼやける視界を指で拭い、顔を上げる。

そこには美しい銀髪がなびいていた。

そう、銀髪は…… その下には猫葉さんの顔などなく、というより人の顔がなかった。輪郭を真っ黒に染められ、暗闇に紛れている。

「待たせたね、もう大丈夫だよ」

先程と同じ言葉、声質で私に話しかけるソレの息は不気味な程に冷たく、私の肌を撫でる。

「もうヤダ!!ヤダヤダヤダ!!!帰りたいっっっ!ヤダー!!」

ついにタガが外れた私は、無様な程に泣きわめき、涙が溢れ、声帯以外の身体が動かずにへたり込む。

「ヤダ!や、ダ……」

ソレが真っ黒な手を伸ばしてくる。必死に抵抗しようにも動かず、捕まる数秒を稼ぐために数センチ 数ミリ 距離を開け、その度に畳を引き裂く勢いで掴む。

体感では数分 現実では数秒後 ついにソレの手が顔の真横を通る。不気味な程冷たく、死を連想させるほどの恐怖、目を瞑り遂には覚悟を決めたその時だった。


「凪」

美しく、力強い声が聞こえた。 暖かい風が私を優しく包むような感覚、チンッという金切り音。

「待たせたね、影村さん。」

先と似た言葉、だがそこには間違いなく感情が込められていた。目を開けるとテーブル上の炎に淡く照らされた、美しい銀髪、整った顔、スラリとしたボディを持つ本物の猫葉さんがいた。

「猫、葉……さん?ほ、本物ですか?」

「あぁ、本物だよ」

私にはそれを言われても本物だなんて見極めるような絆も、観察力もない。 でも、それでもこんなに暖かい声色は私の体を突き動かす。

「ゔぅッ 、 ご、ごわがっだぁぁぁーーッ!!」

恥も、なけなしのプライドも全て投げ捨て、猫葉さんに抱きつく。きっと鼻水や涙でぐちゃぐちゃの私を 猫葉さんは優しく抱擁してくれた。

「安心しろ、もう、大丈夫だ。」

「うぇっ ヒッぅ」

私の嗚咽は何分も続き、次第に泣き疲れたのか睡魔が襲ってくる。

「安心して眠ってくれ、」

その声を最後に私は意識を閉じた。


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