2 結婚はしたけれど
不知火が漢字で名前を書き入れ、次に、星子がその横にかなで小さく名前を書いた。
彼の字は達筆で堂々としている。
心の大きな人なのかもしれない。それと比べて、自分の字は子供の書いた字のように見えたから、星子は恥ずかしかった。家の本はほぼ売ってしまったし、教師を招くお金もなかったから、文字の読み書きも、その他の学問も、すべて松江から習った。
「これで、式は終わりました」
儀式が終わると同時に、その陰陽師が立ち去ってふたりになった。
私の結婚式って、こんなに簡単なものなのね。
星子は、正直、少々、がっかりした。
でも、とにかく、これで私達は表向きには夫婦ということ。
この時くらいは新妻の顔を見てくれても、いいものではないかしら。
さて、次は何が起こるのかしら。
その時、一度会ったことのある年寄りの女房の鏡がはいってきて、不知火と星子を、寝殿の奥に案内した。
白絹の帳が揺れ、その中に、白い布団が敷かれている。
契約結婚といっても、今から、初夜というのが始まるのだろう。
契約結婚とは、普通の結婚生活に、二年という期限がついているだけなのか。どこからどこまでが契約の範囲なのか、そのことは聞きたいとは星子は思っていたのだが、やはり恥ずかしすぎて、口にすることができなかった。
星子は黙って長いこと布団の上に座っていた。
彼が何も言わないから、星子は息をするのも、苦しい。じっとしているのが、一番の苦手。
このまま黙っていては、いつまで経ってもこのままのような気がするから、自分から声をかけてみた。
「不知火さま」
しかし、返事はない。
「ご主人様」と言うべきだったのかしら。
星子が「不束者ですが、よろしくお願いいたします」と言うべきだったのだろうか。それとも、相手が何か言うまで、黙っているべきだったのだろうか。
「この婚礼は、心を交わすものではない」
と突然、不知火が言った。
「は、はい。でも、それはどういうことでしょうか」
「我々は、決して、床を共にすることはない」
「つまり、あのう、それは心だけではなく、……」
ここは、やはり言いにくいから、星子は彼を見上げた。
しかし、彼は問いには答えず立ち上がり、ぷいっと部屋を出て行ってしまった。
結婚したばかりなのに、もう憎まれている気がする。
それなら、なぜ申し込んだの?
時は六月で寒くはないけれど、背中に汗をかいていた。




