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11. 魔法使いの従者

ʄʄʄ


「せめて祝賀会だけでも出て貰えないかね」

「お誘いはありがたいのですが」


ご容赦ください、と言うと、市長は今までになく残念そうな顔をした。


春の終わりの空は晴れ渡っていた。


学者の請願劇から四日後。


街灯の交換工事を終えた大通りでは作業者達が喜びの声を上げながら抱き合っていた。通行止めのための仮設の柵の外側では、見物の市民達も拍手と歓声を上げている。


市の中心部の、二つの交差点の間が最後の工事現場だった。


北側の交差点に設置された柵のすぐ内側で、わたしと自治都市の市長は歓呼の声に溢れる通りを見つめていた。


「アルトさん!」「アルト!」


共に工事を指揮してきた現場監督達が駆け寄って来る。

飛び付いて来た彼らを抱き締め返して喜びを分かち合った。



終わった。



十年かけて魔力で動いていた都市まちの設備を、魔力でも人力でも稼働する物に置き換えた。これで魔法の利便性を即座に手離すことなく、程なく来るだろう魔法のない時代にも備えられる。


建材の確保や精製と言った物理的にどうしても時間を必要とする工程はあったが、それでも驚異的な早さだったと思う。この十年、ミラトルは石材や鉄材が宙を飛ぶ都市まちだった。今の時代では桁外れと言えるわたしの魔力と魔法を投入することで、ミラトルは新しい設備の開発と設置を三倍速で完遂した。


ミラトルの命運を決める事業が終わり、皆ぶつかり合うような勢いで抱き合ってははしゃいでいた。




終わってしまった―――――――――――――――――




十年を共にした彼らの歓声の中で思っていた。



ʄʄʄ


「お疲れ様でございました」


自室の小さな机で向かい合ったオーディーに、一礼しながらそう言われて苦笑した。

もうとっくにすべてが終わっている筈だった。それなのに予定になかった置き換え事業など始め、いつまでもミラトル(ここ)に留まり続けたわたしを、オーディーは何も言わずに見守り続けた。わたしの身勝手にオーディーは最後まで目をつむってくれるらしい。



「……終わったのですね」

「―――――――長い間支えて貰った………ありがとう」



感謝を伝えると、オーディーは目を真っ赤にしてうつむいた。



わたしの秘密を知っていて支えてくれた人達はゼロではない。先祖をさかのぼるとわたしの生家に辿り着くオーディーの家は、世代をまたいでわたしを支え続けてくれた家の一つだ。わたしは彼を、生まれた時から知っている。



ふた月の内にはこの家を出ると思う――――――――後を頼む」

「…………はい」

「―――――――――予定より随分遅くなってしまって、済まなかった」

「いえ」



オーディーは肩を震わせたが、わたしを引き止める言葉は言わない。負担だろうに、全てを呑み込んでくれるオーディーへの感謝と申し訳なさが込み上げた。


家族と離れてまでわたしの最後に寄り添ってくれた彼に、わたしはずっと甘え過ぎていた。



「ありがとう、オーディー」



言葉に乗せきれない思いは結局その言葉おとにするしかなくてそう言うと、オーディーの目から涙が一筋だけ落ちた。


祝賀会に出席せずに戻って来たので陽はまだ高かった。


ほかの誰にも聞かせられない話をいつも自室ここでして来た。


背中に定規が入ったかのようなオーディーの姿勢は昔のままだったが、月日の変化は着実に現れている。

ミラトルに来てからの十四年でオーディーも年を取っていた。家族が待つ場所に彼を早く帰さなければ。



ミラトル(ここ)に来る前にはいなかった彼の孫は、今では八人になっていた。




ʄʄʄ


昨晩の祝賀会は何時に終わっただろう。


「人付き合いが苦手」と称して、公的な会合は可能な限り避けて来た。必要最低限の付き合いしかしてこなかったが、それでもこれ以上ミラトル(ここ)に留まるのは無理だと思う。もう年齢を誤魔化しきれなかった。


来るだろう魔法のない日にミラトルの人々が困らないように。十年の事業をミラトルの人達のために進めたのは嘘ではない。


だが本当は、私的な動機も大きかった。



わたしは自分に理由を与えていたのだ。



秘密を隠しきれなくなると分かっていてなお、ミラトルに留まるための。



そしてその理由を遂に失ってしまった。




十四年過ごしたな――――――――――――




朝陽の差すサンルームで、誰もいない向かいの席を見つめてから立ち上がった。


五百七十年解呪を目指してきたわたしが今(ほか)の道を考えていることは、オーディーにすら告げられていない。


ただどんな結果になったとしても、この屋敷を去らなければならないことだけは変わらなかった。



「魔法図書館に行って来る」

「行ってらっしゃいませ」



長年「魔女」の存在を知りながらなんの詮索もせずにいてくれたオーディーは、何かを察しているのだとは思う。


だが彼は、今日も黙ってわたしを送り出してくれた。


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