20 リベラ家到着
見慣れた景色が視界に入って来る。自分の家が見える。
この状況を未だに夢だと思いたい!
私はリベラ家の屋敷を見つめながら心の中で叫んだ。
早くナターシャに会って全てを言いたい。もうこれ以上ノア達の関係を私の胸の内に秘めているのは無理だ。
彼女のことは信頼しているし、口が堅いことを知っているから安心して全てを打ち明けることが出来る。
「そんな険しい顔をしてどうしたんだ?」
イアンの言葉に私はハッと我に返る。
「急に怖気づいたか?」
ノアは私を挑発するような笑みを浮かべる。
今から私は戦場に乗り込みに行くのに、励ましの言葉ぐらいかけなさいよ。
「まさか」と私は鼻で笑う。
虚勢でも良いから強くあれ、弱みなんて見せるな。昔読んだ本にそんな台詞が書かれていた。本当にその通りだと思う。
「最悪な噂を流されているクロエ・リベラの想像をしていただけです」
「十分気を付けろよ」
「あら、心配してくださっているんですか?」
ノアの優しい言葉に私は少し驚いた。思わず目を丸くして、彼を見つめる。
彼の口からそんな言葉が出るなんて、今日はお祝いしなくっちゃ!
「ゴリラ級のパンチを食らったら死んじまうかもしれねえからな」
私のことを心配してくれているのに、私の悪口を言われているという何とも言えない感情!
「…………もし、もしですよ、……彼女が普通の少女だったら?」
私はノアの顔色を窺いながらそう聞いた。
ノアは少し固まったが、すぐに悪魔のような笑顔に変わった。
「そんなわけねえだろ」
彼のその表情からはクロエ・リベラに何か恨みがあるように思えた。深く根強い何かを感じられた。
クロエ・リベラに会ったことがあるの? ……あ、私か。
時々クロエ・リベラが私だってことを忘れかける。まだ自分を殺しに行く手伝いをしているっていうことに対して脳が処理しきれていないみたい。
リベラ家の風格ある門が開き、王家の馬車が入っていく。王家の馬車が来たことでまた家の中は大パニックになっているだろう。
「私の設定って、王家から来たメイドってだけですよね? メイド長とかじゃないですよね?」
「お前みたいな若いメイド長がいるか」
イアンはテンポよく突っ込んでくれる。
確かにそれはそうだ。私みたいなメイド長がいたら屋敷は崩壊してしまう。
家の前に着くと、イアンから王家からの推薦状を受け取った。王家から推薦されたメイドがまさか私だとは誰も思わないだろう。
私は真剣な表情で「後は自分で出来るからそのまま帰って下さい」と言って、私だけが馬車から降りる。
もしノア達も一緒ついて来るなんてことになったら、カオス過ぎる。そんな地獄絵図は見たくない。
マントは外して行け、とノアに言われたので私は素直に従い、メイド服のまま屋敷の前に立つ。
彼らが帰るのを見送ったのと同時にガチャッと扉が開いた。中からよく知っている顔が現れる。
リベラ家執事長のジェームズだ。背が高く黒い髪を一つにまとめており、マックスより十歳ぐらい若く見える。
ジェームズと目が合い、暫くそのまま時間が流れる。
彼は視界からの情報を必死に処理しているようだ。
そりゃ、びっくりするわよね。王家から馬車が来たと思えば、目の前にいるのはリベラ家のメイド服を来たクロエ・リベラなんだもの。
「え、えっと、お嬢様?」
暫く固まっていたジェームズがようやく戸惑いながら口を開いた。




