第6話 分析
気が付くとそこはキャラメイクをした場所だった。
そこは相も変わらず眼下には広大な惑星が広がり雄大な景色を写し続けている。
しかし、俺はそんなことを気にできる様な精神状況ではなかった。
流石に自分が死に、それを仮ではあるが両親が悲しんでいた。その事が俺の脳内から離れなかった。
「大丈夫ですか?マスター……」
そう声をかけてきたのは妖精姿ではなく、成人姿に戻ったアイシャだった。
「流石にこれは心に来るな……」
「世界観が中世ですので、それに基づいた死亡率になっています。初めてのプレイヤー様はマスターと同様に7歳以下で亡くなることが多いようです。マスターが特別ということではありません」
アイシャが慰めてくれるがその言葉は全く俺には響かなかった。
リアル中世ファンタジー、それを舐めていた、今回はそうとしか言いようがなかった。
そう、このゲームはとてもリアルな中世ファンタジーである。
その事を俺は完全に失念していたのだった。
「アイシャ、今回のは不幸な事故だった。だが、次に同じ事を起こさないために今回の分析を頼む」
「……はい。かしこまりました。まずマスターも既にご理解して頂いていると思いますが、今回の死因は病死です。生後1歳に満たない幼児が冬も間近な季節に外に毎日出ていたために起こったことと考えらます」
「まあ、そうだろう免疫も持たない幼児が、衛生管理もされてない中世の世の中で毎日外に出てれば、そりゃ病気にもなるか」
中世の平均寿命はおよそ30歳前後。しかし、これは皆が皆30歳前後で亡くなるという事とイコールではない。
中世の、いや近代までの平均寿命の短さの要因は子供の死亡率の高さに原因があった。
チューリヒのある墓地を調べると50%以上が7歳以下の子供の物だったという。
つまり、50%以上が子供の内に亡くなっているのだ。
中世の女性の平均的な出産数が4.2人。しかし、実際に家庭内で育てる人数が2人か3人という程やはり、子供の死亡率は高かったのだ。
日本の七五三の儀式もやはりそれだけ高い死亡率が背景にあったからこそ生まれた風習だし、子供から大人になるというのは今では考えられないくらい大変だったと言うことが伺える。
しかし、逆に子供時代さえ無事に過ごしてしまえば、そこまで怯える必要はないと言える。
最も中世なので現代に比べるとそれ相応に危険は多いし、成人しても皆50前後で亡くなってしまうというのだから、限度はある。
故にまずは子供時代を乗り越えることを目標にしようと心に決めた俺であった。
「唯、ご理解いただきたいのは完全なリアルではなくファンタジーが元にあるという事ですね。今回は運悪く亡くなられてしまいましたが、例えば街等でしたら治癒術死等もいる可能性は御座います。なので、中世程死亡率は低くありません。」
「成程。なら、今回は本当に運が悪かったってことになるな」
「そうですね、但し次回も同じような境遇でないとは限らないので、次回では2歳になる位までは余り外に出ない事をお勧めします」
「そうだな。だが、室内も完全に清潔と言う訳ではないだろ?あの時代だと」
「残念ながらそうです。しかし、今回病死してしまった特典といってしまっては変ですが、病気になって得たスキルが御座います」
「スキル?そんなの取れてたか?」
「はい。マスターが完全に病気でダウンして意識が朦朧としていた時に『疫病耐性Lv.2』というスキルを得ていらっしゃいました。また、それと付随して覚えておいて欲しいのですが、一度取得したスキルは周回プレイの時に通常に比べて低ポイントで手に入れることが出来ます」
なんと、そんな周回要素があったらしい。
だがそれ以上に気になることが……
「……なあ、そんなスキルを得ていても死んじまうものなのか?」
気になったことをアイシャに尋ねてみる。
「それはこのスキルを得たのが完全に末期の時だからだと考えられます。『疫病耐性』に関わらず『耐性系スキル』は与えられるダメージの減少という形で現れます」
成程。末期の俺が、精々Lv.2のスキルを得た位じゃ減るHPに対して効果を感じる程ではなかったのだろう。
「なら、病気になった時最初からこのスキルを持ってたらどうなったんだ?」
「今回の病気の詳細が判明していないので何とも申し上げられませんが、最低でもあと何日かは寿命は伸びていたと思われます。また、予防としても効果が出るのでそもそも罹らなかった可能性もあります」
だとしたら、相当に重要なスキルだな。中世では必須とも言えるかもしれん。
「じゃあ、次回このスキルを持って生まれればここまで酷いことにはならないかもしれないってことだな?」
「はい、そうです。少なくとも疫病等で亡くなるリスクは抑えられるかと思います。」
良かった。少なくとも次回では同じ死因は避けられそうだ。
最後に俺は気になっていたことをアイシャに聞いた。
「……なあ、俺の両親はあの後どうなった」
正直聞くのは怖かったが聞かないと次に進めそうになかった。
「あのお二方はマスターが亡くなられた後、大分落ち込まれたようでした」
それを聞いてやはりかという思いと、申し訳ないという罪悪感で胸が一杯になった。
「ですがそれも2カ月で、その2年後には新たな赤ちゃんを授かっています。こう言っては何ですが、中世では子供が亡くなることも珍しくありません。なので、現代に比べて、次に進むということが大事と考えている節が御座います。故に、マスターがそこまで気に病む必要はありません。それに、これはゲームです。リアルであることは否めませんが、一度ゲームオーバーになっただけと考えては如何でしょうか?」
アイシャにそう言われ、俺の心は少し軽くなった。
まだ完全に呑み込めたとは言えないがそれでも、これはゲームだ。
一回の失敗でクヨクヨしてたら次には進めないという思いも俺の中には生まれ始めていた。
「そうだな!よし、気を取り直して次の周回に臨むとするか!」
「はい!マスターその意気です!」
「じゃあ、早速次のキャラメイクに進んでくれ」
「はい!……と言いたい所なんですがマスター、一度現実に戻られては如何でしょう。」
「……?なんでだ?」
「はい、現在時刻は19時過ぎです。このゲームの中で理解頂いているでしょうが、1年が8カ月、1月が25日、1日が20時間と現実と違います。凡そ1年が4000時間なので、1000倍でプレイなされてるマスターは1年を4時間程で過ごすこととなっています。今回、丁度1年程を中で過ごされているので4時間程経っています。一度トイレやお食事等を取られては如何でしょうか?」
「……もうそんな時間か?」
正直全くリアルの事を忘れていた。やはり1年という長い時間を中で過ごすとリアルの事と中のギャップに脳が追い付かない気がした。
それにリアルの体がどうなっているかなんて俺は全く気にしていなかった。
「やばいな、リアルの事なんて完全に忘れていた。明日以降の仕事とか大丈夫だろうか。それにリアルの体の状況とか全く分からないから正直不安なんだが……」
「いえ、大丈夫です。体の状況等は私が常にモニタリングしておりますし、尿意等が起こった場合は直ぐにマスターにお伝えします。何か異変が起こった場合は消防に通報する機能も御座います。むしろ、何もなく寝るより余程安心安全だと保障致します」
そんな機能まであるのか。いや、むしろこのゲームには必須といってもいい機能か。
「また、記憶に関しては先ほど説明した通りなんですが……そうですね、実際に試しにお食事されている時は携帯用メモリーを付けずに召し上がっては如何でしょう。大丈夫ということが実感頂けると思います」
「分かった試してみる」
そう言って俺はEDENからログアウトした。
結果から言うと全く大丈夫だった。
ゲームをしたという事は覚えているが、その内容は思い出せないという若干奇妙な感覚ではあった。
仕事の事もきちんと覚えていたし、明日の予定もきちんと思い出せた。
試しに、携帯メモリーも付けてみたが二つの記憶を保持しながらも、それぞれが独立しているようで、確かにこれなら日常生活に支障はなさそうだった。
そして、俺はまたEDENにログインした。
「お帰りなさいませマスター。如何だったでしょうか?」
「ああ、確かにあれなら日常生活も普通に送れる。科学の進歩に驚愕したよ」
「それは、良かったです。では早速2週目のキャラメイクをいたしますか?」
「ああ頼む!」
そうして、俺の二回目のキャラメイクが始まった。




