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34. 夜の神殿


ゴウン……


人力ではとても開けられない巨大な扉を魔力で引くと、重い音が立った。

白大理石の空間が明度を増す。

扉の中は魔法図書館の扉と同じに真っ白な光に包まれていた。


胸を抑える手に力が籠る。


中が見えない扉をくぐるのは、毎回かなりの勇気を要した。


ただレベルゼについて調べた時の知見と三つの扉を突破した経験で、扉を潜った直後に死ぬような罠は恐らくないと思っている。


極端に短い時間ではあるが、レベルゼは必ず「罠を理解して対処するための時間」を挑戦者に与えていた。


今自分が向かい合っているのは空恐ろしく思える程に厳正な魔法の勝負―――――――いや、「試験」だ、とやはり思う。


罠を突破する度にレベルゼは本気ではないと思った。そして「合格だ」とでも言いたげなレベルゼの不遜さを感じた。


胸の奥が憎悪でちりちりと焼ける。


レベルゼの迷宮は特殊だ。


罠を突破出来なかった人間はほぼ確実に命を失うように出来ている。魔法使いを選別するかのように。


小さく深呼吸をして気持ちを鎮めた。


そして全身の神経を研ぎ澄ましながら、その扉をくぐった。



―――――――――冷気が頬を包む。二歩目にはもう夜空の下にいた。



何に出会っても冷静でいようと思っていたのに。


自分が目にしているものを理解した時息を呑み、思わずその場に立ち尽くした。



「……!」



弾かれたように後ろを振り返る。だが巨大な扉はもうなかった。これまでずっとそうだったように退路はない。


石の床と草地が後ろに広がっていた。だが少し先は闇で見えない。


ゆっくりと前へと向き直る。緊張のせいなのか、冷たい夜の風と自分の体の間の温度差に上手く順応出来ず、神経が異常の発生を叫んだ。


「なぜ……」


呟く自分の声が掠れていた。


意図が理解出来ない。


石造りのタイルの上に立っていた。土のすぐ上に造られた広大な舞台のような場所に。舞台を奥まで進んだ先に円錐形の丘がそびえ立っている。その丘の頂点に灰色の「神殿」がたたずんでいた。


丸屋根を支える、円形に並んだ柱。色以外は迷宮の入口の「神殿」にそっくりだった。


たくさんの蛍のように宙に浮かぶが、その丘と背後に拡がる森を幻想的に照らし出している。


風が森を揺らし、木の葉が擦れる音が波のように寄せて返していた。満天の星。


こんなに残酷な場所が美しく見えることに寒気がする。


知っている場所だった。この場所に立つのは二度目だ。


だがあの時は、ここは扉を入って最初に出会う場所ではなかった筈だ。


五百年の間に記憶違いを起こしたのかと数瞬混乱した。だがどれだけ考えてもこの記憶を間違えている筈がなかった。


あの時氷の重量から逃げ込んだ扉の中で、わたし達が最初に出会ったのは古代の邸宅の部屋のような場所だった。


そこで仕掛けられた幻影魔法によって同士討ちが起こり、この場所に辿り着いた時には、部隊は三分の一にまで人数を減らしていたのだ。



あの「部屋」は消えたのか?それともどこかに移動したのか?



レベルゼが何を意図しているのか分からない。



「―――――――――――――――」


動揺していた。大勢の仲間を失った場所に出会っても冷静でいられるように、心の中で何度も予行練習を繰り返して心構えはあったのに、簡単に崩れ去った。


予想外のことが起きる可能性もちゃんと考えていたのにいざとなると心が激しく波立ち、それを鎮めることが出来ない。


「……っ!」


心臓を抑え、深呼吸する。


魔法は思念の力だ。動揺が大きいと魔法を上手く扱えなくなる。



目の前の罠を突破することだけ考えろ。

どの道進むしかないんだ。



自分に言い聞かせて「夜の神殿」を見上げた。


これまでと同じであるなら、罠を突破するか魔道具を手に入れた時しか次の場所への道は開かない。目の前の罠に挑まずに済ますことは出来なかった。


「……リスタ」


心臓に触れているそれ(・・)に語り掛けると、ようやく心の波立ちが少しいだ。



「―――――――――――――」



呼吸を落ち着け、歩き出した。




五百六十年前に仲間のほとんどを失うことになった場所へと。


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