ノェウ防衛戦Ⅰ
――ノェウ近郊の森の手前
ノェウはラバーハキアより、北方に位置しており、『天空都市』と呼ばれている。
ノェウには城壁は無い。なぜなら空中に浮いているので、必要がないのである。
クリスタルのような鉱石でできた浮島の上に、都市が建設されている。
王政ではなく都市議会が、政治を担っていることから、王国は名乗っていない。
治める議長は、大戦時の英雄としては珍しく、人族ではなく、見た目は人族でも翼が生えている。彼らは、もともとは人であったが、マナの影響により飛行することが可能になった。人族に協力的な立場をとっていることから、魔人とは呼ばれず『インテリジェンス』と呼ばれる。
普段は羽も大きくはないが、飛行時は両翼で体が包めるほど、大きくすることができる。
多くは、風を特性とした魔法の使い手である。
レオナールは魔導二輪で走り続け、ようやく天空都市が見える距離まで迫っていた。
「綺麗だな。いかにも魔法が存在する世界って感じがするな」
独り言をつぶやきながら、天空都市まで森ひとつ通ればたどりつく距離まで来たことを改めて感じるのであった。
ラバーハキアからここまでは、インフラ整備のためそうは苦労することもなかった。
森を抜けるにもさほど苦労することもないだろうと考え、小腹もすいたので、食事をとることにした。
串状に刺さった氷付いた肉をとりだす。
木の枝を串状にカットして小粒の魔石を埋め込む。
《凍結》により【アイスウェポン】を弱めに発動し続けている。
魔石を外すことにより、常温へと戻す。
解凍している間に、燃えそうなものを集めて焚火を開始する。
網を敷いて、解凍した肉をのせる。
しばらく経つと、ジュウジュウ肉が焼ける音と、香ばしい匂いが漂ってくる。
余分な脂は、網の下に落ちていく。
サバイバルに少し憧れていたこともあり、何となく火の揺らめきを見ながら、黄昏てみた。
まわりが少し焦げたあたりで、ナイフで焦げを剥ぎ取り、一口だいにスライスしていく。
ちょうどローストビーフのような状態になっており、口にほうばる。
外はしっかり焼けており、カリッとした触感と肉の弾力を感じる。
中は、少し生に近いが、肉汁がジュワリと口に広がり、脂の甘味がよく出ている。
「ハフハフ!ふぅ……」
食後はまったりと、紅茶のストレートをいただく。ミルクやレモンは入れないのだ。
「さて、日が暮れないうちにノェウに行くかな」
立ち上がろうと、近くの木に手を掛けた瞬間。
目まいを起こしたような感覚に陥る。
「まさか!このタイミングで!」
――見知らぬ遺跡
また、次元の狭間へ飛ばされたと思ったが、少し様子が違うようで、頭上には星がきらめきいた、荒廃した遺跡のようなところに飛ばされた。
頭上には天井は無く、側面のレンガ造りの壁も所々が崩れている。
人が住んでいるような気配がない。
「取りあえず、進むしかないか」
星はまるで生きているように瞬き、所々で流れ星が飛んでいる。
遺跡と相まって幻想的な雰囲気であり、不思議と不安を感じることはなかった。
自分の足音だけが木霊するなか、大きめな扉が目の前に現れた。
石の重みをズシリと感じながら、少しづつ開けてみる。
開けたその先には、広い部屋があり、中央には玉座がある。
その奥には、ソファーがあり、部屋の主らしき少女が座っていた。
遠目でもわかるくらい、少女は美しかった。
銀色の髪に、四肢がわかるくらいラフな格好(キャミソールにホットパンツ?)をしており、足には適度に筋肉がついており、薄手の上着は、夢の脂肪をこぼれないように必死に支えていた。
ただし、そんな彼女の頭には、角が生えており、四肢の一部が白い鱗のようなものが張り付いていた。
「早かったねナーセット。ノェウのパンダパンケーキはあったのかい?」
少女は、別人と勘違いしているようで、ソファーの前の映像機器を見ながら声をかけてきた。
ちなみに、赤ひげカートをやっているようだ(64版)。
頭にキノコをのせたラリッタ小人を操り、虹色コースのショートカットを行っているところだった。
「あっ!失敗しちゃったよ。もー。落下時間が長いんだよね~」
そう言いつつこちらに振り替える。
やはり、振返った姿もすごく美しかった。
空のように澄んだ青い目をしており、肌は白く、かといい病的ではなく、頬は少しピンク色である。ただし、その頬から首筋にかけて、白い鱗のようなものが張り付ついている。
澄んだ目は、驚きに見開き、こちらも驚きとその美しさに見とれてしまい。
お互い数秒間見つめあってしまった。
「い……いらっしゃい」
「お……お邪魔してます」
驚いていた少女は、急にやっていたゲームの画面に体を向け。すかさずセーブをする。
映像器具を消して、ハードの電源も切る。
コントローラー巻かずに丁寧にまとめ、映像器具を片づける。
カーテン(天井も無いのにどうつるしてるかは不明)を閉めて玉座の奥、ソファーのエリアを見えないように隠す。
玉座に座り直し、その長くて綺麗な足を組み直す。
「ご、ごほん」
一つ咳ばらいをしてから次のように続ける。
「わーはっははー。よく来たな」
急に態度が変わった。威厳を出そうとしているのかもしれないが、
ホットパンツにキャミソールの少女がいくら繕っても恐怖を感じることはなかったが、
「よ、よくここぎゃ、ごほんっ。わかったにゃ、な」
カミカミである。
目が左右に泳いでおり、動揺を隠すことができていなかった。
「君は誰なんだい?なんで入ってこれたんだよ~」
涙目になってしまった。
「なっ!なんかごめん!」
取りあえずわからないけど謝ることにした。
「ひぐっ!ひぐ!あやまるな~」
確かに正論です。何で謝っちゃったんだろ?会社員時代の癖?
でもそれ以外を僕は知らない……
それからしばらくの間、気まずい空気が流れる。
「おかしいな……ひぐ。警戒モードはといてないのに……ひぐ……」
ブツブツ何か言ってるんだけど、この空気じゃ突っ込めないじゃん
「クンへル戻りましたよ」
涼やかな声と共に、僕の後ろから、メイド姿の女性が現れる。
彼女を見た瞬間。
クンヘルと呼ばれた少女が、その女性に飛びつく。
「ナーセット~知らない人がいるよ~」
「よしよし、どなた様ですか?」
「レオナールという者だ。僕は迷い込んだので今の状況がわからないのだが」
「迷い込む?おかしいですね。クンヘルが許可した者しか出入りはできないはすですが……」
「仕組みはわからないが、入ってきたんだよ~」
「重大な欠陥は是正しなければなりませんね」
「そうしてほしいものだね。変質者扱いされるのは勘弁してほしいよ」
さっきからゲームが気になる。
ゆっくり王座へ近づき、カーテンを開ける。
ソファーにずっしりと座ると、ハードを取り出すACアダプターを見やる電源も無くどうやって起動していたのかが不思議である。
「君勝手に触らないでくれるかい?」
クンヘルが抗議の声を上げる。
「どうやって起動しているんだい?」
「私の魔術を使って起動しているのだよ」
少し自慢げに、豊満な胸をはる。
張り裂けそうだ……。
張り裂けてください。マジで。
「少量のマナを一定かつ断続的に送り込みながら、遊んでたってことなのか?」
「そのくらい、白竜である私には朝飯前なのだよ」
むふ~と鼻をならすドヤ顔がややうざいが、確かにすごいことだ。
一定の力を、長時間安定して供給する。供給しながらゲームを楽しむ。
複数を同時進行で行う事の難しさは、紋章発動の時経験している。
豊富な魔力量とその制御力が成せる技であり、万人ができるものではない。
クンヘルは、空いているコントローラーを掴み、少し遠慮気味な距離に座る。
【フィーブル・ライトニング】
彼女はつぶやく。
映像機器とハードが起動する。
忍耐堂のロゴと共に、ゲームのスタート画面へ移る。
クンヘルがキノコ頭の変態男を選択。
僕はというとヒャッシーを選択。
コースはサーキット。
両社NPCに大きく差をつけ、並走するように2周を回る。
「なかなかやるね!」
彼女からは、さっきまでの警戒心は全く感じられない。
少し余裕のあったソファーは、少し狭く感じられた。
それでも心地は良かった。
ゲームは悪との風潮がある。
確かにその通りかもしれない。
健康にはあまりいいとは思えない。
でも、人と打ち解けるには有効な時もある。
彼女は、少し興奮しながら前のめりになるが、ふと集中が違う場所にいった。
お互いが触れ合っている事に気づいたのだ。
彼女は健康的な頬をいつもより赤くしながら急いで、距離を離す。
画面がブレ、コントローラーが効かなくなる。
一瞬の事であったが、彼女は平常心を取り戻し、レースに再び目を向ける。
それでも、時折コントローラーが効かなくなり、結局二人はブービーと最下位になってしまった。
「すまない……」
少し寂しそうに彼女はつぶやく。
特に、言葉はかけなかったが、彼女を見て微笑む。
彼女と目が合うが、すぐにうつむいてしまう。
映像機器とハードの電源が切れてしまう。
ちょうど、ナーセットがパンダパンケーキを用意して、ソファーの前のテーブルにおいてくれた。紅茶と一緒で、レモンとミルクを選べるようになっていた。
彼女は、少し僕に遠慮しながらも紅茶をとり、ミルクをたっぷり入れた。
ミルクが渦となり、紅茶に吸い込まれていく。
「私はね、あまりミルク味の紅茶が好きではないのだよ……。一見溶けてまじりあったかと思うと、時間が経てばまたミルク成分が分離してしまうから」
「それでも、君はミルクティーを選ぶんだよね。決して混じり合わなくてもそれが好きだから」
「ナーセットは私が作ったホムンクルスなのだよ。決して私の命令に背かない。決して私を傷つけない」
「クンヘルの望むものが、私の望むものです」
クンヘルは、パンダパンケーキを一口サイズに切り取ると、口に運ぶ。
食べ終わり少し満足げに、ため息を漏らす。
「久しぶりに、ナーセット以外の知的生命体と話したな。私の言うことも聞かず、私を傷つけるかもしれない者と」
彼女がどの程度人と関わっていないのか、どうして関わらないのか。
そんな事は、今はどうでもいい。
ただ、彼女の喜ぶ顔が見たいだけなんだ。
「さあ、リベンジしないとNPCに負けっぱなしじゃ気が済まない」
ACアダプターを持ち、《電流》のサーキットを組み上げる。映像機器についてもコンセット部分に同様のサーキットを組み込む。
旅の途中で作り上げた、鉄の腕輪に刻まれた《呼出》に力を込める。
【魔石・召喚】
しかし、魔石が来ない。
どうも、この空間では、他から呼ぶ出す事が出来ないか、難しいようだ。
仕方なく
【マテリアル】
マナの濃度が高い空間であり、手のひらサイズの魔石が出現する。
魔石とサーキットを接続し、再び各機械を起動させる。
一連の流れに、彼女は驚く。
「ずいぶん器用な魔術を使うんだね君は……バンパイアは吸血と、それに伴う身体強化のはずでは?」
「僕は亜種だからね」
「……」
やや観察するような眼で見られたが、彼女は画面に目を向ける。
再びのサーキットステージ
変態キノコとヒャッシーはというと、変態キノコがゴールテープをきった。
少し悔しい気持ちと、隣で喜ぶ彼女を見ることができた満足感。
紅茶に手を伸ばす。
ストレートのそれは、喉を軽くくすぐらせ食欲を刺激する。
結局ストレートも、完全に混ざり合っているわけではない。
決して混じり合うことのない世界。
それでも、僕は普段飲まないミルクを垂らすのだった。
読みにくいにので、いくつかに分割するようにしました。
少し寄り道