エピローグ
「それでは、2人の新たな門出を祝して、かんぱーい」
「かんぱーい!」
「か、かんぱーい」
「そんな大げさなもんじゃないだろ」
我が家のリビングで堂々と乾杯の音頭をとる姉ちゃん。飲み物は全員未成年なので炭酸飲料である。というか吉原、姉ちゃんの謎の乾杯に無理に付き合わなくていいぞ。
「それで、さっきから気になってたんだけどそちらの方は?」
現在リビングには俺、姉ちゃん、吉原、そして謎の女性がいる。姉ちゃんがスレンダーな美人なのに対して、こちらはグラマラスな美人だ。どことは言わないが自己主張が激しい。
「わたしはー、杏ちゃんのお姉ちゃんの沙耶でーす。よろしくね?」
なんと、吉原のお姉さんだったか。言われてみれば目元のあたりとか似ている気がする。しかし、あそこは似ても似つかないな。どことは言えないけど……。
「……五家宝のえっち」
「吉原、いや、その……」
いかんいかん、お姉さんをガン見していたようだ。吉原がほっぺたをふくらませて怒っている。普通の女の子がやったらあざといだけなんだろうけど、吉原がやるとただただかわいい。これが惚れた弱みってやつなのか。
「ふふふ、大丈夫だよ杏ちゃん。お姉ちゃんかわいい妹の彼氏くんを取ったりしないから。それよりわたしたちどっちも吉原だからややこしいでしょ? わたしのことは沙耶って呼んで?」
「わかりました、沙耶さん」
「ほら、杏ちゃんも拗ねないの。彼氏くん、今度は杏ちゃんのことも名前で呼んであげて?」
いきなり名前呼びですか!? さっき結ばれたばかりなのにハードル高くない? 普通そういうものなの?
しかし、こちらを見ている吉原の目がきらきらしている。非常に断りづらい雰囲気だ。ここは覚悟を決めるしかないか。
「――その、あ、杏」
「はい! 悠介くん!」
ものすごく嬉しそうな表情で返事をする吉原、改め杏。恥ずかしさを抑えて名前を呼んだかいがあるというものだ。
「うへー、甘々過ぎて胸焼けしそう」
「もう、柚希ちゃんそんなこと言わないの」
それにしても姉ちゃんたち仲いいな。どういう関係なんだろうか?
「そう言えばなんで沙耶さんが家にいるの?」
「それは私が説明してしんぜよう」
姉ちゃんが自分の胸に手を当てて立ち上がった。役者の性なのかいちいち行動が大げさだ。
「ことの始まりは杏ちゃんが沙耶にとある相談をしたことなのよ。好きな人ができたっていう恋愛相談をね」
「あのときの杏ちゃんかわいかったわー。写真に撮っておけばよかったかしら」
「もう、お姉ちゃんやめてよー。恥ずかしいよ―」
杏はそばにあったクッションで顔を隠してしまった。なにそれかわいい。俺は自分の脳内フォルダに永久保存することを決定した。
「そしたら相手の子の名前が五家宝ってなってね。珍しい苗字だからピンときたらしいわ。それで同じ学部の私に話を聞きに来たってわけ」
どうやら2人は大学の同級生で、入学してから友達になったらしい。たしかに五家宝なんて苗字は他に見たことがないからな。なにか関係があると思っても不思議ではない。
「それを聞いた私は独自に調査を開始したのよ。ゆうくんに彼女がいないのかとか、いないなら好きな人がいないのかとかね。部長君を使ったら簡単に調べられたわ」
ぶちょおおおおおおおおお! あんた、なにペラペラしゃべってるんですか。どおりで姉ちゃんが詳しすぎるわけだよ。
これで1つ謎が解けた。部長がわざわざ俺のクラスまで来たのは姉ちゃんの差し金に違いない。俺がびびってチョコを渡さない場合に備えて刺客を用意していたのだ。変な勘違いをしてはいたが……。
「そしたら、ゆうくんの好きな子が杏ちゃんだっていうじゃない。これは面白いことになってきたっていうことで色々作戦を考えていたのよ」
おい、人の恋路を面白いっていうなよ。まあ外から見たらそういうふうにうつるのかもしれないけどさ。当人は必死なんだよ。
「どうやってゆうくんに告白させるか考えてたら、ちょうどバレンタインでしょ。これを利用しない手はないってことでゆうくんに逆チョコを渡させることにしたのよ」
それであからさまにその話題を振ってきたわけか。
「でも自分から渡したいって言うとは思わなかったわ。多少強引でもそっちの流れに持っていこうとしてたのに。お姉ちゃんは見直したぞ」
「俺はなんか頭が痛くなってきたよ」
ようはすべて姉ちゃんの手のひらの上だったっていうわけだ。なんか悔しいが、結果うまくいったので文句は言えない。
「でもそれだけじゃあ面白くないからー、杏ちゃんにもチョコを作ってもらうことにしたのー。逆チョコと本命チョコの交換、みたいな?」
「それでお姉ちゃんはわたしにチョコを作れって言ったのね」
「だってそうしないと恥ずかしがって作らないでしょ? 作っちゃえばもう渡すしかないって勇気出ると思って」
なるほど、こうして2つのチョコが用意されたということか
「それにしても沙耶から連絡来たときは焦ったわよ。『杏ちゃんが告白断っちゃったから助けて』って」
「――うっ、それは」
そうだよ、俺1回振られてるんだよなあ。話を聞いている限り最初から両想いだったはずなんだけどなんで断られたんだろう。
「ほら杏ちゃん、ちゃんと謝らないと」
「うぅぅぅ……。ごめんね、悠介君。わたしテンパっちゃうとすぐ謝っちゃう癖があって。あのときはチョコ渡す勇気出なくて落ち込んでたの。そこで悠介君から告白されてわけがわからなくなっちゃって……。気がついたらごめんなさいって言っちゃってたの」
「――そういうことなら仕方がないよ。ほら、結果よければすべてよしって言うし」
俺は強がってみたものの、あのときの絶望は二度と味わいたくない。本当にこの世の終わりかと思ったからな。
「それで話を戻すとね。沙耶に頼まれたわたしが、杏ちゃんを家まで案内したのよ。なぜか沙耶までくっついてきたけど」
「だってー、杏ちゃんが心配だったしー」
「それで沙耶さんもいたんですね」
このさいだから疑問に思っていたあのことについても聞いてみよう。
「でもあれは? その、州浜のやつにチョコ渡してたじゃん。特別だなんだとか言って。今だから言っちゃうけどあれを見て告白するの一旦辞めようと思ったんだよね」
「杏ちゃん、そんなことしてたのー? それは勘違いされてもしょうがないよー」
「こうくんとは単なる幼馴染だから! 好きなのは悠介くんだけだからね! 実はあれ中身がクッキーなの。こうくんチョコレート嫌いだから」
「じゃあ2人が付き合ってるっていう噂は……」
「それは嘘だよー。もう勝手に変な噂流されて困っちゃうよね」
『特別』ってそういう意味だったのかー! 州浜がチョコレート嫌いだったとは。また1つ無駄な知識が増えてしまった。
♪ピンポーン
「お、きたわね。ゆうくん受け取ってきて」
「はいよ」
今日はお祝いってことで晩御飯はお寿司になった。もちろん姉ちゃんのおごりだ。
お寿司を食べながらみんなの今日のことを思い返す。いろんなことがあったけど杏と恋人同士になれたんだよな……。こうして隣に杏がいると実感がわいてくる。
姉ちゃんたちには見えないように杏の手をそっと握る。杏は一瞬ビクっとしたが優しく握り返してくれた。
願わくばこの幸せがいつまでも続きますように……。
これにて完結となります。
最後まで呼んでいただきありがとうございました。