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49. 星の試練

落下の一瞬、灯した火をまだ落としていなかったこともあり、銅色の床の裏がぼんやりと見えた。


円形の足場はやはり宙に浮いていた。足場の真下とそのすぐ外側だけ、安全地帯であるかのように何もない。何かの罠としか思えなかったが、ではどんな罠なのかと言われれば見当もつかない。


用意された「安全地帯」を、ただ無策にしばらく落ちた。


足元を見上げる(・・・・)と、ただ消えるに任せておいた火がふっと失われ、空間から赤い色が消えた。


だがそれでも足場の高さだけは薄っすらと明るく、円盤を何重にも取り巻いている板状の影が見えている。そこから遠ざかる程に暗くなって行き、今いる場所はもう、すぐ後ろに続いている筈のみんなの姿さえ見えない程に真っ暗だった。保護魔法を最大強度にしているせいで言葉さえ交わせない。魔力を感知出来なかったら存在を確信できないのではないかとすら思う。周りにどれだけのやいばが落ちているのかも分からなかった。


前を見ると無数の光点が左から右へと流れている。一体あそこまでどれだけの距離があると言うのか、その光では何も見えず、体の周りは漆黒の闇だった。


「―――――――――――――」


後方、つまり上空にやや大きめの火の塊を生成する。


簡易な太陽が全員の姿を照らし出した。一瞬だけ彼らと視線を交わし、それから素早く周囲を見回す。


刃物が二つ、自分達と並走していた。


「……!」


なんのためにただ並んで落下しているのか、分からないことが恐ろしかった。


今自身を保護魔法で包んでいる十人全員を、更にわたしの保護魔法で包んでいる。

保護魔法の強度は魔力の量に左右されるため、わたしのそれは帝国最強と言えた。だが別の言い方をすれば、わたしの保護魔法が破られた時には後がないのだ。


視界があったのはほんの数秒だった。せっかく作った明かりもすぐに届かなくなる。


心臓をゆっくりと締め付けられているかのように緊張が高まって行く。


もうかなりの距離を落ちていた。訓練でもこんなに長い距離を落ちたことはない。

落下の恐怖が強くないのは、何も見えないお蔭で速度を実感しにくいからだ。保護魔法越しのため、風も気圧の変化も感じない。だが経験したことのない速度に達している筈だった。


危うく保たれていた落ち着きはすぐに失われた。


足場からは星のように見えていた光点は、小さな点でも巨大な物体でもないとだけ最初に分かった。


それがぐんぐん近付いて来て、ようやく自分達の速度を感じる。


「………!」


止まってはいけないと思った。


レベルゼは挑戦者が恐怖に駆られて速度を落とすことをきっと予想している。そこを狙わない筈がなかった。


「止まるな……!」


叫んだが保護魔法のせいで聞こえない。進路に立ちはだかる無数の障害物から目を逸らすことも出来ず、右手を上げて前に振り下ろし、「前進」を意味する帝国軍の合図をするのが精一杯だった。


だが際限なく上がって行く速度に遂に一人が耐えきれなくなった。


保護魔法は基本的には外からの魔法の干渉を遮断するための魔法で、中から外へ出ようとするものは妨げない。


右後方にいたガロが、わたしの保護魔法の外側に出たのを感じた。


何かに引っ張られて進路が揺らいだのと、大量の血が飛び散ったのは同時だった。


「?!」


動揺が魔法の維持を困難にする。


「ガロ!!」


フレッドが叫んだのが聞こえた。


フレッドの保護魔法が解けている。


半分に切断されたガロの体がすぐ横を別々に落ちて行った。それを見てしまった女性達の保護魔法も次々に解ける。


そこから先はあっと言う間だった。


何が起きたのか把握しきれない内に全てが進んだ。


上半身と下半身に分かれたガロの体が別々の光に吸い込まれて行く。



「扉」?!



「きゃああああああああああああっ……」


悲鳴が上がる。体が引っ張られて速度が落ち、陣形が乱れた。


間近で見ると、動き続けている白い光は両手で抱えられないくらいの大きさをしていた。全体的に白く光っていて、きゅうなのか平面的な円なのか判別し難い不思議な物体だった。その光が近付くと体が吸い込まれそうになる。


「ガロ!!」


フレッドが呑まれようとしているガロの手を掴もうとした。


その瞬間。



ザンッ!!!



凄まじい勢いで降って来たやいばがフレッドの胸を切断し、ガロとフレッドを道連れにして光の中に消えて行った。


「フレッド!!」


トラゴスが叫ぶ。


「………!!」


やいばの雨に捕まったのだと気付く。


真っ直ぐ落ちているだけではやはりけられなかった。


無数の光の強烈な引力が、やいばと人間を吸い寄せていた。


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