婚約破棄された令嬢の娘と婚約破棄した王太子の息子の結末
「お父様~!」
鈴のような音がリディア・ユン・ハウルの耳元に届く。その声に視線を落とすとまだ7つと幼いながらに完璧な淑女の礼をした我が子がそこにいる。
「リアリ、どうしたんだい?こんなところで」
そう言って、愛しい人と同じ顔をした子供を抱き上げる。
「外交に出向いておられたお母様が戻られたので、今からご挨拶に行くの」
「そうかい………お父様も一緒に行けたらいいんだけど………」
「お父様はお仕事をして下さい」
「分かってるよ。リアリ」
母親譲りの可愛い顔をした娘は自分譲りの色彩で咎めてくる。ちなみにこの現実逃避すら許さない可愛い娘は思考まで母親そっくりなのだ。二つ上の正妃との息子はこの可愛い妹に好かれたいがために日々、公務に勉強と励んでいる。
ー本当に単純だー
「君はお母様にそっくりだ」
そう告げると国民から大人気の母親が大好きなリアリが目を輝かせて微笑む。その笑顔こそが母親にそっくりだ。
ー喜んでー
その言葉を聞いたあれから十年近くの月日がようやく流れ、先日ついに“資金力”を手に入れた。海と技術はフローリアとの婚姻が固まってから相次いで婚姻した。この度の婚姻でついに第四王妃にまで下がってしまったがフローリアは気にすることもなく。嬉しげに執務室で仕事をしていたらしい。海を持つ正妃と技術を持つ第二王妃と上手くやっていけるのも彼女がいるからだ。
ーしかしー
フローリアとの結婚式以上に記憶に残るものはないだろう。
“私は病めるときも健やかなる時も国とともに”
王を支えるか?と聞かれた彼女はいつも以上に凛とした表情でそう答えた。ざわめく出席者をものともせず、彼女はただ真摯だった。
“国とともに生き、国とともに死にましょう。私の全ては国のために”
その言葉こそ、自分の欲しいものだと分かった瞬間。自分も同じことを誓った。
ー欲しいものは豊かな国ー
誰も泣かなくていい国
誰も飢えない国
ー何よりー
互いに必要だと認めた相手の傍にいられれば幸福だった。
「リアリは可愛いね。どこにもお嫁になんて行かせたくないなぁ~」
可愛い娘を“ぎゅっ”と抱きしめれば娘が眉根を寄せる。
「お父様、ふざけないで下さい。私は国のためにどこかに嫁ぐ事が責務です」
「………そうだね」
自分譲りの黒髪を揺らし、紅い瞳の幼女は容赦なく父親に現実を突きつける。この思いきりの良さは母親譲りだ。
「そろそろ下ろして下さい。お父様」
「ああ」
まだ七歳の娘にリディアは微笑む。
「いっておいで。お母様の所に」
そう告げると完璧な淑女の礼をして我が子が母親の部屋へ走っていく。普段、おしとやなか娘の様子とは思えない行動にクスリと笑う。再び、公務に向かうために回廊を歩き出した所で背後が騒がしくなる。その騒ぎが段々近づいてくるのに気づいてリディアは歩を止める。
ーもう………すぐそこまで来ているのだろうー
騒ぎが一段と大きくなるのにリディアは背後を振り返る。
「お帰り、フローリア」
数ヵ月ぶりに会う彼女はただ優しく微笑んだ。
最後までお付き合い頂きまして誠にありがとうございました。誤字・脱字が多々あり、ご迷惑をおかけしました。
少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。