0話
この物語には妖怪に対する自己解釈やオリジナル設定が含まれています。
オリジナルの妖怪が登場することもあります。
素人がただ思い付きで書いている物語なので最後まで温かい目で読んでいただければと思います。
※作者に教養がないためここで使っている外国語はAIで翻訳しています。
志乃が海を渡って旅を始めてから1年が経とうとしていた。
志乃は祖先に人魚がおり、とある事件がきっかけで人魚の姿にもなれるようになったので海を渡り、見た事のない世界で学びを広げたいと旅をするようになったのだ。
肩には鼬のような獣を乗せているがそれは志乃の式神の管狐で、12匹いるがそれぞれ特技を持っており、いつも肩に乗るのは12匹いるなかでも一番末っ子で甘えん坊の12号だ。
いつものように自身の隠里に出入口を繋げて帰って来た志乃は妖ノ郷にある樹霧之介の家に行くとそこには樹霧之介がおり、父親の黒根と母親の柚子と一緒に団らんしている。
樹霧之介は見た目は小学3•4年生くらいの男の子なので両親といると、妖怪といえど普通の家庭に見える。
そして黒根と柚子は樹霧之介を生み出した際に妖力を使い、全盛期のような力は使えない。
志乃「邪魔したか?」
樹霧之介「いえ、おかえりなさい志乃さん。」
柚子「今回はどこまで行って来たの?」
志乃「少し寒い場所だけど森と野生動物動物の多い場所だったよ。」
柚子「どんな動物がいたの?」
志乃「車より大きな鹿や狼なんかもいたな。」
柚子「自然豊かな所なんでしょうね。」
樹霧之介「それにしては志乃さん、少し浮かない顔してません?」
志乃「そうか?」
黒根「樹霧之介はよくこやつの顔色なんぞわかるな。」
樹霧之介「最近は前よりも顔に出るようになりましたよ。逆に父さんは付き合い長いのに何で分からないんですか?」
柚子「まあまあ、人には得意不得意があるからね。それで志乃は何してたの?」
志乃「、、森の奥深くに珍しい泉があると聞いて探したが見つからないんだ。」
樹霧之介「志乃さんにも見つけられないんですか?」
志乃「森の中に入ると感覚が鈍くなるんだ。夕方から朝方にかけてなんて霧も出るから視界も悪くて探索が難航してな。探知が得意な5号でも方向すらわからなくなって自信喪失で部屋の隅で落ち込んでしまった。」
黒根「泉があると聞いたのなら言ったものがおるんじゃろ?そいつから何か聞かなかったのか?」
志乃「それが、地方に伝わる昔話なんだ。」
樹霧之介「あるかも分からない物探してたんですか?」
志乃「この手の話は結構事実な事が多いんだ。それに何かはありそうな雰囲気はある。まあ、もう少し探して見つからなければ諦めるよ。」
樹霧之介「その泉に何かあるんですか?」
志乃「聞いた話では見つけたものには幸運が訪れるらしい。」
黒根「よくある話じゃな。それで見つけても伝わるうちに話が盛られて特に何も無い場所だったことなんてザラにあったじゃろ。」
樹霧之介「だけど感覚を鈍くするなんて森を守っているように思えます。しかもそれ、志乃にも効くような強力なものなんですよね?何かはあるんじゃないですか?」
黒根「確かにそうじゃな。志乃、お主でも解除できんだのか?」
志乃「力任せに解除する事は可能だが、よく知らない場所でやると無駄な争いが起きかねない。」
黒根「まあ、そうか。」
樹霧之介「やっぱり探す目的はそれがどんな場所か知りたいからですか?」
志乃「それもあるんだが、、」
柚子「何?他にも何かあるの?」
志乃は少し横を向いて恥ずかしそうに話し出す。
志乃「その泉の名前は直訳すると癒しの泉なんだ。最近帰る度に何かしら面倒な案件を受けてただろ。それなのに私からの修行も休む事なく受けてるから、そこが休めるような場所ならみんなで行ければと思ったんだ。」
樹霧之介「確かに最近忙しかったですね。」
柚子「ねえ、そこ動物も沢山いる森なのよね。ならそこに住んでいるものに聞いた方が早いでしょ。明日私たちも行かない?」
樹霧之介「宝探しみたいで良いですね。志乃さん、連れてってもらっても良いですか?」
志乃「本当は驚かせたかったがそうだな、あそこの探索は木霊であるお前らの方が得意そうだ。」
樹霧之介「それなら僕らだけで探しに行って、他のみんなを驚かせましょうよ。」
志乃「見つからないかもしれないし、思っていた場所とも限らないんだぞ。」
樹霧之介「その時はその時です。」
柚子「そうと決まれば早速準備しましょう。」
志乃「霧が出る時間帯は避けよう。時差もあるし出るとしたら昼過ぎ、3時位が良いと思う。」
樹霧之介「なら今日はもう無理そうですね。」
柚子「それなら明日、連れてってくれる?」
志乃「分かった。」
柚子「ふふ、どんな動物たちに会えるか楽しみね。」
黒根「お前の動物好きは相変わらずじゃな。」
柚子「ええ、可愛いじゃない。」
志乃「柚子なら大丈夫だろうが人を見れば襲って来るような奴が多かった。気をつけろよ。」
柚子「分かったわ。でもどんな子でも平気よ。」
黒根「方向感覚鈍らせるものもいるかもしれんのだ。気をつける分には良いんじゃないか?」
志乃「黒丸も今は木の根を少し動かすくらいしかできないからな。あっち行ったら離れるなよ。」
黒根「傷も治ったんじゃ。あと100年もすればもう少しましにはなるじゃろ。」
柚子「あなたは残っていても良いのよ。」
黒根「柚子が行くならわしも行くぞ。」
志乃「まあ、明日はよろしく頼むよ柚子、樹霧之介。」
黒根「わしを抜かすな。」
志乃「はは。」
怒る黒根を横目に志乃は笑いながら樹霧之介の家を出て行った。
そして次の日、15時少し前に樹霧之介、柚子、黒根は志乃の屋敷へ来ていた。
志乃「準備はいいか?」
樹霧之介「はい、行きましょう。」
そうして志乃たちは志乃が繋げておいた出口から外に出るとそこは鬱蒼とした森の中だった。
陽は高いが肌寒く薄暗いその場所では周りから沢山の動物の声が聞こえてくる。
柚子「この声、あっちから聞こえてくるわね。行ってみましょう。」
樹霧之介「あ、待ってください。」
黒根「おいおい、そんなに急がなくても森は逃げないぞ。」
柚子「動物たちは逃げるわよ。」
黒根「なら走らない方が良いだろ。」
そんな事を言いながら柚子が先頭を切り、黒根と樹霧之介が後を追い、志乃がその後ろからついて行く。
しばらく進むと狼の群れに取り囲まれてしまったが柚子はその中の1匹に近づき話しかける。
柚子「この近くに泉があるはずだけれど知らない?」
柚子の周りにはいつの間にか良い匂いが漂い、それを嗅いだ狼たちは威嚇するのをやめ、柚子はしばらくクンクン言う狼にうんうん頷くと狼たちは退散する。
樹霧之介「何て言っていたんですか?」
柚子「樹霧之介はまだ分からないのね。」
樹霧之介「母さんが中にいた時は少し分かる時もありましたが今は小動物しか分かりません。知っているでしょう?それよりも早く教えて下さいよ。」
柚子「それが、あの泉の事を言っているなら近づかない方が良い。危険だって言っていたのよ。」
樹霧之介「危険?癒しの泉がですか?」
志乃「昔話は話が変わって逆の意味になる事もある。現地のものが言うのであれば探すのはやめておこう。」
黒根「そうじゃな。」
樹霧之介「そう言えばその昔話ってどんな話だったんですか?」
志乃「あれ?詳しく話してなかったけ?」
黒根「聞いておらんぞ。」
志乃「それでも探すのに付き合ってくれたんだな。それじゃ話しながら帰るか。」
樹霧之介「はい。」
4人は屋敷への入り口へとゆっくり歩き出し、志乃は現地民から聞いた話を話し出す。
昔この森の奥に霧に包まれた小さな泉があったがそこは昼でも薄暗く、道はすぐに消えてしまうため村人も滅多に近づく事のない場所だったが、ある年流行り病で次々と人が倒れ家族を失った人たちは悲しみに暮れた。
そんな時、1人残された若者が家族の元へ行きたいと自暴自棄になり、森へと足を運んだ。
野生動物の餌になろうと森を彷徨うが、声は聞こえど一向に出てくる気配はない。
そんな時霧の中に淡い光を見つけて近づくと泉を見つけ、歩き疲れていた若者は泉のそばに座り休むと段々と胸の奥が熱くなり、それは涙となって溢れ出した。
どれくらいの時間が経っただろうか、涙が枯れる頃には若者の胸の痛みは取れ、気持ちも軽くなっており、村に戻った若者が泉の話を村人たちに聞かせるとそれからその泉は癒しの泉と呼ばれるようになった。
柚子「体を癒すと言うより心を癒す泉なのね。」
志乃「それでも何があるか気にはなるだろ?」
樹霧之介「そうですね。無くなる道に霧の中で淡く光る場所ですか。」
志乃「まあ、道に関しては方向感覚が鈍くなるから道の方向が分からなくなっただけだと思うが、、」
黒根「霧の中でも淡く光る、、魂の可能性はないか?」
志乃「私もそう思った。」
樹霧之介「なら、その若者は亡くなった家族の魂と再会して気力が戻ったって事ですか?」
志乃「だがそうなると何故家族と再会した事が語られていないのか。」
黒根「確かに、それが本当ならその部分が抜け落ちる事なんてあまりないものな。」
志乃「まあ、昔話なんてそんなものさ。危ない場所なら近づかない方が良い。お前らの休暇については他にどこか絶景が見れる場所か遊べる場所でも探すか。」
樹霧之介「ありがたい話ですが志乃さんは志乃さんの目的に集中しても良いんですよ。」
志乃「ありがとう。だけどこれも私がしたい事だから。」
樹霧之介「そう言ってくれるのなら、、」
そんな時不気味な風が吹いて志乃が警戒する。
志乃「柚子!」
感覚が鈍くなり近くに来るまで気が付かなかったが、黒い影が柚子を狙って飛び掛かって来たので志乃が咄嗟に庇うと黒い影は近くにいた黒根の中に吸い込まれていった。
すると黒根はよろけて近くの木に肘をつき、頭に手を当てブツブツと何かを呟いている。
???「Ciało… moje ciało…」
樹霧之介「父さん?」
志乃「悪霊の類か。」
???「gdzie jest moje ciało.」
樹霧之介「何て言っているんでしょうか?」
12号「なんか体探してるみたいだよ。」
志乃が旅をしてから分かった事だが12号の能力はただ話せることではなくどんな言語も分かり、話せる能力だったのだ。
樹霧之介「なら今は父さんの体を乗っ取ろうとしているんですか?」
志乃「させないと言いたいところだが、私が祓えば黒丸ごと消してしまう。」
そう言いながらも志乃は一歩前に出て黒根の中にいるものに話しかける。
志乃「Szukasz ciała? To użyj mojego.」
???「Kim ty jesteś?」
志乃「Czy to teraz ma znaczenie? Moje ciało jest silniejsze. Chodź do mnie.」
???「Dlaczego mnie wołasz?」
樹霧之介「志乃さんは何を話しているんですか?」
12号「ご主人、黒丸のおじちゃんに憑いている霊を自分の体に入れようとしてる。」
樹霧之介「え!?危険じゃないですか?、、だけどそうしないと祓えないんですよね。」
柚子「志乃なら大丈夫。見守りましょう。」
樹霧之介「、、はい。」
志乃「On jest moim przyjacielem. Nie możesz w nim zostać.」
???「Więc oddajesz swoje ciało… dla przyjaciela.」
志乃「Tak.」
???「Więc… przyjmiesz mnie.」
志乃「Tak.」
志乃がそう返事をすると急に風が吹き、黒根は体から力が抜けて膝をつく。
柚子「あなた、大丈夫?」
柚子が黒根に駆け寄り、樹霧之介は志乃の方を見るが志乃はその場で佇み、ピクリともしない。
樹霧之介「志乃さん?大丈夫ですか?」
樹霧之介が志乃に歩み寄ろうとした時、黒根の目が覚める。
黒根「う、くそ、、」
柚子「良かった。」
黒根「志乃は?志乃はどこじゃ?」
柚子「志乃ならあそこだけど何があったの?」
柚子が指差す方向を見ると黒根も佇み、動かなくなった志乃を見る。
黒根「やはり受け入れたか。あいつはまずい、志乃とは相性が悪いんじゃ。」
樹霧之介「それってどういうことですか?」
その時志乃の手が動いて呪滅符を取り出し、自分の胸に当てると電撃の様な光が走った。
樹霧之介「志乃さん?」
12号「ご主人、大丈夫?気分悪くない?」
志乃「大丈夫だ。心配かけたな。」
黒根「時間が掛かったの。不安にさせおって。」
志乃「悪かった。」
柚子「まあ、何ともなくて良かったわ。帰りましょう。」
志乃「そう、だな。」
志乃たちが屋敷への入り口に入ると志乃は自室へ戻り、樹霧之介たちは妖ノ郷へ帰った。
樹霧之介は家へ戻ると不安そうに黒根と柚子に聞く。
樹霧之介「最後、志乃さん変じゃありませんでした?」
柚子「そうだった?」
黒根「呪滅符も使っておったし、悪霊ならもういないと思うが。」
樹霧之介「、、やっぱり、僕ちょっと様子見てきます。」
黒根「そうじゃな、少し気になることがある。わしも行こう。」
柚子「2人がそう言うなら行きましょう。」
そして3人はまた志乃の屋敷の隠れ里に入ると管狐たちが志乃の自室前でキューキュー鳴き、大百足も外から覗き込んでいた。
志乃が力を取り戻してから喋れるようになっていた式神たちが喋らず鳴き声を上げている時点で志乃に何かがあった事は明らかだ。
3人は急いで志乃の自室の扉を開ける。
樹霧之介「志乃さん、大丈夫ですか!?何かあったんですか?」
???「お前らか、意外と早かったな。」
そこには志乃の姿しかなく、志乃の声しか聞こえない。
だが部屋には妖気が溢れて志乃の周りには異様な雰囲気が漂っていた。
樹霧之介「あなたは誰ですか?志乃さんはどうしたんですか!?」
???「この体は良いな。怪我はすぐに治り、力が強い。」
樹霧之介「答えてください!」
黒根「そうか、あいつはやはり、まだ、、」
樹霧之介「父さん?」
柚子「最初に取り憑かれた時に何か見たのね?教えて、何を見たの?」
黒根「あいつは自身の名前は忘れておったが周りのものからはディブクと呼ばれておった。自殺した人間が成仏できずに成る悪霊じゃ。」
樹霧之介「志乃さんがそんなのに負けるわけないじゃないですか。」
ディブク「負けるわけない、無事に戻って来るはず、か。信頼は時に人の目を曇らせる。」
樹霧之介「何のことですか?志乃さんを返してください。」
黒根「日本語が話せる時点で志乃の奥深くに入り込んでおる。こうなれば志乃が戻ろうと思わん限り戻る事はないじゃろう。」
柚子「志乃が戻りたくないと思っているって事?」
黒根「そうかもしれん。」
柚子「何で?私たちに愛想が尽きたの?」
黒根「志乃もあいつの死に際を見たんじゃろう。あそこまで入り込まれているのであれば記憶をほぼ共有しておるかもしれん。」
樹霧之介「ですがこれまで志乃さんは様々な死に方をした人や妖怪の記憶を見てきたんですよね?それなのにたった1人の人の人生見ただけで何で取り込まれるんですか。」
ディブク「それは私から話してやろうか?」
樹霧之介「それよりも志乃さんから出て行ってください。」
ディブク「折角の体を手放すと思うか?」
柚子「力づくでも取り戻すわ。」
柚子は香りを放ち、ディブクを眠らせようとするがディブクは眠らない。
柚子「何で?志乃はいつもこの匂いで寝てたのに。」
ディブク「癒しの効果のある香。薬の効かないこの体で何故それが効いたか考えた事はあるのか?」
柚子「それは、、」
ディブク「石が川に流れれば丸くなり小さく削れる。硬いものに当たれば欠けたりヒビも入るだろう。それは人生という名の川に流された精神も同じ事。100年程しか生きないはずだった人間がいきなり終わりの見えない流れに乗らされた辛さがお前らに分かるか?」
柚子「それでも志乃は前を向いていたわ。」
ディブク「そうだな。お前らには支えられただろうが、こいつには既に小さなヒビが入っていた。お前らはそれを包み隠すことしかできなかった。直ることのないヒビは少しずつ確実に大きくなっていった。分かっていたはずだ。」
樹霧之介「それでも、志乃さんは自分からここに残りたいって、、」
ディブク「ヒビを広げた原因は時間だけじゃない。お前らとの繋がりが強くなる度にお前らが包んでいる力が強くなりあいつを締め上げていったんだ。」
樹霧之介「そんな、、」
ディブク「そう、その顔だ。こいつは優しい。優しいが故に嘘を本当だと思い込もうとした。」
樹霧之介「嘘?僕たちといたいって言ってくれたのは嘘だって言うんですか?」
ディブク「全てが嘘じゃない。だが、その言葉はこいつの本心ではない。薄々分かっていたんじゃないか?特にさっきから俯いているそこの2人。」
樹霧之介「母さん、父さん、、」
樹霧之介が隣を見ると柚子と黒根はディブクの入った志乃を直視できず、目線を逸らしている。
黒根「それでも、そのヒビに入り込んで自身の目的の為にそいつを乗っ取ったお主が言えることか?」
ディブク「こいつが旅をしたいと言い出したのは何故だと思う?」
黒根「話を逸らすのか?」
ディブク「お前ら以外の目的を作り、生きる気力を作るため、そしてお前らを悲しませないように距離をおくためだ。こいつはお前らを窮屈に思い始めていたんだよ。」
柚子「そんな事、、」
ディブク「ないと言い切れるのか?私はこいつの記憶も感情も共有した。今こいつの1番の理解者は私だ。」
それを聞いて3人は何も言えなくなった。
ディブク「最後にもう休めと言ったらこう言ったよ。もう、良いのか?私は必要ないのか?って嬉しさと悲しみの感情が同時に流れてきてその後消えていったんだ。」
樹霧之介「消えた!?どう言う事ですか?」
ディブク「そのままの意味だ。今頃天国か地獄にでもいるんじゃないか?」
樹霧之介「ですが生きた体があればあっちには逝けないはずです。」
ディブク「この体はもう私のものだ。伝えたい事は伝えたからな。私はもう行く。」
樹霧之介「待ってください!どこへ行くんですか!?」
樹霧之介の声を無視してディブクが森に繋がる出口に向かおうと角を曲がると誰かにぶつかる。
そこには陽葵とその式神である猫又のハラミがいた。
陽葵「浜名瀬さん?嘘、だよね?何かのドッキリでしょ?」
樹霧之介「陽葵さん、いつから聞いていたんですか?」
陽葵「教えてもらったお札1人で練習してやっと上手く書けたんだよ。まこ姉に浜名瀬さんが帰っているって聞いてさ、今日見てもらおうと思って早めに下校して、、ここに来たのに、、私の事、邪魔だって、窮屈だって、思っていたの?」
ディブク「私なんかに乗っ取られるくらいだ。お前の事をどう思おうがそれくらい追い詰められていたんだろ。」
ディブクはそう言い残し陽葵を押し退けて森へ通じる出口まで行き、そこから出ると出口を閉じてしまった。
陽葵「待ってよ、浜名瀬さん、、私、浜名瀬さんの事、、」
陽葵の目には涙が浮かび、その場でしゃがみ込んでしまった。
柚子「陽葵ちゃん、あなたは悪くないわ。悪いのは、今まで見て見ぬフリをしてきた私たちよ。」
黒根「、、そう、じゃな。落ち込むあいつの姿も見てきたはずなのに、何故か大丈夫だと思い、あいつの弱い部分を見ないようにしてきたんじゃ。あいつは多少力があってもただの死ねないだけの人間なのに。」
樹霧之介「父さん。あのディブクという悪霊の記憶を見たんですよね?どうして志乃さんはあそこまで深く入り込まれたんですか?」
陽葵「ディブクって何?そいつが浜名瀬さんの体を盗んだの?」
真琴「あれ?樹霧之介たち、帰ってたんだ。陽葵も昨日言ってたお札持って来たの?」
樹霧之介たちがそんな話をしていると、修行の為に妖ノ郷に繋がる出入口から樹霧之介の仲間である文車妖妃の真琴、火車の焔、雨女の雫、鳴釜の風見、狸の茂蔵が次々入って来ていた。
陽葵「まこ姉、、まこ姉、浜名瀬さんが、、」
それを見て陽葵は立ち上がり、泣きながら真琴に抱きついた。
真琴「え?え?どうしたの?って言うか浜名瀬さんは?今はいるはずよね?」
黒根「落ち着いて初めから話そうか。」
そう言って道場の方に集まり、全員が座ると黒根は旅先での話から話し始める。
風見「ワイらがそんな重しになっていたなんて。」
柚子「どちらにしろ私と出会った時から志乃の精神は擦り減っていた。幾分か良くなっていると思っていたけれど、見えてなかった、いえ、見てはいたけど深くは考えないようにしていたのよ。」
茂蔵「前に記憶を無くした時、性格変わっていたもんな。」
樹霧之介「あっちが本来の性格なんでしょうね。」
陽葵「どんな感じだったの?」
焔「優しかったぜ。俺らに微笑んでさ、志乃じゃないみたいだった。」
陽葵「それはそれで見てみたい。」
樹霧之介「それより父さん、ディブクの記憶です。何を見たんですか?」
黒根「志乃がディブクに話しかけてくれたおかげでわしはそこまで深くは入り込まれなかった。その代わりディブクの記憶もそこまで見る事はできなかったんじゃ。じゃから見れた事だけ話すぞ。」
樹霧之介「はい。」
黒根はディブクが死ぬ前の話をする。
ディブクは死ぬ前はとある村の護衛をしていて野盗とかも追い払っていたが、主に野生動物が村に入り込まないようにしていた。
彼は体格が良く、自分から護衛以外の力仕事にも積極的に参加し、周りからの信頼も厚かった。
だがその信頼は徐々に形を変えていく。
誰かが困っていても近くに彼がいれば彼がなんとかしてくれる、重い物があれば彼が運んでくれると彼がやる事が当たり前になってしまっていたのだ。
そんなある日彼が夜間の見回りに出る事になるが夜間の見回りは基本2人以上での行動と決まっていたはずがその日は来るはずの人が熱を出して人数が集まらなかった。
だが、彼なら大丈夫と1人で回る事になり、その時は誰もが無事に帰って来ると信じて疑わない。
そして、森の木々で月明かりも遮られている暗闇の中、ランタン1つの明かりで歩いている人間が闇夜に慣れ、物音を消す事に長けた野生動物に気づけるはずもなく背後から突然重い一撃を喰らってしまう。
彼は叫び声を上げたが彼の仲間はそれが助けを呼ぶ声だとは気付かず、彼が野生動物を見つけて追い払っているものだと信じていた。
彼は1人で持っていた斧を振り回し、襲ってきた熊の顔に一撃をお見舞いすると熊は怯んで運良く追い払う事ができ、その後に助けを呼ぶとやっと仲間が駆けつけ治療を受ける事ができたが障害が残り杖無しでは立つことさえ出来なくなってしまった。
誰かを助けて信頼を獲得してもその信頼は時に人を盲目にし、自分を危険へと追いやってしまう。
そんな思いが今まで自分がやってきた事に対して疑問を生み、怒りや悲しみに変わっていく。
お見舞いに来てくれた人の話は耳に入らず、ただただ役に立たなくなった自分の体に絶望し、遂に一線を超えてしまった。
だがこの地域では自身で死を迎えた魂は輪廻の輪に戻る事はできずにディブクとしてこの世で彷徨う事になるという。
焔「それでなんで志乃が入り込まれたんだよ。」
黒根「あいつは元々死にたいと考えていた。その思いが強い時期もあったんじゃ。」
樹霧之介「それでも母さんや父さんと出会って考えは変わったんじゃないんですか?」
黒根「表側はな。ディブクは仲間に頼られ、その為に怪我を負い追い詰められた。志乃もわしらを悲しませない為に願いを叶えられるのにそれを後回しにし、自分を追い詰めてしまったんじゃ。」
陽葵「浜名瀬さんの願いって?」
柚子「不死の能力を無くして他の人と同じように死を迎える事。」
陽葵「それじゃ浜名瀬さんは不老不死をやめれたの?」
樹霧之介「はい。それを聞いた時、志乃さんはまだここに居たいと言ってくれました。ですが結果的に志乃さんを追い詰めてしまったみたいです。」
黒根「そしてディブクには死んで楽になりたいという気持ちが分かったんじゃろうな。それで深くまで入りこまれてしまったんじゃ。」
ハラミ「分からねえよ。生きる事ができるのに死にたいなんて。」
陽葵「ハラミは一度死にかけたんだったね。」
ハラミ「烏共に襲われてな。」
樹霧之介「だけど志乃さんには死ぬなと言うものより、自分の思いを理解してくれるものが必要だったんですね。」
雫「それがよりによって一緒に過ごしてきた私たちじゃなくて、今日初めて出会った悪霊だっただなんてね。」
雫の言葉でしばらく沈黙が流れるが、それを破ったのは焔だった。
焔「なあ、ディブクってやつ、志乃の体から追い出せないのか?」
樹霧之介「ですが、志乃さんは消えたって、、」
焔「そのあいつの言葉、信じるのか?深い場所で眠っているだけかもしれないだろ?」
樹霧之介「僕もそう信じたいですが、12号に聞こうにも志乃さんの布団から出てきてくれないんです。この落ち込みよう、あの時と同じなんです。」
樹霧之介は志乃が惣領と共に地獄へ逝った時の事を思い出していた。
焔「それでも、俺は真実を確かめるまで諦めない!」
雫「でもいいの?もし本当に浜名瀬さんがまだいたとしても精神が壊れている可能性の方が高いのよ。」
焔「なら雫はこのまま放っておけって言うのかよ。」
樹霧之介「どちらにしろディブクを志乃さんの体から追い出す術がありませんし、ディブクの行方も分かりません。今はどうしようもないんです。」
樹霧之介は震える声を力を込めて誤魔化し、拳を握り締め、顔を見られないよう俯いている。
黒根「今回の件、わしが最初に取り憑かれたせいじゃ。責めるならわしを責めてくれ。」
柚子「最初に行こうと言ったのは私で、最初に狙われたのも私よ。だから私にも責任はあるの。」
陽葵「これは、誰かが責められる事はないと思います。偶然が重なった事故なんですから。」
焔「ディブクが志乃の体持って行ったんだろ?事故なのか?」
雫「こんな時に細かい事はいいのよ。」
陽葵「事故のようなものです。」
樹霧之介「陽葵さんの言う通りです。誰かを責めても解決しません。ディブクは多分外国にいると思います。ですが出口が閉じてしまったので行く方法も考えないといけません。」
真琴「そうよね。」
陽葵「まこ姉たちは飛行機に乗れないの?」
真琴「どちらにしろ戸籍がないからパスポートが取れないのよ。」
陽葵「そうか、それに外国となると何回も行けないよね。」
樹霧之介「、、山姥さんに聞いてからですが志乃さんがこの屋敷の出口を繋げていたみたいに妖ノ郷の出口を外国に繋げないでしょうか。」
黒根「それでも繋ぐ場所へは行かないといけん。一度は海を渡る必要はあるぞ。」
陽葵「私が留学で外国へ行けるとなったら席は取れなくても人には見えないんだし一緒に行けないかな?」
真琴「だけど留学ってお金掛かるでしょ。陽葵の家庭ってしばらくお母さんだけで支えてたのに大丈夫なの?」
陽葵「事情を話せば大丈夫だよ。」
樹霧之介「待ってください。留学ならする予定のあるものがいるじゃないですか。」
真琴「そう言えばこの間また野々香が浜名瀬さんに一緒に行こうって予定伝えてたわね。」
陽葵「だけどその場所に浜名瀬さんいるの?」
樹霧之介「海さえ渡れればあとは歩いて探します。志乃さんがしたように妖ノ郷を繋げながらなら負担はそこまで無いと思います。」
真琴「だけど今1番の難関は、、」
樹霧之介「この事をどうやって野々香さんたち、烏天狗に伝えるか、ですね。」
野々香が雛だった時に志乃に助けられた事があり、志乃に付き纏うほど好きだった時期があるのだ。
それからなんとか樹霧之介たちは烏天狗たちや今妖ノ郷を管理している山姥に話をつけて外国へ渡り、その頃には12号も志乃のためと樹霧之介たちの翻訳を担当するため復活して、総出で志乃の手掛かりを探し出した。
だが見つからず、おまけに日本では樹霧之介たちは妖怪界でトラブルを解決してくれる妖怪集団として有名になるとトラブルが起こる度に頼まれて出向く事が多くなり、総出で出ていた志乃探しも手の空いたものがたまに行くくらいになってしまい、収穫の無いまま月日だけが過ぎていった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
次も読んでくれたら嬉しいです。




