56. 魔法使いの世界
白い世界。
立っていた。
体を潰しそうだった力も、土と木の濁流も全てが消えていた。
目の前に体半分程の大きさの光の球だけがある。
いきなり現れた世界の中でただ立っていた。
リスタ―――――――――――――――――――――?
鼓動だけが激しく打ち続けている。
体は粉々になったりしていなかった。だが夢の中にいるかのように、身体にどこか現実感がない。
心臓の上に手を触れながら、左から右へとゆっくりと首を巡らせる。
どの方向を向いても何もなかった。
空と地面が遠くで交わっていたが、地平の果てまでただ白く、なんの音もない。
魔法図書館の出口に似ている。
地面と空の境界が見た目にも物理的にもぼやけていた。いつの間にかわたしは真っ直ぐに立っていたが、足の下に地面がある感覚が乏しい。半分宙に浮いているかのように体重をあまり感じなかった。
何が起きた……?
空間じゅうに白い靄が漂っていた。その靄もすぐ目の前にあるのか遠くにあるのかよく分からない。と、靄の中に白以外の色が微かに見えてはっとした。
靄の中に自分がいた筈の場所がぼんやりと見える。
土と木の濁流。
根元から引き抜かれた木と砕け割れた地面。
五百六十年前に脱出口となった星の「扉」の中に、反対側の景色が見えた時とそっくりだった。ただあの時と違い、時が止まったかのように靄の向こうの世界は静止している。
ここは――――――――――――――――――
古代の魔法使い達が見ていた世界。
なぜかすっと腑に落ちた。
今自分は、この世でもあの世でもない場所にいる。
「―――――――――――――――――――――――」
リスタが連れて来てくれた。
服の上からそれを握り締めた。
どうしてリスタにそんなことが出来たのかは分からない――――――――――だがこれはリスタの力だ。
目の前の光の塊を見つめる。
これがレベルゼのあの魔法だと分かった。
この世界では魔法の構造が目に見えるのだと誰に教えられずとも理解出来た。
丸い光は小さな光の粒の集まりだった。ただ粒の大きさは一様ではなく、同じ大きさの粒同士は部品のように纏まって形を成している。そんな光の部品がある場所では螺旋を描いたり、ある場所では凝縮と散開を繰り返したりしながら複雑に絡み合っていた。
目に見ることが出来ても、この構造を完全に解き明かそうとすればおそらく膨大な時間が掛かるだろう。
だが構造の要となっている部分がわたしには分かった。
「リスタ……」
思わず呟く。
この場所さえ止められれば。
左手を胸の上からそっと外す。その手をを光の方へと伸ばした。
その時、ふいに人間の気配を感じた。
「?!」
ここに他に人が?!一瞬前までなんの気配もなかったのに!!
驚いて視線を上げると、光のずっと向こうに誰かが立っていた。
辛うじて顔が分かるくらいの距離だった。男だ。踝丈の藍色の貫頭衣を纏っている。髪色が濃く、痩せて長身だった。
全身がざわりと総毛だつ。
レベルゼ―――――――――――――――――――――――――




