31 学園事情
「メイ殿? どうかしましたか? 顔色が悪いように思えますが」
メイソンが不思議そうに私を見つめる。
私は母のことですら何も知らなかった自分に嫌気がさしていた。常識だけでなく、自分の家族のことも何一つ理解していない。
父が私を守るために情報を与えなかったのかもしれないけど、私だけ仲間外れにされた気持ちになる。私ってそんなに弱い人間?
……人はこうやって自己嫌悪に陥るのね。
「メイ殿?」と、メイソンはもう一度私の様子を窺う。
「大丈夫よ。色々と教えてくれてありがとう」
まさかあんな出会いから、こんな風に彼に世話になるとは思っていなかった。
「いえ。こちらこそお役に立ててなによりです」
メイソンは深くお辞儀した後、話を続けた。
「メイ殿は平民の方ですか? 身なりからすると、貴族のように思えたのですが……」
「ええ、平民よ。裕福な商家の娘。……色々あって、私は二年生なのよ」
「なるほど! 途中からの入学で大変だと思いますが、メイ殿なら大丈夫です!」
何を根拠に言っているのか分からないが、少し元気が出た。
メイソンに聞かなくとも、彼は貴族の家の者だということが分かる。
「ちなみにメイソンは何年生?」
「四年生でございます!」と、彼は勢いよく答える。
……あ、やっぱり年上だった。しかも最終学年じゃない。
「メイソン様、の方がいいかしら」
「いえ! メイソンでお願いします!」
メイソンはずっと嬉しそうに私を会話をする。どうしてここまで私を気に入ってくれているのだろう。
今日会ったばっかりなのに……。
「あ、ちなみに私の属性は風でございます」
イアンと一緒だ。……そう言えば、ノア達って何歳なのだろう。絶対に同い年ではないことは分かる。
私の暗殺をしようとしている同級生なんて嫌だ。
「第一王子ってどこの学年にいるの?」
「ノア王子のことですか? 彼は三年生です。あまりに優秀な為、学園に来る必要などないのですが……。まぁ、飛び級制度がないのでしょうがないですね。あ! それとノア王子の右腕のイアン殿も三年生です。ジャック殿はまだ十三歳なので学園に入学は出来ていませんが、彼も既に優秀な魔法使いだと聞きます」
メイソンは私が聞きたかったことを全て説明してくれた。この学園のアイドル的存在であり、王家のことを全く知らない私に対して呆れる様子を少しも見せない。
メイソンは、変人というか変態だけど親切な人だ。
「彼らは本当に人気です。羨ましいです」と、メイソンは付け足した。
皆、あの王子の腹黒さを知ったらどうなるんだろう。……それもそれでアリって人が出てくるかもしれない。
「……の、ノア王子に、ほ、惚れないでくださいよ!」
突然、メイソンは少し詰まりながら大きな声を出す。
……惚れる? 私がノアに?
ありえない。自分を殺そうとしている相手を好きになるなんて、メイソンよりマゾじゃない。
「惚れないわよ」と、私は小さく笑う。
私の言葉にメイソンはどこかホッとしたようだった。それと同時に学園にチャイムが鳴り響く。
「私は今から授業があるのでこれで失礼いたします。もう少しメイ殿とお話したかったのですが」
メイソンは寂しそうに眉を八の字にする。
「授業頑張って」と、私は彼に手を振った。彼は少し気味悪く笑顔でニヤッと笑みを私に向ける。
「メイ殿から頑張れの言葉を頂きました! ありがとうございます!」
やっぱり、きしょい。
私はそんなことを思いながら彼の背中を見送った。蹴ったら折れてしまいそうな足だな、とぼんやりと眺めていた。
…………あ、カレンのことも聞けば良かった!
今さらノアの想い人のことを思い出したが、メイソンはもう校舎に入っており姿は見えなかった。




