52 暗殺未遂
どこから飛ばされてきたのかも見当が付かない。ここ、二階だし……。
「魔法?」
私はそう呟きながら、影も形もなくなった矢を思い出す。
……まずい、暗殺されそうになった証拠を跡形もなくきれいさっぱり消してしまった。刃先に毒が塗られてたかもしれないとか、もしかしたらどこの矢か分かったかもしれないのに……。
「己の愚かさに頭抱えてしまうわ」
でも、暗殺しようとするぐらいだから身元が分からないようにはしているか。
ノア達ではないということは分かる。彼らが何かアクションを起こすならメイとしての私に言うはずだ。
ということはノア達以外の者の仕業。……ダレ?
私ってそんなにありとあらゆるところで恨み買ってるの? それとも単に私が死ぬと何かしらの利益をゲットできるとか?
片手で顎を抑えながら、ノア達のことを考えた。もし、彼らが私の知らない所で他の暗殺者を雇っているってことは可能性として普通にあり得る。
明日、聞いてみようかな……。もしそうだとしても教えてくれないだろうけど。
…………いやいや、待て、私。
この状況を冷静にとらえてみれば、暗殺者は私がクロエ・リベラだと分かっていたんだ。ノア達は私を商家の娘メイとしか知らないはず。
私をクロエ・リベラだと分かっている人物? ……ダレ?
何度考えても「ダレ?」の答えにたどり着いてしまう。私って探偵向いていないのかもしれない。
こんなに命を狙われるなんて、悲劇のヒロインじゃない、私。
あ、でもヒロインには王子がいるのか。……ゲッ! クロエちゃん完全に悪役だ!
バッドエンドしかないってこと? いや、王子様を作ればいいのか。
父に頼んで等身大の成人男性を粘土で作ってもらおう。呼吸していなくとも、王子がいるっていう雰囲気だけ出せれば十分だ。
「……てか、私から婚約破棄を申し出すことって出来ないのかな」
公爵家から王家に婚約を破棄してもらうことは下手したら不敬罪になるかもしれない。立場的に逆だったら簡単に出来るだろうけど。
ノアはとっとと婚約破棄したがってはいるけれど、王が決定したことはそう簡単に覆せないもんね。
明日にでも父に相談してみよっと。
……なんだか改めて父の気持ちを実感した気がする。私が外に出れば殺されるかもって考えたら、父が私を屋敷から出さなかった理由が分かる。
私が暗殺されかけたなんて言えば父は血相変えてより過保護になるかもしれないけれど、ここは覚悟を決めて伝えないと。
自分の自由は自分で勝ち取らないといけないもの。
正直前の生活に戻るのなら、死んだ方がましだって思っている自分もいる。暗殺されかけているけれど、ノアと出会ってからの今の刺激的な生活を選ぶ。




