メゴマ奪還戦 Ⅶ
――辺鄙な村
各地の殲滅戦において、メゴマの戦力が二千程削がれた事が、フリーからの報告で伝えられる。当然村の多くが壊滅させられて、こちらの戦力も期待できるものではない。
この度、二将がこの村に派遣されてくるらしいとの情報を得る。
しかも戦力は三千。
感知能力の高いとされるサイクロプスの将軍であり、以前の様な作戦はとれず、また相手も奢りは消え去っているだろう。
戦での勝利は、今後の戦いを左右する。
クンヘルの援助を依頼するか。
彼女は来てくれるかもしれない。
でも、彼女をここに巻き込むわけにはいかない。
苦肉の策で考えたのが、バルバトスへの支援依頼であった。
しかし、国が動いては、不味いので、小隊で構わないので弓兵と「王の鉄鋲底の靴」の支援をお願いした。
伝令役に、アルス少年についで、魔力量の高い元村長の孫娘をあてがう。
カードタイプの魔導具に、カートリッジタイプの魔石をいくつも用意して、連続起動による【リインフォース・スピード】もしくは、【テレポーテーション】により移動する。
バルバトスに最初あった時の、サーキットを記載した手紙を添えて。
必ず時間はかかる。
後は、支援が得られるか。もし得られたとしても、そこまで、防衛できるか不明であるが戦うしかない。
向こうも大所帯であり、必ず攻める前に拠点を設営するだろう、その時間的ロスが、援軍までの時間稼ぎになればと考える。
後は、設営先を見つけ出すことに力を入れよう。
フリーの協力を得つつ、進軍の動向を探る。
――メゴマ軍野営地
後二日ほどの距離での、野営である。
明日には、拠点となる地にたどり着くこともあり、兵士の顔は穏やかである。
「明日からは、もう少しましな所で眠れそうだな」
「この焼きキノコなかなか上手いぞ」
どうでもいい会話が、交されている。
ある兵士が、焚火から、キノコを取り出そうとしたところ。
「あっち!」
「おいおい気をつけろよ。テメーのキノコも燃えちまうぞ」
仲間は、笑い話のように言うが、当の本人は、大真面目に熱がっている。
「あっつい!あつ……い」
踊るように熱がる仲間の様子をみて、ほかの兵士たちは笑っている。
みるみる、顔の様子がおかしくなっていく様と、自分たちも熱さを感じる事によって、ことの重大性を、認識し始める。
苦悶の声が、野営地に広まり、見えない炎に多くの兵が焼かれ、森やそこに住む動植物が山火事と、酸欠により命を奪われるのであった。
将軍の配置された部隊については、この異常をマナの揺らぎで気づき即時に対策したので、被害が全くなかった。新兵の多い後方の二百人弱が命を落としたにとどまる。
進軍を強制的に早められたメゴマの軍隊は、実損以上の精神的な喪失感があった。
次の、拠点でも襲われるのではないかとの恐怖感は、人であろうが、魔人であろうが同じだ。
急ぎ行軍するメゴマ軍にまたもや奇襲の報告がはいる。
行軍の為運んできた飲料に毒が混入していたとの事。
死人はでなかったが、体調不良者が続出して、当初の予定よりも、半日は進軍が遅れた。
また、斥候の為送った部隊が、二度も帰ってこなかった。
状況は暗雲のまま。
二度目の野営に入ってからも、兵士たちは落ち着いていない。
体調不良の兵士たちは、衛生兵により回復しており、明日は全く問題は無い。
夜も深まり、二交代目の見張りが変わる直前、異変は起こった。
くぐもった声、野生の魔獣かと、数人で撃退にあたろうとしたところ。
紅い双眸がのぞく、しかも一体ではない。
その影が急速に、見張りへ攻撃を加えてくる。
爪ではない、牙でもなかった。
それは、大剣だ。
見張りの兵士が、次々に倒されていく。
相手は、聖騎士の装備をつけている。
大剣と槍の近距離集団。
弓兵の矢が次々に、襲撃者に命中する。
しかし、襲撃者の攻撃が止むことはなかった。
倒れても、また立ち上がり、攻撃し続ける。
「聖騎士のアンデッド……」
身体能力も生前から高く、【リインフォース】と【ベルセルク】による効果で、能力は底上げされている。
彼らの体には、【魔石・生命】による紅い輝きの魔石がコアになっている。
肉の爛れによって自壊するか、コアの破損で彼らは止まるが、現状それに気づいている者はいない。
既に、その場にいる多くの兵士は命を落とす。
小隊長の若者が叫ぶ
「死者への冒涜とは、貴様ら精霊王さまへの忠誠心を失ったか」
彼の耳元から突然
「彼らにその判断はできないよ。それに、ネクロマンスについてもマナの所業。精霊王はそれを許容していると判断できるがね」
彼が、振り向く間もなく、心の臓と喉元が切り裂かれる。
【魔石・生命】の量産と、媒体の量産。
死兵がどんどん増える。
短剣を大量に差した、黒い影は、アンデッドが殺害した死体や、自分自身が殺害した死体を次々に死兵へと変える。
兵士の数が少なければ、作ればいい。
兵士が必要ではないんだ。
駒さえそろえばそれでいい。
前の部隊より、将軍自らが出陣したらしく、鳴りものの音が鳴る。
短剣の一部を、死兵どもに突き刺して、撤退する。
巨体の聖騎士が、この惨状を見て鼻を鳴らす。
【魔人化】
トロール種の肥大化。
聖騎士の中では珍しく、巨大なハンマーを装備している。
「せいやっ!」
気合と共に、ハンマーを振り下ろし、地面にたたきつける。
その振動は、多くの死兵を一瞬で粉砕する。
当然、仲間が巻き込まれる事は計算内だが、容赦は全くしていないようだ。
「雑兵ども、巻き込まれたくないのなら、戦え!」
将軍は先頭をきって死兵どもに突撃する。
その突撃を、遮るものがいた。
将軍の乗る馬が両断される。
「ジト貴様!」
心臓に大きな穴の開いた姿であり。既に顔の大部分が、爛れ落ちている。
眼球は片方無い。
「お前はいつも俺の足元をすくい上にいたが、死兵となってはせわないな!はぁはっはは!」
当然強化されているので、ジトの死骸はなかなか強い。
しかし、たかが死兵である。
将軍のハンマーにより、顔面が潰される。
「貴様の顔はもう見たくない。俺がアモン様の右腕になる」
ほぼ制圧が完了したことにより、前線へと将軍が戻ろうとしたとき。
地を揺らす爆音が耳を劈く、ジトの死体からも紅い魔石の光が放たれ。
炎の渦が大地を駆け巡る。
将軍は、ジトによりまたしても足元をすくわれるのであった。
――野営地前方
「ご報告します。後軍の四百名ほどが被害にあい、将軍様も敵軍攻撃に巻き込まれたようです」
精鋭の兵士はかなり減ってしまったが、この周辺に配置した兵士は、かなりの錬度がある。
しかし、その報告をした兵士も、やや興奮気味で報告のみで周りの様子がみえていない。
「で、何があった?」
「死兵をほぼ一掃したところで、その死兵が突然自爆いたしました!」
「下種のやり口だ。ポールとかいう新村長か、あるいはゼラの仕業か、それともフリーの裏切りか?」
いくら考えても見えてこない。
昨日の毒の騒動もあり、フリーが怪しいが、これだけの規模のネクロマンスを実行できるのは、下種で有名だったラバーハキアのパーセルくらいなものか。
ただし、彼もすでに死亡しているらしい。
全体の兵力は下がったが、百そこそこの相手には十分戦っていける戦力であり、なおも進軍をすすめる事にした。
速攻が重要であり、拠点設営についてはやらず。
このまま、明日は攻め込む事にした。
レオナールの計算違いは、その判断が下されてしまったことにある。
かき回しすぎたのである。




