25 書類
父はその書類を私に差し出す。何が書かれているのか教えられないまま、私は数枚の紙を受け取る。
魔法学園入学手続きについて詳細に書かれている。
いつから用意されていたのかしら……。
昨日急いで用意させたものではないことは分かる。きっと、随分前から、父は私を魔法学園へ入学させることを考えていたのかもしれない。
「今まですまなかった」
父の低い声が耳に響いた。
「いえ」と、短く答えることしか出来なかった。
正直、私は過去にあまり執着しない。私を魔法学園に行かせてくれるのなら、今までのことはあっさりと忘れることが出来る。
「ありがとうございます、お父様」
私の感謝の言葉に父はどこか申し訳なさそうに笑みを浮かべる。
「魔法学園に入学したとしても、リベラ家と名乗りません。ただ、メイ、とだけ名乗って入学させて下さい」
父は驚きつつも、少し考え込んだ。
「……分かった。リベラ家と名乗らない方が大きな騒ぎに巻き込まれずに済むだろう」
彼は私に家名を名乗らない理由を聞くことなく、承諾してくれた。
……本当にただの過保護で私を外に出さなかっただけなのかしら。
ふと、そんな疑問が頭の中によぎった。
「では、私はこれで」
「ああ。困ったことがあったら、いつでも来なさい」
父の後ろにある大きな窓の隙間から小さな白い花びらが入って来るのが見えた。暖かい季節になると、白く可愛らしい花が満開に咲く木が庭にある。
このロジャス王国にしかない美しい木、グレディだ。心が安らぐほのかに甘い匂いが漂う。
今までそんなことはなかったのに、今日だけその木に目を奪われた。この木の上にいた少年を思い出す。顔も声も覚えていないけど、美しい金髪の髪の毛がサラサラと風になびいていた。
「お嬢様? 大丈夫ですか?」
ナターシャの言葉に私は我に返る。
……今のは何? 私の記憶?
あの金髪の少年は一体誰なのだろう。全く思い出せない。
「お嬢様?」と、もう一度私の様子を確認するようにナターシャが私の顔を覗き込む。
「ええ、大丈夫よ。少しぼーっとしていただけ」
そう言って、私は彼女を安心させる。
もしかしたら、ただの夢だったのかもしれない。最近色んなことがあったから、疲れているんだわ。
「失礼します」と言い、私はその場を後にした。
……一体さっきのは何だったのかしら。何か大切な記憶を忘れている気がする。
そんなことを考えながら、自分の部屋へと戻った。
クロエがいなくなった部屋でナターシャが口を開く。
「お嬢様を本当に魔法学園に入学させていいのですか?」
彼女の言葉にレオナルドは難しい表情を浮かべ、椅子から腰を上げ立ち上がる。ゆっくりと窓の外を眺める。
ナターシャはレオナルドからの言葉を待つ。
彼は白い花が咲き誇るグレディを見つめながら、口を開いた。
「彼女が選んだ道だ。私が止めることはもう出来ない。……何も起こらなければいいが」
窓から風が吹き、レオナルドの机に置かれた『危険人物』と書かれた書類が一枚めくれる。
国が指定した危険人物が書かれてある一覧に「クロエ・リベラ」の名前があった。




