24 父の呼び出し
コンコンッと誰かが扉を叩く音が部屋に響く。
私とナターシャはその音に過剰に反応してしまい、思わず体をビクッと震わせる。秘密の話をしている時に、いきなり誰か現れると心臓が縮む。
「お嬢様、レオナルド様がお呼びです」
柔らかい侍女の声が部屋の外から聞こえた。
どうして父が? と思いつつも「すぐ行くわ」と短く返した。
「お父様が私に一体なんの用かしら」
「謝罪? かもしれませんね。とにかく、旦那様はお嬢様と仲直りしたいはずです」
「それもそうね。私、溺愛されてるもの」
満面の笑みをナターシャに向けた。彼女は私の表情を見て、顔を引きつる。
「……何を企んでいるんですか?」
「あらやだ、何も考えていないわよ」
私はナターシャに疑いの目を向けられる。
「そんなことよりも、王子の協力してよね。まだ死にたくないもの」
「分かりました」
ナターシャはどこか頼りない声でそう言った。
「お嬢様が殺されたら、幽霊になって出てきそうですし」と、彼女は付け足す。
「もちろんよ。王家を呪ってやるんだから」
「不細工の呪いをかけるのはやめて下さい。目の保養を失いたくないので」
ノアの本性を知ってもなお、彼のことを目の保養だと思えるナターシャを凄いと思った。
私はナターシャにこのことは絶対口外しないようにと約束してから、部屋を出て父のところへ向かった。
さっきまでメイド服を着ていた私がいつも通りの姿になって、使用人達はどこかホッとしているようだった。
大丈夫、私の頭は正常よ。ただ、変な計画に巻き込まれているだけなの。
ジェームズが上手く説明してくれているはずだから、誤解が解けたと信じたい。
父の部屋の前に立ち、ノックをする。
「クロエです」と言うと「ああ、入りなさい」と落ち着いた父の声が中から聞こえてきた。
「クロエ、お前は女優志望だったのか?」
部屋に入るなり、父から出た言葉は拍子抜けするものだった。
え? 呼び出された理由ってそれ?
昨日あんなことがあって、よくそんな気楽に私を呼び出せたわね。
「だから、メイド姿で屋敷の中をうろうろしていたのか?」
私が何も答えないから、更に父が質問をしてくる。
「それを聞く為に私を呼んだんですか?」
私は怪訝な表情を浮かべ、父を見つめる。私はあまり父に反抗的な態度を見せたことがないからか、彼は少しおどおどとしながら声を出した。
「い、いや……。ただ昨日のことについて謝りたくて」
この父が本当にこの国の宰相だと疑ってしまう。
「ああ、謝罪は結構です。ただ、お願いを聞いてくれますか? そしたら全て許します」
「ね、願い? なんだ、言ってみなさい」
「私を魔法学園に入学させて下さい」
私の言葉に父は固まった。目を見開いたまま私をじっと見つめる。私は彼が言葉を発するのを待った。
「だ、だが、今更入学なんて」
「お父様に奪われた私の人生を取り戻させて下さい」
父にわざと罪悪感を与える。
「お嬢様、容赦ない」と、後ろから小声が聞こえた。
聞こえてるわよ、ナターシャ。
父は私と縁を切るなんてことは出来ない。私は父に遠慮なく我儘を言える。それに、私は今まで私が父の我儘を受け入れてきたんだもの。今度は父が受け入れる番だ。
ここで食い下がるわけにはいかない。
「本当にそれでいいのか? その魔力とその髪色は白い目で見られることがあるぞ」
急に父は真剣になる。さっきまでとは違う雰囲気を醸し出す。
「自分の人生ぐらい自分で決めるわ。たとえ、学校で私がゴミを投げつけられようと自分で決めた人生だもの。戦ってみせるわよ」
「流石私の子だ」とフッと父は笑みを浮かべた。
それから、父は机の中から何か書類を取り出した。




