表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

Tとアルファ

ハル、チェルが東京地下街を逃亡する二日前、ブロックエイド治安省治安部に所属するTはウェブを見ながら違和感を抱えていた。

ウェブの内容はブロック内一家連続殺人事件


「なあ、どうよ、アルファ?の犯人がいまだにわからないってのは?」


「なにか、変ですかね?T?」


Tは治安省二階の治安課の自分のデスクに座りながら、カップのホットコーヒーをすすっていた。

湯気はとっくに消えている。

隣のデスクにいるのがアルファ、Tの同期だ。Tと同じ27歳。


「絶対変だろう、このブロックエイドがインフラに引ける時代にさ」


画面をスクロールしながら、疑念をこめて言う。


「よくわかりませんね。根拠を示してもらいたいものです」


アルファは相手にせず、短く、真剣には答えなかった。

どこでそんな習慣になったかはわからないが、アルファは普通にしゃべるときはいつも丁寧語のテイストが入った口調になる。


「あーん、なんていうかさー。いいなぁ、捜査部はこんな事件を調べられるなんてさ」


捜査部とは同じ治安省に作られた長期事件を捜査するための部である。


「そんなこといってないで、早く行きますよ」


アルファはオフィスのエレベータに向かった。


「はいはい」


Tはデスクを立って、コーヒーを飲み干してアルファについていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


治安省をでて、近くのブロック内の壁に向かう。

ここ治安省本部のあるブロックは、中に治安部以外の省ももっている。

壁に近づくと一部分が扇子を逆にした扇形に開く。

中は白を基調とし、両側には縦に二つつながった椅子が壁に作りつけられている。


『目的地を選択してください』


中に入ると、早速ライナーから声がかかる。

ライナーの最初の決まり文句だ。

T、アルファは手前奥に互い違いに座る。


「どこだ?」


アルファに聞く。アルファは首を斜め上に上げて


「江戸川C1」


と告げた。

ライナーに伝えるには、首を上げなければ音声認識が入らない。


『了解しました』


扇型の入り口が閉まり、ライナーはゆっくりと動き出した。


「江戸川?また、ずいぶん東だな」


「あなたが、ウェブを見ている間に連絡があったんです。万引きですね」


またこれか、Tは思う。


「初犯か?」


「そうですね、ご高齢の女性らしいですよ」


アルファは淡々と言う。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


約八分後、江戸川C1ブロックについた。

着く直前、ライナーからどこにつけるか注文があったので、万引きがあったスーパーに近い場所につけてもらった。

扇形の出口から出ると、秋の柔らかい日差しの太陽が照らしていた。

スーパーはここから行った商店街の中にあるらしい。

商店街の人ごみの中に混じり、目的地向かう。

向かう際、さまざまな、この時間帯だから中年の女性が多いのだが、彼らの服装には東京の中心部と違い華がない。

毎回、遠くに来たときには思うのだが、どうして同じブロックエイドでつながっているのに、東京中心部とこうも雰囲気が変わるんだろう?

三分ほど歩くと、スーパーが見えてきた。

やはり、こちらも華がない。

中に入って、店員に話を伝えると、店の奥へ通してもらった。

縦に木目調の長机が二つ向かい合わせにおかれ、四つ角にはプラスチックの椅子があった。

角の奥には女性が座っていた。


「ああ。来ていただけましたか、どうぞ」


近くにいた、店の店長らしき男が席を進めてくる。

さっそく二人は座る。女性は白髪の入り混じった、整っていない髪で、防寒具の紫色のカーディガンを着ていた。

首を横にうつむけながら、自分たちに視線を合わせないようにしている。

年は60代だろうか?アルファはおだやかに言う。


「これ、お金払わず取ってしまったんですよね?」


目の前には菓子パン一個。これが万引きされたものだろう。

だいたい、こういう場合には、事情聴取はアルファにやってもらっている。

自分がやると、厳しく相手を問いただして、萎縮してしまって相手が黙ってしまう。

これが、Tには耐えられない。


「ええ・・・」


女性は目をそらしたまま、小さな声で言う。


「どうして、とってしまったんですか?」


女性は黙ったままだ。

はっきりしてもらえないのが、Tには苛立ちを覚える。

アルファは声のトーンは変えずに、


「我々はおばあさんが言わないとわかりませんよ、わかってあげられません」


女性は、アルファが自分を厳しくする人物ではないとわかったのか、アルファに視線を一瞬合わせて、つぶやくように言った、


「これが・・食べたかったんです…」


口調がゆっくりなものだから、どこが言葉の切れ目なのか、いまいちわからなかったが、アルファのにわかったらしく、


「そうですか、でもね、おばあさん、お店のものはお金を出さないでもっていっちゃいけないんですよ」


「はい・・・」


「じゃあ、行きましょうか」


女性に言い終わった後、アルファは店長に向いて、


「こらからもおばあさんには、ここで買い物をさせてあげてください、我々がよくいいますので」


私はいいたくはない。店長はアルファからの予想外の願いを受けて、


「はっ、はあ」


と、肯定だか否定だかよくわからない返事をしてしまった。


「ありがとうございます」


アルファはそう告げて、女性をつれて店の出口へ向かってしまった。

Tは店長に一礼して、アルファについて行く。

アルファは女性を連れたまま、行きに来た道とは逆の方向にゆく、程なく公園が見えてきた。

空いているベンチにアルファと女性は座る。

Tは近くに立って話を聞いていた。

治安省はいかなる犯罪に対しても書類を作らなければならない。それも、電子化がほとんどの時代に手書きである。

アルファはペンとバインダーを持って、女性に質問をしていく、名前、生年月日、住所など。間にちょくちょく世間話、天気の話から始まって、女性の親族やら、人間関係やら。書類を作るには必要ないことを次々に聞いてゆく。

その間はアルファから離れるわけにもいかないので、公園にある遊具で遊んでいる子供たちをずっと眺めていた。

公園で遊んでいた子供たちが公園を去るころ、話が終わったらしくアルファは女性と別れて、Tのもとに来ていた。


「長いよ、お前」


Tは早速、アルファに文句をぶつける。文句というより、当然いってもいいはずである。


「すみません、どうしても話が続いちゃって」


「そんなことは知らん、聞くことだけきいて、さっさときりあげればいいだろ」


「冷たいですね、Tって」


こういうとき、アルファは女々しいなと思う。


「それが、仕事だろ」


こんな、飽き飽きしたことが仕事なのは嫌なものだが。

Tはさらに、気になったことに突っ込む、


「それに、なんだよ、『これからも買い物させてあげてください』って、俺らはあのばあさんの保護者じゃないんだぞ、店なんてブロックエイドでいくらでもあるんだから出禁でいいだろ」


「だって」


アルファが反論する


「だって、あのおばあさんには、あそこのエリアがテリトリーなんですよ、きっと。それを奪ってしまったら、おばあさんはより狭い場所を生きなくちゃいけない・・・」


「それは、ばあさんの問題であって・・・」


「Tはわかってないんですよ。私たちのように、まだ若ければテリトリーの広げようがあるってものです、でもあのおばあさんには無理じゃないですか」


アルファの言うことはわからないわけじゃない。

でも、それは甘すぎるように思えた。

さっき、自分はブロックエイドにどうして差があるのかと思った。

わかった、たぶんテリトリーが固定されて、変化しないからだ。


「もう、いきますよ」


アルファはもと来た道に向かっていた。


「はいはい」


Tはアルファについていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


そのあとも、ブロックを変え、近くの地域で万引きの件を二件扱った。

アルファも一件目程には話をせず、書類をかいた。

終わった時、時刻はお昼に近くなった。

基本T、アルファのような、外回り組にはシフトがある。

Tとアルファはここで休憩を挟んでから、本部に戻り、仕事をやることになっている。

治安省に戻り、一階にある食堂に入って昼食を取る。

Tはカツ丼、アルファはナポリタンを食べ始めた。


「なあなあ」


「何です、T?」


アルファはパスタを絡める手を止めて答える。


「連続一家殺人のことなんだけどさ」


「それ、食事中にする話ですか?」


「いや、まあ違うんだけど。俺なりに気づいたことがあってさ」


アルファはナポリタンをほおばりながらうなずく。


「事件はさ、全部、子供が二人以上いてさ、それで、全部三層の個別型でおきてるわけよ」


三層とはブロックエイドの下から三番目、最上位の階層に当たる部分だ。

主に住宅街を扱う層で、東京の中心から離れているところにはない場合がある。

個別型はブロックの単位を住宅単位に切り分けてライナーが住宅の入り口まで来るように設計されたものだ。

ここ十五年くらいにできた新しい型で富裕層に人気がある。


「そこで、考えたわけよ」


Tは自信ありげに、ポケットから小さな黒い塊を3つほど出す。

大きさはシャープペンシルについた消しゴムくらい。


「条件に合う住宅にお邪魔して、これをつける」


「これ、なんなんです?」


手のひら平をまじまじと見ながら、アルファは言う。


「携帯監視カメラ、画質はあんま良くないけど、秋葉行って作ってみた。苦労したんだよ、これな・・・」


Tが話をするところをさえぎって、


「そんなん、違反に決まってるじゃないですか」


「そりゃ、そうだよ、アルファ」


Tは自信に満ち満ちている。


「でもさ、このままこの仕事を続けたって、俺らにはなにもないぞ。

それに、おまえ6年前の事件で元捜査部じゃん、これでキャリア組に乗っている連中をみかえそうぜ」


「それは、つけたお宅に殺人が起きろってことですか?それなら、賛成できませんね」


アルファははっきりと言う。Tはあわてて、反応する。


「ちがう、ちがうよ、アルファ。これは、予防線なんだよ。万が一に事件がおきたとき、これで犯人の手がかりがつかめるだろ。指名手配にでもなれば、犯人は逃げるしかない、そしたら、犠牲は最小限になる。そのためなんだよこれは」


実際には、それはメインの理由ではなかったが、Tは説得を続けた。しばらくすると、アルファもその気になったのか、


「ふーん、言いたいことはわかりました。納得はできませんが、効果があれば、たしかに被害はへらせますね。良いでしょう。いつ、やるんです?」


「今日、早く昼飯たべちまおう」


「このあとですか、せっかちですね、確かに効果の点から言えば、早いほうがいいのですが、わかりました」


お互いは昼飯を急いでかきこんで、たいらげた。

お互い立ち上がって時、アルファは言う。


「あまり、Tはわかってようですが、一般市民の監視の違反は罪が重いですよ、首くらいは簡単にとびます」


「えっ、そうなの、やめようかな」


「いえ、効果が期待できる限り、やめるべきじゃありません。市民をまもることにつながるわけですから」


アルファは誰かを守るときには、何もいとわないから怖い。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「・・・治安部治安課なのですが、最近、連続殺人が起きていまして、そのお知らせにうかがいたいのですが」


もしかしたら、殺人犯は実際こんな方法を使っているのかもしれない。

Tはライナー内のモニターに言いながら思う。

個別型の住宅に外部から入るためには、住人の許可を得なければ入ることは出来ない。

母親らしき女性が答える。


「ああ、そうなの・・・あいにくなんだけど、今、手が離せなくて」


「そうですか、わかりました、また後日にうかがいます、失礼しました」


たぶん、二度と行くことはない。

それをするくらいなら、他の家を探す。

Tは焦りはじめていた、入れてくれた家は今のところ一軒もない。

あれで、三件目である。


「T、もういいじゃないですか、他の日で」


アルファは少し冷静さを取り戻したのか、改めるよう促す。


「おまえ、さっきは乗り気だったじゃないか。いいよ、次で最後にする」


さっき、急いで刷ったリストの住所をライナーに伝える。

次の家は川内家


「はい?」


「お忙しいところ申し訳ございません。

こちら治安部治安課なのですが、最近連続殺人が起きていまして、そのお知らせにうかがいたいのですが」


結局、これも理由をつけられて断られるだろうと思っていた。


「ああ、なるほど。わかりました。今、通しますね」


予想外の返事だった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


わかってはいたが、川内家は相当裕福な家であった。

ライナーから降りると、身長を超える洋風な格子の門、先には黒の石が埋められた道が家の玄関につづいている。

沿って歩いていくと横にはガーデニングできそうな花壇と使われていない噴水があった。


「どうぞ、こちらからあがってください」


玄関の扉が開き、母親が迎えいれてくれた。

中に入ると、玄関のたたきには乳白色の石が敷かれ片側には壁に備えつけの下駄箱がたたきを越えてつくられている。

その上には、何かの記念のテディベアにその他もろもろの人形と川内家家族の写真がならんでいる。母親は奥の部屋にすでにいってしまったようだ。

Tは

「ここだな」

と言って、スーツの胸ポケットからカッターナイフを取り出し、テディベアの胸あたりを小さく切った。

そこに監視カメラを埋め込む。

テディベアの長い毛であまり目立たない。


「さっ、アルファ。後は任せた」


この後の事をアルファに任せ、二人は母親の入っていった部屋に入っていった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


川内家に警告と用心を促して、Tとアルファは治安省に戻り、午後の仕事をした。

やることは書類の整理、たまに別の階の調査部に向かわされて、証拠の整理などの雑用をやらされる。

正直、誰がやってもできて、つまらない仕事だ。

今日はその仕事らしい。


「高田さん、三上さん、今日は調査部にいって仕事をお願いします、4階にお願いします」


治安部の事務の女の子がデスクにきて伝えてくれる、ちなみに、高田はTのことで、三上はアルファのことだ。

それには由来はあるのだが、いまはいい。

四階の調査部に着き、廊下を歩いていると、前から、知ってる顔が歩いてくる。


「あれ、Tさんとアルファさん」


女は立ち止まって、もの珍しいものにあったかのように挨拶をする。彼女は宮野志穂。

捜査部の殺人課、自分たちの3つ下の後輩である。


「どうしてここにいるんです?」


「雑用係で来たんだよ、おまえら調査部の」


「それは…大変ですね」


宮野は殺人課の中でも、良くできる新人と噂には聞く。けれど、宮野はそれを鼻にかけたりしない。


「おまえら殺人課のほうが大変だな、例の一家殺人で」


「ええ、本当です」


宮野はため息をつく、


「足跡とか、衣類のカスとかそんなのは見つかるんですけど、決定的じゃないんですよね。もっとわかりやすいものが見つかればいいんですけど…」


「あっ、そうだ」


「どうしたんです?」


思い出した、川内家のカメラだ。


「宮野、今日の昼間、俺らな・・・」


宮野に川内家にカメラを取り付けたことを話す。


「それ、マズイんじゃないですか、違反のはずです。アルファさんも一緒にやったんですか?」


アルファは隣で申し訳なさそうに、うなずいている

。元調査部のアルファといい、調査部はルールにうるさいやつばかりなのだろうか。


「うるさいな、予防線にはなるだろ。で、お前にはな…」


「わかりますよ、起こったら、とりに行けって言うんですよね。そんなのおこりえませんよ」


宮野はきっぱり言う。宮野は左手の時計をみて、


「私、もういかなきゃいけません。でも、そんなのおこりませんから。それでは」


宮野は走って、エレベータのもとに行ってしまった。

忙しい女だ。


「さて、俺たちはつまらん仕事をやりますかね」


翌日、Tはデスクに出勤してきた、携帯に電話がかかる。


「はい」


「Tさん…」


宮野の声は震えている。


「宮野か、どうした」


「Tさん、本当に起こりましたよ、川内家で、みんな殺されました」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ