37 死に様
「とりあえず、潜入には成功したんだな?」
いつもの会議室に入るなり、ノアは疑いの目を私に向けながらそう聞いた。私は首を縦に振る。
もっと私の心配してくれても良くない?
……私を殺そうとしている人達に心配を求めても意味ないか。
「無事で良かった」
ジャックが分厚い本を読みながら何か呟いたが、聞き取れなかった。
私はこれから聞かれることに対して、腹をくくり椅子に座る。少しでも余裕があるように見せておきたい。
「……それで、何故お前が学園にいたんだ?」
「魔法が使えるからです」
私は口の端を軽く上げて、ノアを真っすぐ見つめる。彼は機嫌が悪いのか、荒い口調で話し始める。
「何故秘密にしていた」
「別に秘密にはしてませんよ。ただ聞かれなかったので」
ピリッと空気が凍り付く。ノアの苛立ちに私は更に言葉を付け足す。
「私のことがそんなに気になりますか?」
王子相手によく煽るように話せるな、と自分でも驚く。けど、私はそう簡単に個人情報を自ら話すような女じゃない。
だって、クロエ・リベラだってバレたら死んじゃうのだもの。
「本当に平民か?」と、イアンが険しい表情を浮かべる。
はい、と私は笑顔を作り即答する。
「姓はなんだ?」
「家の名前なんて忘れました」
「ふざけているのか!」
イアンの怒鳴る声に私は少しも動揺せず、怖気づく様子も見せない。
ここで対等な態度を見せないと、簡単に殺されてしまう。私は殺されやすい体質みたいだし……。
「お前を殺すことなど容易いことだ、それを知ってもなおその態度を貫くか」
ノアの威圧に思わず身震いしてしまう。
どうして私がこんな奴に容易く殺されないといけないのよ。必死に抗ってやるわ。だから、私はここにいる。
「……でも、やっぱり生きたいので王子を敵に回すことはしないですよ」
彼は席から立ち、ゆっくりと私の元へと歩いて来る。
まとめられた透き通る金髪がサラッと揺れる。……どんな手入れしたらそんな髪質になるのだろう。
ノアの圧力を受けながら、私は椅子に堂々と座り続ける。彼は私の座っている椅子を引っ張り、自分の前へと向ける。
……なんて馬鹿力。
腕を組みながら私はノアを見上げる。澄んだ青い瞳が私を見下ろしている。
微かに彼から甘く懐かしい匂いがした。王子は匂いさえも完璧なのか……。
「お前にとって良き死に様とはなんだ?」
突然の質問に私は言葉を失ってしまう。
生まれて初めてそんなことを聞かれた。死刑を宣告された人に言うような台詞じゃない。せめて生き様を聞いて?
「…………自分に恥じないように生きたいわ」
「随分と陳腐な答えだな」
ノアの言葉に自分でも頷きたくなる。
誰にでも気に入られるような回答はやはりノアのお気に召さなかったようだ。
「それに、それは生き様だ」
「あ、そっか」
死に様か、と少し考えてみる。
スゥッと息を吸い込み、私は真っすぐ彼の双眸を見つめ、自分が最も美しいと思う気品ある笑みを浮かべた。
「きっと、私は誰かに殺されるわ」




