32 再会
さっきのチャイムで皆授業が始まったのか、校舎の外は静まり返っていた。
……少し散歩して情報を整理してから学園長のところへ行こう。
私は火の魔法の価値について考えながら、足を進めた。全く知らない場所なのに、迷子にならない自信があった。
エアハーズ国は元敵国であり、現在もロジャス国とはあまり関係は良くない。前ほど悪化していないというだけだ。対立しているわけではないが、親しくはない……、冷戦みたいな感じかしら?
とりあえず、それぐらいの事情は本で読んだから知っている。
問題は、私が魔法のことについて何も知らなさすぎるということだ。火の魔法を使える人間がこの国ではマイノリティなのだ。
……しかも、王家とは正反対の性質。ノアが知ったらどういう反応をするのだろう。
私は母からの遺伝が強すぎて土魔法は全く使えない。少しぐらい土魔法が使えたら良かったのに!
そんなことを考えていると、いつの間にか私は校舎の入り口の前に立っていた。
先のことをうじうじ考えていてもしょうがない。……先のことを考えないと死ぬかもしれないけど!
今は魔法学園で火の魔法を学ぶことだけを考えよう。学園長に会って、今からでも授業を受けれるように手続きをするんだ。
「入るか」
覚悟を決めて、私は校舎の中へと入る。勘に従いながら、どんどん足を進める。
学園長室、と心の中で何度も呟きながら廊下を歩く。馬車が通れるくらいの幅広い廊下に私の足音がコツコツと響く。
……生徒数に比べて、この学園広すぎない!?
教室で講義をする教師の声が廊下へと漏れてくる。楽しそうな授業ばかりで、今すぐにでも魔法のことについて学びたかった。
私の歩くスピードが上がっていく。
「……クロエ様?」
後ろから懐かしい声が聞こえた。私は足を止めて、ゆっくりと振り向く。
ふわふわと柔らかさそうなクリーム色の髪が目に入る。少し老けたような気がしたが、優しそうな表情も昔と変わらない。
「マシュー先生?」と、私の口からか細い声が出る。
今思えば、こんな朗らかな先生が火の魔法を使うなんてあまり想像出来ない。
「どうしてこんなところに!?」と、目を丸くして彼は私の方へと駆け足で近付いて来る。
「毛量少し減りました?」
私はマシュー先生の質問に答えずに、思ったことをそのまま口に出してしまった。
前は羊のような髪の毛だったのに、今はそのボリュームが減少した気がする。
「僕がクロエ様に魔法を教えていたのも十年ぐらい前ですからね。もう僕も五十二ですよ」
マシュー先生は苦笑しながら答えてくれる。
五十二歳とは思えないぐらい彼は若く見えた。
「クロエ様は大人になられましたね。とてもお美しく成長されて、見違えました」
幼い頃に見た笑顔と同じだ。
未だにマシュー先生と会えたことを実感出来ていないが、心が温かくなった。




