Ⅷ.森への旅立ち
Ⅷ.森への旅立ち
「今や、貴方は「扉」、すなわちこの『緑の書』を手に入れた。『緑の書』!いい呼び名ですね。ユングの『黒の書』とも『赤の書』に通じるが、どちらとも違う色。これは面白い。」
何となく俺が『緑の書』という名前をこの本につけると、初老のヘルメスは饒舌に喋りだした。
「「扉」を手に入れたということは、貴方はこちらの世界にとって単なる客人ではなくなったということです。ということで、もう少し、貴方に説明をしなくてはならなくなりました。」
「しかし、焦っても仕方がないでしょう。珈琲でもいかがですかな?」
そう言ってヘルメスがテーブルに手を差し伸べると、手品のようにテーブルの上に白い上品なカップに入った黒い液体が現れた。いまさら、このぐらいの不思議で驚きはしない。だんだんと常識がマヒしてきているのだろう。
「それでは、珈琲を持って小屋の外へ出ましょう。」
ヘルメスは珈琲を手に取り、俺もそれならう。そして、扉へと歩み寄る。『緑の書』に描かれていたのが、この部屋「扉」であったことに気づく。木製で簡素ではあるが、しっかりとした作りで頑丈そうである。
ヘルメスが扉を開けると、そこには以前見たのと同じ巨大な森が広がっていた。コーヒーを片手に持ち、ヘルメスが先出るように慇懃に促してくる。
外に出ると、ふたたび語りだす。
「ようこそ、まずは、少し森へ入って行きましょう。今回はもう少し色々と説明させていただきますよ。さあ行きましょう、二度目の『始まりの森』へ!」
ヘルメスは小屋から森へと続く小道に向かって歩き出し、俺も珈琲を持って後に続く。