↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/66

54. 最強の魔法

「ッ……!!」


凄まじい轟音と共に、ず天井が失われた。

宝珠が手から離れ、それを捕まえようとして対処が遅れる。既に存在していなかったが、天井に叩き付けられそうな勢いで体が上に吸い上げられた。


「……!!」


ぎりぎりのところで宝珠を左手に掴み取る。


「上だ……!!」


何が起きているのか分からなかったが、危機の源が自分の上にあることは分かった。上空のそれと自分の間を遮断しなければ危ない。


ほとんど本能的に判断して、魔法の巨大な膜を自分の上に面状に形成した。


「はっ………」

その途端、体が宙から一気に落ちて行き息を呑む。


空中で体を回転させて一応受け身を取ったが、床に打ち付けられる前に魔法を発動させ、宙に体を留めることが出来た。


上からの力を完全に遮断出来ておらず、砕けた床の欠片かけらが体の下でカタカタと震えていた。何かの魔法が、少なくとも神殿全体を対象とする広い範囲に襲い掛かっていた。


「……!」


その魔法を確認しようと空を見上げて声を失った。


丸屋根は完全に失われていて、白い空がそこにじかに広がっていた。九本の柱も原型を保っている物は一本もない。そして神殿の中央の真上に当たる位置に、強烈な光を放つ小さな球体が浮かんでいた。


まるで小さな太陽のように強烈な光。その光が柱も床も自分も、全てを吸い寄せようとしている。


今は保護魔法で威力を防いでいるが、巨大な屋根を千切り取ったのだから尋常な力ではない。



屋根はどこに?



光と白い空しかないことを異常と感じた。


全てが掻き消えたかのように、屋根の欠片かけらや塵が一切見えない。



まさかの中に吸い込まれた………?



「うっ……!」



吸い寄せられる!



保護魔法がびきびきときしむ。体が持ち上がり、床の欠片かけらが宙に浮いた。柱の残りの部分がめきめきと悲鳴のような音を立てる。


外に出るべきだ。


魔法には有効距離がある。その発動場所から距離を取る程影響が弱くなる。周囲を見回して、一番短い距離で脱出出来る方向を見定めた。


「――――――――――――」


まだ完全な形状を保っている物にその時気が付いた。


祭壇と祭壇の周りの床だけ亀裂が入っておらず、綺麗なままだった。


その天面に刻まれたたった一行の言葉が目に入る。



――――――――――――――――――『我が名はレベルゼ』



「………!」


背筋が冷たくなるのを感じながら宝珠を握り締めた。



先ず脱出だ。



そう自分に言い聞かせ、それ以外の一切の思考を頭の中から追い払った。


偶然なのか外までの距離が一番短いのは祭壇の方向だった。恐怖心をねじ伏せ、祭壇へ向かって一息に加速した。


一秒後には神殿の外へ出ていた。



生きて戻ろうと誓っていた外の世界。



だが霧の森は唸りを上げて震えていた。


木も土も光に吸い寄せられそうになっている。



ガンッ!!!



わたしの保護魔法を失った神殿がその時、轟音と共に砕けた。


ゴウッ、という空気を裂く音を立てながら、全てが光に吸い寄せられていく。柱や床だった物同士がぶつかりあい、がんがんっ、と凄まじい音を響かせた。



「――――――――――――――」



その光景に言葉が出ない。



「な………?」



そして予想を超える現象を目にして凍り付いた。



崩壊した建物は光球の中に消えていったりしなかった。砕けた白大理石は光に接触すると、ただひたすらに小さく圧縮されていったのだ。

全てが光の一部となり、光球がわずかに大きさを増す。




ベキベキベキッ!!



「!!!」



突然、周囲の木や地面が砕けた。


あの光球は何かを吸い寄せる程に大きくなり、大きくなった分だけ威力が増すのだと、状況が教えていた。



どうすればいい。



一度考えてから、光球自体を保護魔法で包んで威力を遮断した。だが完全には遮断出来ず、光に向かって吸い寄せられていく空気が風となり体を打つ。



「……………」



理解出来ない。



ここからわたしが逃げたら、そのあとはどうなるのか。


あの魔法も終わるのか?


まさか永遠に拡大し続けるのか。


ここは迷宮の外なのに。




「――――――――――――――――――――――――」




手加減なしの勝負――――――――――――――――――――――




まさか。




レベルゼはまさか、手加減なしの勝負を求めているのか。




――――――――――――――迷宮の外で。





ʄʄʄ



「――――――――――――アルト?」


ふいにたまらなく不安になって、わたしは街道で立ち止まった。


思わず周囲を見回したけれど、どうしてなのか分からなかった。



ʄʄʄ


ごうごうと唸る風が全身を打つ。盛り土の上の強烈な光をしばらくの間見つめていた。そこにあった筈の「神殿」はもうない。



ふと、空腹を感じた。



空腹感が限界を超えたあとは何も感じなくなっていたのに、呪いが解けたために、体が強烈な飢餓を訴え始めた。迷宮に入って食事を絶ってからもう四日が経っている。胃の中に何も入っていない。



「――――――――――――――」



何か口に入れた方がいい。今の自分は食べなければ死んでしまう体だ。


自分自身を保護魔法で包んで風を遮断し、地面に座った。


用意していた携帯食は鞄の中に手つかずで残っていた。背中から鞄を降ろし、ビスケットの包みだけを取り出す。力が出ないのも困るが、あまり食べても激しく動くことになった場合吐きかねない、と思う。


包みを開け、硬く焼いた四角い塊を二つ、苦労して噛み砕いた。呪いが解けたあとの最初の食事としては簡素だったが、贅沢を言うつもりはない。かなり硬いが甘味はあって、それなりの味だった。水は手の中に生成して飲んだ。


すると体の中に微かに力が生じるのを感じた。


空腹感を紛らわせるためだけの呪われていた食事とは違う。



やっと人間に戻れた。



目の縁が一瞬熱くなった。


「―――――――――――」


もう一度鞄の蓋を開け、「小箱」を入れた袋を見つめた。


一度そっとその袋に触れてから蓋を閉め、立ち上がって鞄を背負い直した。


ふぅっ、と息を吐いて小さな太陽を見つめる。



分解は難しい。



あの魔法の原理は、わたしには解明出来ない。



「壊す」しかないだろう。



自分に取れる手段はそれしかない。


もう盛り土しか残っていないが、「神殿」の周囲だけ木がなく、広場のようになっている。自分のいるその広場全体を二重の保護魔法で包み、最初に外の世界との干渉を遮断した。


世界を切り取った音がぱんっ、と軽く響く。


これで光球の引力は外に届かないし、届いたとしても外の物は中に入って来られない―――――自分の保護魔法の強度があの引力を上回っている限りは。



急がなければ空気が薄くなって気圧差で魔法が潰れる。



切り取られた空間の空気をレベルゼの魔法は吸い込み続けていた。



「―――――――――――――――――」



この魔法が止められなかった場合、被害は国や大陸に留まらないかもしれない。


レベルゼに対してもう怒りも憎しみも感じなかった。人間とすら感じられない。ただ受け容れることの出来ない存在として、わたしは最凶の魔法使いと向かい合った。


一度だけ胸に触れ、深呼吸する。


それから、ただ静かに自分の魔法を発動させた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。