40 馬が合わない
「は?」と、カイはマシュー先生の言葉に顔を顰める。
「なんで僕がこんな女の面倒見ないといけねえんだよ」
そんなに口が悪いのに、一人称が「俺」じゃないことに驚きだ。
一応年上だから、少し下手に出ておこう。
「よろしくお願いします」
私は右隣に座っている仏頂面の男にお辞儀をして、謙虚さを見せる。
穏やかで優しい女子生徒でしょ? 気に入らないわけがない。
マシュー先生も私の言動に目を丸くしている。ある意味失礼よね。私もこれくらいは猫かぶれるわよ。
「もうちょっとマシな髪の毛にしてから言えよ」
こいつにはデリカシーのかけらもないのか。
……猫かぶれるって言ったけど、前言撤回したい。
たった一人のクラスメイトだから仲良くしようと思ったけれど、絶対に無理だ。それならまだ私を殺そうとしているノアとの方が仲良く出来るかもしれない。
「劣等生なの?」
私は軽くカイを睨みながら口を開いた。彼は気分を害したのか「あ?」と眉間に強く皺を寄せながら私を睨み返す。
敬語は使わない。だって、私を馬鹿にしてくるような人を敬う必要ないもの。
「だから、私の面倒見たくないんでしょ? ダサいところを見せたくない虚勢?」
「そんなに痛い目に遭いたいか?」
「それでカイ様の強さが分かるのなら」
私は怯むことなく満面の笑みを彼に向けた。彼は歪な笑顔を浮かべながら、思い切り机を蹴り飛ばし私の前へと立つ。
飛んでった机を見ながらマシュー先生は「あああ」と額に手を置いて悲愴な表情を浮かべる。
この人はそんなに何かを蹴ることが好きなの? 言ってくれればボールぐらいプレゼントするのに……。
「お前、今日から入って来たんだろ? 基礎も知らねえのに俺に勝てると思ってるのか?」
基礎はかつてマシュー先生に教えて貰ったことがあるから分かる。……知っているのは基礎だけだけど。
「これでカイ様が負けたら傑作ね」
「この女ッ」と、彼が私を殺気ある瞳で見下ろす。
その瞬間教室中が熱くなった。一気にカイからの圧力を全身で感じる。この重圧の中で立ち上がることも難しい。
……挑発し過ぎたかも。
メキメキと床や壁が音を立てるが壊れる様子はない。きっとどんな魔力にも耐えれるように魔法が掛けられているのだろう。
まぁ、この学園の財力だったら、壊れてもすぐに新しく出来るか。生徒数二人なのに、火の魔法が一番お金がかかることになるかもしれない。
これからもカイと喧嘩せずに仲良く出来るかって言われても、首を縦に触れない。
マシュー先生は私達の様子を見ながら少し戸惑いながらも、諦めた様子で呟いた。
「また教室を改装することになりそうだ……」
いや、先生、こういう時は生徒達の喧嘩を見守るんじゃなくて、止めるのよ?




