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AKIRA  作者: 千路文也
プロ3年目  -進化-
424/426

424  超常現象


 一流選手同士の真剣勝負となれば、『ボールが止まって見えた』とか『応援歌が一切聞こえない』とか『マウンドに立つピッチャーが実際の身長より大きく思える』などの摩訶不思議な現象が起こる。これら全ては脳が引き起こす錯覚に過ぎないのだが、実際のプレーに大きく響くケースがほとんどだ。人は皆、精神的ダメージを負うと焦りと動揺を感じて理性を保てなくなってしまう。落下地点の予測を誤るなどの凡ミスならまだしも、致命的なトラウマを植えつけられる可能性も十分に考え得る。AKIRA選手が活躍しているプロ野球界では、ライバルに勝ち続けてポジションを獲得するのが当たり前の世界だ。小学、中学、高校、大学、社会人などを経て、育成、三軍、二軍を勝ち上がって一軍に所属し、ポジションを獲得する。ハッキリ言えばベンチ入りするだけでも至難の技だ。年齢が低ければ低いほど一軍の座をキープするのは難しくなる。経験が浅い内は不確定要素があまりにも多すぎて、相手球団から攻略されやすい。故に新人王を獲得しても長続きせずに戦力外通告を受ける選手は星の数ほど存在する。そんな中、AKIRA選手は高卒一年目でありながらシーズンを通して四十本以上の本塁打を放ち、二年目と三年目には前人未到の野手全冠王に輝いた実績を持つ。プロ四年目の今シーズンも序盤から絶好調で向かう所敵無しだ。



 若くして超一流の仲間入りを果たしたAKIRA選手は、野球という概念を超越したプレーで観客を盛り上がらせる。先程私が述べたように一流同士がぶつかると脳の錯覚を引き起こす。一流を越えた『超一流同士が相対する』場合は脳の錯覚が球場全体にまで及ぼすのだ。滅多に起こらない現象ではあるが、観客を含め実況席のアナウンサーでさえも幻覚が見えてしまう。ありえない筈なのにありえるのだ。


 4月11日。神々の領域に足を踏み込んだAKIRA選手は、ツネーズのエース速水投手と直接対決を果たした。二人は同い年で、甲子園優勝を懸けて競い合った正真正銘のライバルだ。プロ野球界のヒエラルキーにおいても『超一流』に属する彼等が相対する時、球場は高次元状態と化す。我々みたいな三次元の存在には到底理解不能な現象が度重なり、問答無用の試合展開が繰り広げられる。最終的な判断は全て審判の手に委ねられるので、何が起ころうとも現実的な結果として記録に残るのは間違いない。我々の目には超常現象に見えても審判からすれば普通の試合展開でしかない。



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