38 嫌いな属性
私の言葉にノアは目を見開いたまま固まっている。
さっき私を殺すぞって遠回しに脅していたのはどこの誰よ。
何よその顔、と心の中で呟く。
「私はそういう運命みたい」と、付け足す。
イアンもジャックも驚いた様子で私を見つめている。
私の暗殺計画を立てているくせに驚いてどうするのよ。そんなんじゃ、私殺せないよ?
「……生き様は?」
ノアの低い声に私は小さくため息をついてしまう。
「さっき答えたでしょ」
「本心じゃないだろ」と、ノアは射貫くような目で私を見つめる。
「……恥をかくことなんて少しも怖くない。自分の運命に抗って生きてやるわ」
「悪くない目だ」
ノアのその言葉は褒めているのかどうか分からないが、彼のその声はとても穏やかだった。
まぁ、自分の運命に抗うってことは結果的にはノアを敵に回すことになるのだけど……。
彼は私に背を向け、自分が座っていた場所へと戻っていく。その瞬間にまた甘い匂いが鼻をかすめた。
……グレディの匂い。
また夢のような記憶が頭の中に流れる。
太陽は空高く昇り、青々とした草原の上で一軒の小屋が炎に包まれている。私はその場から動くことが出来ない。ただ燃えて崩れていく小屋を黙って見つめている。
隣で誰かと強く手を握っているが、それが誰か分からない。ただグレディの香りが微かに漂っていたことは覚えている。
これは本当に私の記憶? 妄想? ……どうして鮮明に思い出せないのだろう。
「それで、お前の属性は?」
私はノアの声にハッと我に返る。
彼は椅子のひじ掛けに肘をつき、手で顎を軽く抑えながら私を品定めするような目で見つめる。
レディにそんな目を向けちゃダメだって教育されなかったの? 怖くて失神されてもおかしくないわよ?
乗り気にはなれなかったが、長い机の上にあった蝋燭全てに火をつけ「天敵ですね」とノアに微笑む。
彼は暫く目の前でつけられた蝋燭を見つめたら、声を出して笑い始めた。
ノアがこんな風に笑うなんて……。なかなかレアじゃない?
もしノアが今日の女子生徒達の前でこんな風に笑ったら、大量の鼻血が対価となりそうだ。それぐらい破壊力が凄い。
「どこまでも生意気で飽きない女だな」
「誉めて頂き光栄です」
「まさか火だったとはな……」
「これで、ここに全魔法が揃いましたね。土のジャック、風のイアン、水の王子、そして火のメイ。私達暗殺部隊最強じゃないですか?」
「人を殺める魔法はないだろ」
イアンがノアと私の会話に割り込んでくる。
「分かってるわよ」と、私は思わず口を尖らせる。
ノアは特に私が火の属性だったということに関して嫌悪感を見せなかった。
「少し用事を思い出した」と言って、ノアは私達の前から去って行った。その時、彼は一度も私の顔を見なかった。
彼が出て行ったこと確認してから、ジャックが私へと視線を向けた。
「ノア様ほど火の魔法を毛嫌いしている人はいないよ」
彼の言葉に「え」と声を漏らしてしまう。
「殿下は火の属性は大嫌いだからな」と、イアンも付け足す。
それをもっと早くに言ってよ。
ノアはあまりにも無反応だったからてっきり何も思っていないのだと思っていた。
……てか、どうしてそんなに嫌いなんだろう。大が付くほど嫌いってよっぽどじゃない?
「あんたのことを気に入りつつあるから、なんとか受け入れようとしているんだろうね」
ジャックが大きな丸い眼鏡のレンズを服で拭きながら静かにそう呟いた。




