魔王編 ⑨
「そんなに強く摘ままないでだぞ。ダメだぞケイン、引っ張ったら、そんなに強く引っ張っちゃダメだぞ」
俺の部屋でトランプ、ババ抜きをしていた。
俺がアリスから、カードを抜き取るシーンだ。エロシーンではない。
「お!揃った!俺が1番先に上がりだ!俺の勝ちだ」
「違うぞ。カモミールのババ抜きは、最後まで、ババを持っていた人の勝ちだぞ」
「ババを抜いた人の勝ちよ。ゲーム名からだと、私たちのルールのほうが、正しい気がするわね」
「だと思ったよ。俺が、この手のゲームで勝てるはずがない。運の無さには自信がある」
「良し!次行くぞ!。何回もやれば必ず勝てるぞ。諦めたら終わりだぞ」
で?聞くが、確か今は、敵の侵入の可能性があり、非常事態だよな。
「その通りだぞ。衛兵が王宮の中から、庭、街中に至るまで、安全確認をしてるぞ」
「トランプなんかしてて良いのか?」
「Hがしたければ、Hでも良いぞ。でも、ベットはママがマーキング中だぞ」
俺のベットで、アイリスは、居眠りをしていた。
「確かに、緊急事態だが、特にやることはない。ケインたちは、ここで私たちの警護を受けるのが仕事だ」
もっともだが、何かが違う気がしてならない。
朝までやった。67連敗をした。
「まさか、これ程だとは思わなかったぞ」
全て1番抜けでの負けだ。
「4人でやってるのよ。4の67乗だわ」
このぐらいの確率ならチョロイもんだ。
俺は生まれてから、1度もジャンケンで勝ったことがない。
あいこも3回だけだ。
「マオは逆のことを言っていたぞ。ケインと足して2で割ると、並みになるぞ」
「運勝負に成ったら、俺に勝ち目などない。その時は諦めてくれ」
負けた俺より、ダメージを食らった顔の3人だ。
すっかり明るくなったな。
「ああ、衛兵から報告があった。敵はいないようだ。侵入者は、あの3人だけだ」
「居眠りに夢中で、大事なことを言い忘れましたわ!」
俺のベット、よだれでネトネトだ。
「文献にありました、歴史認識の違い。魔王軍は、元は同じ人類でしたわ」
「なんだと!じゃ魔王ってのは?」
「ケインさん!」
話の途中だが、天空にティナ・・・らしきものが現れた。
「今、実家から帰ってきました」
真っ黒だ。黒いというより墨に近い。ティナの形をした、墨が喋っている。
「沢山お土産買ってきたんです」
「それは嬉しいが、少し焼け過ぎじゃないか?」
「はい。毎日焼いてました。聞いてください。私、日焼けオイルと間違えて、てんぷら油を塗ってしまって、真っ黒になっちゃいました」
てへっと、持ち上げた手が、肩口からボトリと落ちた。
「火葬中のカマの中から、奇跡の生還状態だぞ」
「あら、落ちちゃいました。でも大丈夫です」
何処が大丈夫だ!?どの辺が大丈夫だ?
「神の加護!右腕よ生え変われです」
白く綺麗な右腕が生え変わった。
「この調子で全身を再生しますね」
みるみる間にティナは、綺麗な体へと変化していく。
「神の加護ってすごいぞ」
「どうですかケインさん!元に戻りました」
ティナはクルリと回転して見せた。
見事だ。見事なスッポンポンだ。
「裸に、気が付いていない所も凄いぞ」
「それでですね!決まったんです!私、下界に行きます!」
「本当か!?」
「はい。普通は、1000年に1度降臨するんですが、部長が行って来いって、言ってくださったんです」
そうか、リリスは気を使ってくれたんだな。
「部長が有休をとる、来月の3日間、私は下界に降りられます」
部長が有休?リリスが居ない日に合わせるのか?
「厄介払いのような気がするぞ。自分の目の届かないときに、下界に降ろしておこう、という考えかもだぞ」
なんか、そんな気がするな。
「皆さんと、直接お会いできるのが楽しみです!」
胸を揺らせながら、ティナは大喜びだ。
「ああ、楽しみだ。待ってるよ」
「はい!」
そう言うと、とうとう裸には気が付かずに消えた。
「ティナ様が降臨!これは大変ですわ!今から準備に取り掛かりますわ!」
「歴史認識の違いは?」
「後回しですわ!今はティナ様のお迎えの準備ですわ」
良いのかそれで?
「ケイン、ティナの裸見ても、余り動揺してなったぞ」
「ああ、そういえばだな。レナに貰ったDVDを、擦り切れるほど見たせいかな?」
「・・・ティナの体で欲情したかだぞ?」
アリスの笑顔が怖い。
「いや、してません。あれは芸術品だ。美術品のレベルだ」
「そうかだぞ。よかったぞ」
妻の前で、不用意な一言だった。
レナとセレスが居なくなったな?
「さっき、マオが呼びに来てたぞ」
あの3人から、何か聞き出せたのか?
俺達も行くぞ。
ーー王宮地下牢ーー
「あっ!ケイン来たか。ティナ様との話は済んだのか?」
「来月、こっちに来るそうだ」
「なんと!それは大変だ。800年ぶりの降臨だからな」
「ママが大慌てだったぞ」
「それはそうですよ。女神降臨は一大イベントよ」
「で、何かわかったのか?」
俺が聞くとターナが答えた。
「こいつら、飯だすと何でも喋る」
「でも~大した情報はもってないよね~」
「親書だと言い張る、謎の手紙がある、見るか?」
「ああ、見てみよう」
魔王軍は、魔王の復活の準備をしています。
魔王軍の魔王は、魔王軍の魔王復活を阻止するため、王都との共闘を望みます。
魔王軍、魔王アズサより、王都女王アイリス様へ
「なんだこれは?」
「こいつらが持っていた~親書だよね~」
「なんで親書が暗号化されているんだ?」
「こいつら下っ端。情報持ってない」
「俺が聞いてみよう」
俺は3人の入る牢屋の前に来た。
「この親書の意味がまるで分からん。どういう意味なんだ?」
「美味しい食事を与えて頂いた身で、申し訳ありませんが、政は私たちには・・・」
お好み焼き女は、申し訳なさそうに言う。
「私たちは実行部隊の中ではトップだが、日々の鍛錬に追われ、政治はまるで分からないのよ」
焼きそば女の言い訳だ。
「受けた指示だけをこなすのが、任務なんです」
たこ焼き娘も同じことを言うか・・・
「任務とは、王都に親書を届けろ?だったのか?」
「そうです。ただし隠密行動で、アイリス様に直接と言われました」
「ママに直接?だぞ?」
「魔王軍を名乗れば、皆さんは私たちを攻撃すると」
「レナが問答無用とか言ってたな。なるほど、それは分かる」
「どうするケイン?これでは、何も分からないのと変わらないわ」
真面目なときのセレスは、意外にも優秀だ。
「そうだな・・・これの意味を知ることが、最優先になるが、どう手を着けれればいいか、まるで分からん」
「なら、わかる奴の所へ行ってみるか?」
「レナさん、まさか?」
「そんな奴いるのかだぞ?」
「ああ、機械族4番機パルス。戦略型のオリジナル、私たちの姉だ。頭の良さでは、私以上だ」
お前以上か…高が知れてないか?
「でも、パルスねぇさんは・・・」
「今では世捨て人だが、居場所は分かる。行くだけの価値はある」
「他に手がない以上、今はそのパルスと言う奴に会うしかない。行くぞ!」
俺達は出発の準備にかかる。
「替えのパンツは6枚入れるぞ。今回は、私はいけないぞ。このパンツを私だと思って、大事に使うぞ」
自分のパンツを、6枚入れやがった。
「わたくしも、行けませんわ。わたくしのパンツも、入れておきますわ。脱ぎたて、新鮮ですわよ」
「私も負けてられないぞ。私は、身がこびり付いたパンツを入れるぞ。当然脱ぎたてだぞ」
いらん戦いが始まった。
「身?あらアリス、便秘は直りましたの?」
「薬を飲んだら直ったぞ。今、絶好調で出てきてる最中だぞ」
妊娠すると、便秘になるというからな。
「この調子で、子供も出てくると楽だぞ」
自分の娘を排泄物と一緒にするな。
「なぁケイン・・・・」
「ん?どうした?」
「なんか痛いぞ。すごく痛いぞ。ヤバいほど痛いぞ」
!?
「大変ですわ!産気づきましたわ! 誰か!誰か!おっさんのプロを呼んでですわ」
「落ち着け!おっさんじゃない。お産のプロだ」
待機中の、プリンセスお産プロジェクトチームが入ってきた。
手ばやに準備が進む。
「ケイン、痛いぞ。私、怖いぞ」
「大丈夫だ。俺が付いている。俺の手を握れ。アイリス!経験者だろう。アドバイスだ!アリスが不安になっている。経験者のアドバイスだ!」
「はいですわ!アドバイス、アドバイス・・・」
頼りになるアイリスだが、さすがに動揺してる。
それ程、重大な事なのだ。
「アリス、落ち着いてよく聞くのですわ。まず、呼吸を整えますわ」
「うんだぞ。呼吸を整えるぞ」
「下腹部に力を入れて、はっ!はっ!はっ!はっ!はぁぁぁですわ」
「はっ!はっ!はっ!はっ!はぁぁだぞ。少し楽になったぞ」
動揺していても流石は母親だ。
「もう一度ですわ。下腹部に力を入れて、はっ!はっ!はっ!はっ!で溜めた力を、はぁぁぁぁ!で解放ですわ。これで魔法が打てますわ」
魔法の習得法だった。
「痛いぞ、痛いぞ・・・はっ!はっ!」
はっはっは、もういい。俺の手を握れ!俺を見ろ!
「はっ!はっ!はくしょん!!!!だぞ!!」
「生まれました!くしゃみの勢いで、飛び出しました!元気な女の子です!」
出産って、そういうものなのか?
「ケイン見るぞ。私たちの娘だぞ」
くそぉ!かわいいなぁ。完全に生まれたての子犬だが、これが、我が子を見る父の気持ちか。
「この子、もう目を開けてますわ」
「早いぞ。早すぎるぞ」
「不味いのか?それって大丈夫なのか?」
「犬族は、成長が早ければ早いほど、優秀な子と言われていますわ」
マジか?この子は優秀なのか?いやがうえにも鼻の下が、たるんでしまう。
「ケイン、この子に名前を付けてあげるぞ」
「そうだ、名前だ。俺とアリスの子・・・」
「私とケインの子・・・稀勢の里だぞ」
どうすればそうなる?
「アリス、アリ・・アリシア!アリシアはどうだ?」
「だぁだぁだぁ!!!」
なんか嫌がられた。
「もう喋るかだぞ!?」
「だぁだぁだぁ!だだだだだぁぁぁぁ!」
「うんうん、あら、そうですわの?分かりましたわ」
この言葉が分かるのか?
「私たち犬族ならわかるぞ」
「婿殿、アリス、この子は『アリッサ』が良いとのことですわ」
アリッサか!うん!良い名だ!
「うんいいぞ!アリッサに決めたぞ」
名前を自分で決めるとは、相当できる子だ。
天空が明るくなり、ティナ再来だ。まだ裸のままだった。
「ケインさん、アリスさん、おめでとうございました」
もう知ったのか?
「はい。うぁぁ可愛いですね。目元がケインさんそっくり」
そうだろう!頭では、全然似てないと分かってても、魂が似てると言っている。
これが、親ばかビジョンと言う奴だ。
「私が行く頃には、大きくなってますね。楽しみです。お土産持っていきますね。本当におめでとうございます」
一言だけの登場だが、ティナは見ててくれている。
今度は、後ろ側が光る。
「アリス!おめでとう!」
アルテミス!?アリスの守護者だ。
「アルテミスだぞ!生まれたぞ、アリッサだぞ」
守護者と普通に会話してる。
「アルテミス様は、アリスの守護者ですわ」
ああ、知ってる。
「たまにお茶したり、街に買い物に行ったりするぞ。お泊りパジャマパーティーもする仲だぞ」
友達感覚だな。
「そうそう、お仕事もしないと。アリス、啓示を与えます!この子は、賢くかわいい娘になるでしょう」
神の啓示って、そういうモノなのか?
アルテミスも帰って行った。
女神達は、俺たちをしっかり守護してくれていた。