表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/28

ラバーハキア扇動作戦

<人は産まれることができた時点で奇跡に恵まれたんだよ。だからそんなに悲観しないで

多くの命の上に自分自身が生きていることを忘れないで、だからその多くの命のためにも生き続けるんだよ>


 満員電車を降り、秋の冷たい風を感じながら、ふと頭の中に言葉が生まれた。

誰に言われた言葉なのか見当もつかないまま、ただただ、不明瞭な温かさを感じる声音であるなあと考えていると、駐輪場が見えてきた。


 職場からアパートまで片道一時間半と中途半端に時間がかかり、乗り換えも多いことから寝るにも寝れない。埼玉の交通の便は決して悪いほうではないが、県を縦に移動するには不便でしょうがない。まあ、毎日通勤していると慣れるもので、当初の疲れは感じられないが。


 人生というのは、常に順風満帆というわけにはいかない。寧ろ、向かい風のほうが多い。中学までは神童扱いされ、県内でも優秀な高校に入学したものの、その後、高校の勉強についていくことができず、かといって部活動でもいい成績が残せたわけでも無し。科学者に憧れるも、数学や物理をはじめ英語もできず、大学は中堅以下の文系私立に何とか合格する。その後は無為な大学生活を送り、気が付けば今の職場に就職していた。当初は、地元でも有名な高校卒業者として注目されていたのかもしれないが、勉強と仕事は全然違うもので、使いどころがないが、かといって全く使えないわけでもない有事にはすぐに切り捨てられる人材として、その時まで飼い殺しにされる存在でしかない。


 まわりは特に何も言わないが、自分自身でもとっくに気づいている。人間三十路になると、自分自身への視線や、抱える痛みに鈍感になってしまうものだ。ただ感じる世界に色は無く、かといって、全てが全て絶望しているでもなく。己という人間を消化し続けている。


 先ほどの言葉を思いだしながら。生まれて、息を吸い、飯を食べ、苦しみ、時には達成感を感じる。本当は、別の誰かが、この感覚を味わうはずだったのかもしれないのだ。


 駐輪場に着くと、不愛想な受付の老人と目が合い軽く会釈する。自分の自転車が置いてある所まで、トボトボ歩いていくと、いつも通り後ろのポケットから鍵をとりだす。

入口まで、とぼとぼ自転車を引いていき、跨いで秋の寒空の中を自転車でかけていく。なんだか、ハンドルが曲がっているように思えて、たまに人の自転車を倒してしまう人がいるんだよなあと、自分のことは棚に上げて、恨み節をつぶやいていると、いつも以上に人影が少ない事に今さらながら気づく。


 このまま秋の夕闇に溶けてしまえばいいのにと、自分の生を否定するようなことを、ちらりと考えてしまい罪悪感に浸っていると、自分自身が前に進んでいるのか、後ろに戻っているのか感覚が歪んで、そこに居るのか居ないのか、自分とそれ以外の境界線が曖昧になり本当に、溶けているような感覚に襲われた。


意識が途切れる最後の瞬間、

「やばい、死ねのかな。もう少し生きたかったなあ……」


――次元の狭間


<何者でもないものよ。何者でもなく、何者にもなれず、何者にも理解されねものよ>


「ずいぶんひどい言われようだが、何者でもないのはあなたも同じでしょ?」


<クックク、面白い確かに儂は何者でもないし、何者にも理解されぬものであるな>


「それより、生きているのか死んでいるのか分からないのだが」


<生きておるよ、お主は今儂の言葉を認識しているではないか?>


「認識はしても、理解はできていないのだが……」


<まあ、確かにお主は元の世界からは弾かれここにいるのだから、死んだも同然と言えば同然じゃな>


「会社に弾かれる前に、世界に弾かれてしまったか……子供もできず死んでしまうとは……まあ、相手はいないのだが……」


<そうか、繁殖する事がお主の願いか?生物としては至高の願いではあるがな>


「繁殖とは間接的であり、直接的でもある表現だな……」


<儂は、お主の願いを形にするためにここにいるのだ>


「急にお約束の展開へと強引にもっていったな……もう死んでいる身で、願うこともない。それに、久しく何かを願ったことがないのだが」


「それに当然、その対価を払わなくてはならないのだろ?」


<察しが良くて助かるものじゃな。ある子供を助けてほしいのじゃ。その者は、今まさにその生涯を閉じようとしておる>


「何者でもない僕には、決してどうこうできる事では無いように思うのだが……」


<簡単じゃ。その者は、飢えと怪我をしているが、それ以上に生きる意味を無くしておるからして、その苦難から逃れるために生命機能を停止しようとしているのじゃ>


「気合をだせと傍らで応援すれば助かるのなら、願いを聞かなくても直ぐそばに行くし、なんならあなたが、それをやれば良いのでは?」


<生きる意味とは他者から与えられるものではないよ。他者の行動が起爆材となったとしても、自分自身が行動しない限りその意味を見つけることができない>


<それに、生きるという概念自体が必要のない儂こそ、できないことじゃ>


「それなら僕でも無理なのでは?他人であり、僕ほど他者へ影響のあることができない人間もいないのだが」


<だからこそ、願いの代わりに、お主に力を与えるのだ。まあ、お主の精神と、彼の体を同化させてから、お主に与えるとは、いささか違うがのう>


「……それでは、助けるのではなく、身体機能だけ保管した状態で、僕になるということじゃないか。それはその子の死と同義じゃないか!」

<正確には、自我の交代なのじゃ>


「交代とは?もしかしたら向こうの体は、その子が動かすことになるのかい?」


<そうじゃよ。彼の望みは、差別の無い平和な国で、平穏に生活することなのじゃよ>


「おい……」


<日本という島国は、同族意識が強い。大陸の多くの国から見たら、非常に異質な国であるが、平和で差別そのものがあまりないからのう>


「それでも差別はあるがね」


<しかし、差別を無くすと声高に叫んでいる欧米各国ほど、差別が顕著にみられる国はないであろう?治安安定はしていない>


「それで、なぜ僕が交代の対象になったのか理解に苦しむのだが、もう少し優秀なものと変わったほうが彼にとっても有意義なジャパニーズライフを味わえるのではないか?」


<それは自分がよく知っているだろう?自分は人に影響を与えられる人間ではないと。影響力が無いということは、自我がすり替わったところで問題も無い。それに、お主は自分を悲観しすぎておる。恵まれているのにそれを活かせていない。自分でもよく分かっているであろう?そして、その時が過ぎ去ってから後悔する>


「……」


ぐうの音もでない正論であり、心のすべてが自覚なく零れてしまっているのではないかと、無意味と知りながら周囲を気にしてしまう。

この空間には、目の前のもの以外誰もいないのを分かっていながら……。


<お主に選択権はないがのう。言い忘れたが、すでに彼はお主とすり替わっているがな。拒否したら狭間に残していくだけじゃがな。お主のかわりなどすぐ見つかるからのう>


「……すでに決定した事項について、事後承諾を求めるとは強引な……それにサラッと上司みたいなことを言うんだね」


<彼の元いた世界は、基本的には地球の環境と良く似ておる。知的生命体が暮らすためにはある程度似た環境が必要じゃからな>


諦めを承諾と受け取ったようで、勝手に解説が始まる。


<地球と違うところは、マナといって自然現象や物理法則等を書きかえるエネルギー体が存在することである。マナは、操作できるものにとっては、多くの恩恵をもたらしている。自己の強化や、他者への攻撃、治癒等の奇跡を与える。願いを形にする力と考えてよい>


「しかし、便利さゆえ、技術レベルが地球より劣るというところかな?」


<ふむ、その通りじゃ。それに、この世界は人族のみが暮らしているわけではない。動植物はもちろん、亜人といった人型の知的生命体もおる>


「マナ、亜人とくると勇者や魔王ということになるのかい?」


<ほっほっほ、その通り勇者とは人族の英雄をさす。魔王とは勇者や時の権力者に反発した者をさす。まあ、負けたから魔王という名をつけられ、貶められるのはどの世界でも同じなのじゃが>


<魔王には良く魔族がなることが多い。魔族とは、マナを操作できる蛮族の事じゃ>


<人族やそれと友好関係にある種族以外を、彼らは総称し蛮族と呼んでいるだけだがのう>


<蛮族は、もともと人族、亜人であったが、高濃度のマナに体質が変化していった魔人と、動植物や昆虫で本能的であるが、非常に屈強な魔獣に分かれる>


「その子供は、人族ではないということかな?」


<お主察しが良くて助かる。その子は所謂魔人じゃよ。ただし、人族の町に住んでおるから、差別され奴隷のごとき扱いをうけているがな>


「奴隷のごとき扱いを受けているって、現代日本で育ち海外もろくに行ったこともない、僕ではすぐに、終わってしまうのではないか?」


<今のままでは、すぐ終わるがな。その世界を生き抜く為の願いを一つ叶えてやろう>


ジト眼で、その者を睨むも、すでに選択肢は無い、すぐに表情を戻した。


<そこでじゃ、彼の現状を打破することを成功させれば、後は自分の好きに生活してよい。最後に、互いの人格が、元の世界に戻りたいと願ったとき、元の人格に戻ることができるから安心せい>


「分かった。それでは、願いを聞いてもらおう。人格を今から戻してもらおうかな」

しれっと、『最後に』とか言って、こちらの願いも叶えずに、去っていこうとする者を、止める。


<ダメじゃな>


「……。それでは、最初の願いを使って、願いをかなえる回数を残り十回に増やしてほしいかな」


<ダメじゃな>


「おい!」


<そんなの面白くないし、島山明先生の龍玉でもダメだったじゃろ?>


「まあ、ダメだと思ったのだが……。現代日本より技術の発展が遅いと言っていたが、マナを操作する道具、いわゆる魔道具はあるのかな。それに、どの程度の価値があるのかい?」


<ある。高級品なら小国が買えるくらいかの>


「それでは、魔道具を作る力がほしいのだが、それもダメかい?」


<ふうむ、よかろう。それでは絶望からの始まりを楽しむのじゃよ>

何だかドヤ顔で去ってゆく。

そして、奈落へと落ちてゆくのだ……


――ラバーハキア城壁外


強烈な痛みと空腹により、意識がはっきりしてきた。確かに絶対絶命の状態からのスタートとは、自分の状況を顧みず少し胸が熱くなる展開だ。


少年の外見は十六歳ほどの、深紅の髪をしている。肌は、非常に白い、その白さはどちらかというと病的で、体つきにいたっては、華奢で筋肉がほとんどついていない。魔人と聞いていたので、人とは身体的な違いがあるのかと思いきや、人そのものであった。名前は、レオナールといい。ラバーハキアの貴族の奴隷として暮らしていたものの、主人に反発し罰を受けたのち城外へ放逐された。もともと、ラバーハキア軍により壊滅した町の出身であり、その際、育ての親とは離別している。


「さて……まずは、食べ物がほしいところだが……足に力がはいらないな」


上半身で体を引きづりながら、食べられそうなものを探す。

種族としては、バンパイアの亜種にあたるらしいが、亜種だと単純に吸血行為をすればよいわけではないようで、今までも雑食で人間的な生活をしてきた。


「取りあえず、人がいるところまで、何とかいかなければ」


ラバーハキアは、王宮を中心に円形で、複数の城壁で囲まれている。

中央には多くの貴族が住んでおり、次に兵士、商人、農民と暮らしている。

最後に、城外に貧民街が作られており、城内で働く事が出来なくなったもの、犯罪者が放逐されている。

城外は当然、野生の猛獣や、魔物に襲われる可能性が高く、貧民の中でのコミュニティに属さなければ、命の保証はどこにもない。


廃材でできた家を見つけた。嵐がくれば、すぐにでも飛んでしまいそうな貧弱なつくりである。中に入ると、同じ年くらいの男の子と女の子がいた。


「食べ物を恵んでいただけないだろうか?」


男女はお互いに視線をかわした。そして、女のほうが壺の中から干し肉を取り出し、分け与えてくれた。少量であるが、干し肉に夢中でかぶりついた。


「ご馳走様、この恩は忘れません」


お礼を言ってから、出ていこうとすると


「俺の名前は、バルバトス見てのとおり足が無くてな、まともに働けないから、ここでこいつと暮らしている」

灰色の髪の少年が、穏やかな顔で話しかけてきた。


「私の名前は、アズサです。片腕がありません。バルバトスとは、去年から一緒にくらしています。もしよろしければ、お怪我のほうが治るまで、こちらにいらしていただければと存じます」

黒い髪の少女も、衣服こそボロボロであるが、上品さが漂ってくる。


「僕は、レオナールという者だ。ただし、そこまでしてもらうわけにはいかない」


「しかし、その体ではな。貧民街は人さらいも多い」


「安心してくれて構わない。僕は亜人だからね」

二人は少し驚いていたが、その一瞬だけで、また穏やかに話しかけてくる。


「尚の事、こちらでお体をお休めください。亜人は奴隷としての価値が、私たちのようなものに比べ高いですから。残念なことに、亜人は人の法では守られていませんから」


「僕は、あなた達も含めて警戒しているわけだが……」

不誠実と受け取られても構わないと思った。


「もし、俺たちが人さらいなら、今すぐにでもとらえる事ができるさ」


「確かに、時間をわざわざ掛ける必要性などないか……。疑って悪かったよ。少しの間厄介になるがいいかな?」


「いえ、構いません。あなたのその警戒心は重要ですから。こちらでお休みください」


部屋の片隅には、茣蓙のようなものがあり、そこで休むことにした。短い微睡をへて、深い闇の世界へと溶けていく。


<どうじゃ。そちらの世界は楽しいか?>


「このタイミングで聞くのは悪意を感じるが」


<ハハッハー、正真正銘の悪意じゃ。いくつか教えてやろうと思って現れたわけじゃが>


「たちが悪いな」


<一つ目は、向こうの世界のお前は、現在絶好調じゃよ。三か月くらいは苦労していたが、営業成績というのが伸びてきたとかで、仕事に生きがいを感じ始めましたとさ>


何だか虚しくなる報告ありがとう。しかもあちらは、すでに三か月も経っているのか。


<二つ目じゃが、今あった二人は大切にせえよ。信頼に値する者たちじゃ>


「言われなくてもそうするさ」


<バルバトスは、弓に長けた男じゃ。元々は、商人街で育ってきたが、命を狙われていたアズサを救うために足を失った。優れた眼力とブレの少ない体をしておる。義足であり移動は困難であるが>


<アズサは、ああ見えてアサシンじゃ。対人暗殺、情報収集に長けておる。貴族の屋敷などに潜入していたことから教養も高い。ただしどのような達人にも失敗はつきものじゃ。暗殺任務に失敗し、腕を失っておる。命の恩人であり温厚な性格のバルバトスに好意を抱いておるようじゃ>


「警戒心が無いのではなく、一目で僕が無害であると分かったのか」


<二人とも人族であるが、一部がマナにあてられ特殊な能力を持っている類じゃろ>

「それより何者でも無い者よ。こちらに来る前に魔道具を作る能力を、僕に与えたといっていたが、彼の義足を魔道具に変えることはできないのだろうか?」


<ふうむ……魔道具の作成について説明するには、良い機会かもしれなのう>


<お主にあたえた固有能力は『マテリアル』…魔石等のマナを蓄積した物質の作成と『バイオス』…魔道具の使用者と魔石を魔導回路(サーキット)でつなぎ起動させる能力じゃ。基本の魔導回路は与えるが、魔導回路の数や組み合わせ、使用者により微調整が必要にはなるが、それは自分自身で改良してゆくがよい>



――バルバトスたちの板の家



夜中まで寝ていたようだ、近くにはバルバトスが寝ており、反対側にアズサも眠っているようだ。どうも僕は、亜種でも曲がりなりにもバンパイアであるからか、夜行性の様だ。

まあ、あちらの世界でも人ゴミが嫌いだから、日の出前や日の入り後に用事を済ませ居ることが多かったので、特に問題はないのだ。


早速、痛む足を引きずりながら板の家を出た。さすがに、夜も更けており虫の鳴き声もほとんどしないほどだ。家の密集地から程よい距離まで離れて、魔石つくりに取り掛かる。


【マテリアル】と念じる。マナが集まってくる感覚を肌で感じる。一分弱だったと思うが、強烈な虚脱感に襲われ、その場で倒れこんでしまった。手元には、小さな魔石があった。

練習を重ねればもう少しは、溜め込むこともできるはず。

少し休んだところで、二つ目に挑戦してから、板の家へ戻り、また深い眠りへと落ちていく。



――朝



向こうの世界では、寝起きは悪くなかったはずが、物凄い重たい感覚に襲われている。

すでに起きているバルバトスが、

「早く起きないと、俺が朝食食っちまうぞ」

とせかしてくる。


傍らで、朝食を作った本人であるアズサが笑っている。


「あと五分……」


言ったとたんに、スープに入った肉を、バルバトスが食べてしまった。

頭が強烈に重いなか、恨み言を一つつぶやき、テーブルに着く。


「いただきます……」


ひとすくい口に運んだ瞬間、幸福感に満たされた。

ヤギか何かの乳に、馬鈴薯、ニンジン、ブロッコリーのようなもの、玉ねぎが入った(

肉はもうない、肉はもうないんだ……)単純なシチューだが、疲弊しきった体にはきく。


「おいしいな」


「たりめーだよ。アズサの飯は世界一だ!」


「もうバルバトスたら……」


急にピンク色な雰囲気になって、気まずいのだが


一気に、スープを駆け込んだ後に


「バルバトス、お礼と言っては何なのだが、僕は技工士の卵だったんでね。その義足少々バランスが悪いようだから、直させてくれないかい?」


「ほう、技工士様かよ。ずいぶん珍しいものを目指しているんだな。じゃあお言葉に甘えようかな」


もとの世界では全く、日曜大工もやったことがなかったが、魔道具作成のための調整ならそれなりに上手くできる確信があった。


義足を取り外し二つの木製の足(棒)を渡してくる。


受け取り、左右のバランスを合わせ、渡された殆ど錆びたのこぎりで、長さの調節をした。

それから、【バイオス】と念じ、地面との接点がある下の部分に《伸縮》と足との接点に近い部分に《反発》の魔術回路を刻む。更に《落下》という重力をほんの少し調整できる回路も仕込んでおく。それらを上手く紡いだところで、二つの魔石を両脚に埋め込む。


「バルバトス、少し試してみてくれないか?」


二足の義足を渡す。


「おお、なんだか立派になっちまって。うん両足のバランスは完璧だ!」


「バルバトス魔法は使えるかい?」


「まあ、獲物を射るときは、これを使うけど」


そう言ったとたん、彼の目は鷹のような猛禽類のそれになった。

【ホークアイ】かと思った途端《視点》についての魔術回路の基本構造が、頭の中をかけた。少し驚いたが、彼には【ホークアイ】について驚かれたと勘違いされたようだ。


「そんなに驚くなよ。少し傷つくだろ」


「悪い悪い、目の構造自体が変わるんだね」


「ただし、そう長くは使えないぜ。魔力量、【ホークアイ】を使うためのマナの操作できる時間が短くてね。」


「それだけの能力なら、負担が大きいのは当然だと思うけどね」


「その義足には、三つギミックを仕込んどいたよ」


「一つ目は、伸縮性を高める紋章と、二つ目は反発性を高める紋章。最後に飛び上がった時に落下の速度を変えるための紋章」


「下の紋章と上の紋章に、意識を送ってみてくれないかい」


「分かった…うおっ!」


上手くバランスが取れず転倒してしまう

少し、アズサは心配そうな表情でバルバトスと見ている。


「自分の歩調に合わせて、意識を送って見てくれないかい」


「分かったぜ……うおっ!はっ!ほっ!おお!」


さすがに、身体的なバランスが高いこともあり、義足を馴染ませるのが早いようだ。

今までの数倍早く歩けることにバルバトスは驚いていた。


「慣れれば、走れるし、今まで難しかった方向転換を早くできるようになる」


「注意点は、魔力切れに注意すること。一応両脚に魔石を埋め込んであるので、ブースとをかける時か魔力切れの時の補助で使用してほしい。走るので十分ほどしかもたないが」


「こいつはありがたい。こんなの貰っちまったら逆にお礼しなきゃなんねえが、返せるものが何もないぞ」


「いいんだよ、こちらは命を助けてもらったに等しいから」


今日の夕方から旅立つ旨を伝えると、まだ数日休んでいってほしいと引き留められたが、少し目的もできたこともあり、これ以上はとどまれないと思った。別れ際に、干し肉とこの国の貨幣を幾ばくか渡された。それから、二人の出会いの経緯を話してくれた。暗殺対象は、この国の宰相であり、王が崩玉した今この国の頂点に立つ者だとのことだ。まだ、暗殺は諦めてはおらず、その時まで、この国から離れないとのことであった。

最後に、アサシンの証として【透明化】【俊足】【忍び足】【変装】【香術】を披露してくれた。他にも【秘術】があるらしいが、「それは、バルバトスにしか見せられません」とのこと。

ただただ、遠くをみつめてしまった。



――ラバーハキア近郊・ラバル砦



ラバーハキアは、王国名のとおりラバーハキアが治めており、最近その王が崩玉したことを受け宰相たるパーセルが、実質的な権力を持ち支配している。

ラバーハキアは、八年前、魔王を倒した英雄として、当時の皇帝からこの地を与えられた。温厚な人物であったらしい。滅ぼした蛮族の町では、孤児を引取り、最低限の生活をあたえていた。また、生きている間には、治水とインフラを発展させ各王都をつなぐ事に尽力していた。最近では、若いながら体調が優れずに、公務については、宰相のパーセルに任せていたとの事。


パーセルは、有望な男であるが、非常に狡猾で、貴族主義。貴族以外を人間と認めていないほどである。敗戦の孤児は、現在奴隷としての扱いを行っている。以前まで仕えていた主も、パーセル派の貴族であり。ラバーハキア存命中は、露骨ではなかったものの、パーセルに実権が移った、今となっては、当たり前のように奴隷を、使いつぶし殺してしまった。


先日もある使用人に対し、その日の機嫌が悪いという理由で、無茶苦茶な仕事を言い渡し、できなかったとして、暴行をふるっていた。止めようとした、僕が逆に殺されかけたんだけどね。


もう少し、時間をかけてパーセルという人物像を把握しよう。そして、葛であるのなら、アズサには悪いが、始末させてもらう。


この子が望んだのは、差別のない平和な国だ。ただ、誰かがその平和や差別を無くしてくれると望んでも、それは得られないだろう。だったら、僕はその誰かの為に、悪を敷こう。何者にも成れなかった僕は、この世界なら何者にも成れると信じて。


ラバル砦は、八年前の大戦時に、ラバーハキアを守る要所になっていたが、大戦後帝国からの命令で、兵を退去させたが、取り壊しは行わなかった。

有事には使用するためだろう。

防衛の要を保つことは、国防の基本だからな。

逆にこの防衛の要を制圧する事は、ラバーハキアを捉えたことと同義である。

ここ一ヶ月を掛けて、魔物の寝ぐらとなっていた砦を制圧した。

あまり強力な獣はいなかったからできたことだが、夜中に少しづつ襲撃をかけた。

亜種とはいえバンパイアであるからか、日中は人間以下の身体能力しかない。

また、夜中に決して強くなるわけでもない。

唯一の種族としての固有能力は【吸収】

【アブソーブ】…技をどの感覚でも構わないが、知覚することにより構造を奪いとる。

【ルート】…魔法をどの感覚でも構わないが、知覚することにより構造を奪い取る。

の二つにより魔道具の作成に大いに役立つ。プログラムは《吸血》。


魔道具なしでは、マナの操作はできないが、マナ操作の時間、同時にブートできる紋章の数は夜中には、人族のそれとは比較にはならないだろう。


現在使用している魔道具は、


ブロンドソード…《硬化》《伸縮》《吸血》《落下》

町人の服…《伸縮》《反発》《硬化》

革のブーツ…《俊足》《伸縮》《反発》《落下》

小型の壺…《誘香》


また、【マテリアル】は、毎日使ったこともあり、当初の十倍は濃度の高いマナ保有が可能となった。また、《吸血》で吸収した生命力(血液や体液)による魔石の作成も可能となった。

生命力で作成する魔石は、魔術回路と接続すると常時紋章を発動できる。魔術回路の設計により、威力調節できるものの、使用者のマナ操作によるブートでは干渉できないと難点があり、節約上わざと回路の伝達率を狭めることにより、魔石が切れた後は同様の質の魔石を補充するか、新たな魔石に合わせた回路に組み直さなければならない。


「パーセルの狙いは王権の簒奪で間違いはないだろう、それにバルバトスは、商人街で育てられていたが、実際はラバーハキアの子供の様だな。アズサの本当の任務は、暗殺ではなくバルバトスの警護なのだろう。バルバトスの育ての親は、金で買収に応じた。この国の貴族は、自分自身ではあまり殺人を行わないことから、城外へ放逐して、社会的な死を与えたのだろう」


「バルバトスが王権を握ったほうが、僕にとっては都合がよいな。問題はどう神輿を持ち上げるかだな」

「まずは、アズサが所属するアサシンの集団に会いたいものだがな」


<ヒントを上げようかのう>


「また急じゃないか」


<アズサが所属する“王の鉄鋲底の靴”という集団が、ここから約三里ほどの森に住んでいる。前王の時代に草の者として仕えていた。彼らは前王への忠誠を重んじているので、バルバトスの警護をしている。また王宮内では、騎士長のグエンという男が、前王への絶対の忠誠を誓っておる。そこら辺を崩してみるのはどうじゃ。彼らは、前王時代は対立していたが、前王を思う気持ちが強い故でのものであるからして、手を取り合えば、政権の脱却は容易だろう>


「城内をかき回してから、騎士長グエンに接触してみるか……」


<くっくく、国崩しを内部から行うとは、この停滞した八年間が嘘のような嵐が置きそうじゃの>


「よもや、僕を使ってこの世界の変化を楽しんでるんじゃないだろうね」


<儂ほど平和を望むものはいないものじゃ>


これほど分かりやすい嘘はない。

自分は一番安全なところで観戦しているわけだ。

こちらの疑心を気づいていながらも、それは話を続ける。


<このプログラムと能力の派生を与えよう<蓄積>特に生命により作られる魔石の純度をあげるのに役立つじゃろう。【バイオス】については【ユーザ】【アクセス】に分ける事にしよう。固有と汎用でセキュリティを変更できる>


<いやー乱世乱世>


不穏なことを言いながら消えてきやがった。


「さあ、英雄殿を貶める不届き者に、鉄槌を……」



――翌日昼、ラバーハキア城内



商人街にて大量のチラシが巻かれた。

内容は、パーセルが王権を簒奪するとの警告と、

その悪政を近いうちに英雄王ラバーハキアの息子が打ち砕くというものである。

その新王は平等を重んじ、商人だからと蔑まないとの記載もしっかりしておいた。


チラシだけでは人の注目はあまり集まらないだろう。

ただし、誰もがこのチラシを見る、仕組みを作っておいた。


中央の広場には、多くの料理屋があり、昼食時は多くの奉公人でにぎわう。

その時間帯を狙って、《不可視》を解除する仕組みで、

貴族を広場の銅像に張り付けておいた。

その貴族の悪行(不正会計等)を暴露する記事と共に、さらにチラシを巻いておく。



――広場での事件の二日後・とある貴族の屋敷



「次はどいつが曝されるんだ!」


「けっ!ビビりすぎですぜ旦那」


「兄貴の言う通りですぜ我々兄弟がちゃんとお守りします」


同じような顔をした男が、肥満体質の中年にそう言う。

彼らの実力はかなりのものであるが、中年男は、連日続く貴族への襲撃に怯えていた。


「ははっは!そうだな積んだ金の分は働いてもらうぞ」


中年男は、不安を誤魔化すように、また態度がでかくなるが。


「ヒール卿とお見受けします」


自分の真後ろからいきなり声を掛けられると想定していなかった。

自分の屋敷であり安全地帯だと思い込んでいた。

「町中の危険視されている幻覚草を、娼婦たちや若者たちに売りつけ、富をむさぼっているのはあなたですか?」


「誰だ貴様!いつの間に入ってきた」


「質問をしているのは僕だ」

最初の貴族を傷付けた時は、非常に躊躇ったが、

ブロンドソードで容赦なく突き刺す。

ただし、急所は外しておいた。

意識を《吸血》に注ぐ。みるみるヒールの顔が蒼白になっていく。


「貴様ぁ!兄者!」


「おうよ!弟よ!我らモーガスの魔猿、フォウとファウが相手をしよう」


【フレイム】【フローズン】


炎の塊と、氷の槍が飛んでくる。

小太りの貴族を盾に、それらをやり過ごし、《伸縮》を用い、弟のファウを串刺しにする。


「がうっ!」


ファウが崩れ落ちていく瞬間に、《伸縮》により、短剣状にブロンドソードを縮め、

《俊足》により、フォウの懐まで潜り込み、一突きする。


さすがにフォウは実践経験も豊富であるのか、すぐさま危機を感じ、すんでのところで回避した。回避すると同時に、炎を纏った蹴りを浴びせてくる。

まともに脇腹に入り、一瞬息が止まる。

また、高熱の蹴りにより、火傷を負ってしまう。

皮膚が溶ける激痛を感じたが、また《俊足》で距離を縮める。

すぐさま、フォウは距離を置き、【フレイム】を放ってくる。上着が、ボロボロになり体の大部分が焦げてしまう。

低い唸り声は上げたが、さらに《俊足》に魔力を注ぎ込み、離された距離を知締める。


「シッ!」

ブロンドソードを突き刺す。

全力で《吸血》に魔力をすすぎ込む。

フォウは最後の抵抗を行う。

左腹部に短剣が刺さる。

痛みに顔が歪むが、決してブロンドソードは抜かない。


「【フレイムウェポン】!」


短剣が、赤い炎を纏い、内外から体をもやしにかかる。


「グっ!」


それでも、ブロンドソードは握り続け、ほどなくフォウの顔は青ざめ、脱力してその場に崩れ落ちた。

意識が朦朧とするなか、《蓄積》により溜められた力を、【マテリアル】で魔石に変換する。


「今回は、ヤバイな……」


足音が迫ってきている。騒ぎを聞きつけた使用人だろうか。

最後と覚悟を決めて、深い闇へと落ちていくのだった。



――ラバーハキア城外



「早く起きないと、飯食っちまうぞ」


聞き覚えのある声がした。

それと、自分自身がまだ生きている事に驚いた。


「後五分待ってくれないかい?」


見覚えのある二人は、微笑みながらこちらを、見てくる。

いい香りに、鼻をムズムズさせてから、重い体を起こす。

腹部に痛みは感じるが、致命傷だったそれは、命に別状無い程度まで回復していた。

「また厄介になってしまったのかい?」


「気にするな。アズサが城外で倒れていたお前を、連れてきたんだ。今まで何してたか分からないが、無茶はするなよ」


「お倒れになっているのを見たときは、驚きました」


「ああでも大分楽になったよ」


「理由は聞かないが無理はするなよ。最近は、城内でも騒ぎが起きているようだから」


「どんな騒ぎなんだい?」


「貴族の不正を曝して、本人たちを広場の門にくくり付ける事件だよ。幸い死人はいないけれども、国民が不安と不満でいっぱいになっているんだ」


「多くの国民は、ラバーハキア様が崩御された事により、パーセル様が貴族を中心に、祭りごとを行っていらっしゃいます。しかし、今回の事件により、その貴族主義に不満をお持ちの方が、城内で暴動を起こしているのでございます。」


「それに対して、パーセルは、兵を送り武力で鎮圧しているんだ。俺は、城外へ弾かれちまった身だけどラバーハキアは故郷だ。そんな故郷荒れている姿は見たくない」


「広場に曝されていた貴族の不正は事実なのかい?」


「おそらくは……」


「それならば、不満が起きるのは仕方のないことだよ。その混乱をただ武力で解決しようとしているだけでは、根本的な解決になっていないんじゃないかい?」


「ああ、そうだ」


「解決するためには、パーセルとその根幹にある貴族主義を、何とかしなければならないね。」


「しかし、パーセルに対抗できるものなどいないし、反乱には騎士長自らが討伐にあたっていると聞くぜ」


「パーセルに対抗できる者をたてればいい。ラバーハキアは聖王として、国民に今だ支持者が多い。その支持の力を取り付けられるものを、新たな王とすべきだが……」


アズサの眉根がわずかに動いたのを感じた。

すでに僕が考えている事を、感づいているようだ。


バルバトスも、何か考え込んでいる。おそらくは自分が、その役につくかどうか悩んでいるのだろう。


「これ以上、国の混乱が続けば、帝国が黙ってはいないはずだよ。内政干渉をしてくるのは目に見えている。それを恐れて、パーセルは更に弾圧を強めていくだろうね」


自分で言っておいて滑稽だとも思った。

この暴動の種火を作ったのが、僕であるからなのだが。


「そうか……もしラバーハキアに、子供がいたとしたらどうなるんだ?」


「それは、次期王の有力候補だろう。パーセルに対抗できる者としては最適じゃないか。

そういえば、前王には子供がいるとの話もあったが、王宮では誰も見たことが無いとのことだったかな」


「ラバーハキアは、ここから北の山里の出身だったんだ。英雄の中でも、特に弓の腕が非常に優れていた。英雄たちの目と言われるほどに。彼には、妻がいたが大戦中に亡くなったと聞く、子供は三人いたが公式上では、そちらも亡くなった事になっているが、実際は生きている」


「噂の範囲との事だけど、確証はないんじゃないか?」


「それもそうだ。子供が商人に育てられて、足が無い何て、どうやって証明する事ができるんだ……」


「バルバトス……」


アズサがつぶやく。

ここでワザと驚く必要もないので、話を進める。


「それならば、まず騎士長グエンを味方につけようか、”王の鉄鋲底の靴”については、この事情を知っているのだからさ」


バルバトス、アズサが驚きの表情を見せた。


「私は、所属名までは、お話ししなかったはずですが?」


「まあ、何せここを離れてから、ずっとお仲間が僕を監視していたんでしょう。それなら、こちらもそちら様の事を調べるのは、当然の事じゃないかい?」


「……」


「そんな事をしていたのか?」


「いや、お陰で今回は助かったのだから、ぜひお仲間を今度紹介してほしいけどね」


「申し訳ございません。ただ、全面的に信用することが、できませんでした」


「もういいよ。だって、全部バルバトスの為にやった事だろ?僕の親友をいつも守ってくれてありがとう」


「アズサ……いつも世話をかけちまって……」


「いいんです。あなたの為なら、なんだっていたします」

「俺はお前を守るって言ってるくせに、守られてばっかりなんだな」


「バルバトス……」


ラブコメの波動を感じる……。

そして、僕はいたたまれず、そっと遠くを見やるのであった。



――一週間後・城内武器屋



この一週間で、暴動への弾圧が激しさを増し、連日死傷者を出していた。少しづつ暴動は沈静化を見せているが、確実に国民の不満が増している。


あれから、体を十分休めた事もあり、ある程度傷も塞がった。

現在は、騎士長グエンを味方につけるための、準備をしている。

すぐに、バルバトスをラバーハキアの子供と思わせるのは不可能である。

ただし、似ているもしくは再来と思わせることは、できるのではないかと考えた。


ここ数日で、”王の鉄鋲靴の底”からラバーハキアの生前の性格や、グエンの性格、二人の出会い等の話を聞くことができた。


グエンは、大戦中民兵として従軍しており、とある戦でラバーハキアの弓に救われ、それ以降強い忠誠心と鍛錬で、現在の地位を得たとの事。民兵出身であるとのコンプレックスは多少あるからか、忠誠心と強さは人一倍強いのであろう。

貴族意識はないだろう。寧ろ、真逆な考え方なのかもしれない。

強さと兵からの信頼、今までの貢献から、騎士長を務めているのだろうが、

いずれパーセルにその地位も、はく奪されるであろう。

現に、軍の弾圧の中心にいるのだから、民衆からの信頼は、徐々に無くなってしまう。


実力と忠誠心で昇りつめた男には、実力を見せつければいいと結論づけた。


「おっちゃん、この弓はどのくらい飛ばすことができるんだい?」


「本気だせば、こっから城外まで飛ばすことだってできらぁ」


「ほうなかなかのモノだな」

よくわかんないんだけど……


「おうよ!この国は、交通の要所になっているから、いろんな国から良いものがはいってくるんでい」


「こいつはいい、そこの矢と一緒にいただこうかな」


「あいよ!」


買った弓を、持ち帰り紋章を掘る。両端には、魔石を埋め込む。

《氷結》《反発》


矢には、矢じりの部分を取り外し、魔石をつける。

バルバトスは、あまり魔力に関しては、得意な方ではないので《氷結》の補助とした。


魔石の濃度により、着弾した床を少し凍らせる程度から、氷の柱ができるまでに分けた。


先端が、矢じりではなく魔石であり、最初のうちは命中率は低かったが、弓の才能に恵まれているバルバトスはすぐにコツをつかみ、各魔石の不揃いも含め、感覚で修正できるようになった。





――翌朝・広場



久しぶりに、貴族が貼り付けられており広場は騒然となっていた。

昨日の夜に、アズサとその仲間の誘導で、僕は前の主様とご対面、個人的な思いはあttが、ちゃっちゃと済ませて今日にいたる。罪は使用人への不適切な扱いと、パーセルへの賄賂。裏帳簿もアズサたちの仲間が見つけてくれており、証拠として置いてある。


すぐさま、派兵が行われ広場は、民衆と兵がにらみ合っている状態だ。

兵が撤去するために近づくと、どこからともなく、一本の矢が降ってきた。

氷の柱が立ち兵の進路を妨害する。その後次々に、矢が降ってきて、囲いのように、氷の柱が立った。


兵はもちろん民衆も驚いたが、誰一人矢を放った人物を、確認することができない。


「我ら、ラバーハキアのグエン隊と知っての狼藉か!」

威勢のよさそうな、若い兵が吠える。


それをあざ笑うように、彼の足元に、矢は着弾し、敷石が凍る。


若い兵は戦きバランスを崩し転倒した。


民衆から、嘲笑が起こった事により、若い兵は顔を真っ赤にし、剣を抜き切りかかろうとした。


「やめないか!」


騎士長グエンの一声で、若い兵は動きを止め、冷静さを取り戻す。


若い兵は血の気は多いが、命令には従順だ。統率力はかなりありそうだな。

良い部隊じゃないか。


グエンはゆっくり氷の柱まで歩み寄り、腰の剣で横に薙ぎ払う。

一撃で氷の柱が崩れていく、貴族を降ろし、証拠品とした裏帳簿は、袋にしまった。

圧倒的な強さに、民衆も兵もしばらく動けず、退却の命令により兵は正気を取り戻し、引いていった。



――深夜、王宮内



グエンは一人、石畳の廊下を歩いていた。本日証拠とされた裏帳簿を隅々までチェックしていたので遅くなってしまった。中身は、本物としか思えなかった。中には、生ゴミをパーセルに渡したという、理由の分からない会計処理がされていた。今回の件では、貴族の身柄以外何もなかったと報告しているが、この帳簿についてもほどなく分かってしまうであろう。不正は事実。

彼は、身の振り方を今必死で考えていた。

彼にとっては、恩人の名をつけられたこの国は命より大事なものである。


ふと、誰かが見ている気配を感じ窓の外を見やる。

その瞬間、そとから矢が飛んできた。

もともと、攻撃の為ではなかったようで、目の前を通過する軌道であったが、瞬間的に手お出し受け止める。先端には、手紙が書いてあり、今すぐに会いたいのでラバル砦に来るようにと書かれていた。

広場の件といい実力は確かな者であろうと考え。非常に興味を持っていたこともあり。

相手の誘いにのることにした。

彼の顔から迷いは消え、武人の顔になっていた。



――ラバル砦・指令室らしき部屋



「あれから、こんな所で暮らしていたのかよ」


「存外快適なものさ」


「魔物はどうされたのですか?」


「全て倒したよ。いい魔石になってくれた」


「たまに、お前が怖いと感じるよ」


「そうかい」


「それより、来てもらえるのか?」


「来るさ」


「仲間からの報告では、グエン騎士長様はラバーハキア城門付近にいらっしゃるようです」


「本当にこんなので味方にできるのか?ただ矢を射っていただけなんだけど」


「あの遠距離から、矢を射ることができる者はいないよ」


「そうかな?」


しばらくすると、階段の付近から、金属音が聞こえてくる。

明りのついている部屋は、ここだけなので、迷うことなくこちらに向かってくる。


「お呼びに預かったので参上した」

そう会釈程度の礼をして、入室してきた。

顔を上げた途端、グエンは目を見開いた。


「俺の名は、バルバトス。突然の呼び出しに応じてもらい感謝する」

少し芝居がかった言い方だが、少しは威厳があるように見えるかな。

バルバトスは、赤と黒を基調としたラバーハキア軍服を着ていた。

ラバーハキアが、生前よく好んで着たものである。

面影があるのか、グエンは動揺を隠すのに手間取っていた。


「この二人は、俺の連れだ安心してくれ」


「ここに来るまでに、魔物の気配が全くなかったが」


「僕が、始末しておいたよ。そんなことは、どうでもいいじゃないか」


「……」


「突然だが、ラバーハキアの現状についてどう思っている?」


「荒れてきているな……」


「いずれ君もその波に飲まれてしまう。気づいているのに、何故行動しない?」


「私が全て正しいとは思っていない」


「貴族主義が横行する現状は、正しいとは思いかねますが」


「民衆は、上に立つ者を求める。貴族がその役割を担うのは当然だな」


「その貴族が民衆を苦しめているのだが、君の考えは正しいと思うよ」

「しかし、上に誰が立つのかが問題だな。グエンお前が立つべきだ!」


「言葉が過ぎるぞ。俺はラバーハキア様に仕えるもの、王の器ではない」


「パーセルは、その器があるとでも言うのかい?」


「……」


「頼みは一つだ。この混乱に紛れパーセルを撃つ。兵への損害を出したくない、明日の警護は正面を中心に配置してほしい」


「賊の侵入を許せとの事か?」


「簡単に申し上げれば、そういうことになりますね」


「応じると思うか?」


「まあ無理だろうね。グエンなぜ今日不正会計については証拠を残したが、使用人への不適切な扱いについては残さなかったかわかるかい?」


「……」


「パーセルは、取り巻きの貴族が殺してしまった使用人について、その死体を買い取っていたんだよ。死術の実験のために」


「なっ!」


「生ゴミを定期的に、パーセルに渡していたからね」


「!」


「パーセルを始末した後は、民意が上を決定すればいい」


「明日の警備の件頼みましたよ」



――翌日深夜・城内



城内の地図はすでに手に入れている。

パーセルの部屋へ迷いなくたどり着いた。

見張りの兵には、ほとんど遭遇しなかった。

バルバトス、アズサには《静音》《不可視》のついたローブを着てもらっている。


「ここだな」

扉をゆっくり開いた。

しかし、本人はいないようであった。

アズサに確認してもらっても、気配を消しているわけではなさそうだ。

しかし、部屋に隠し階段があり、降りるとそこには、数多な死体が転がっていた。

死術の実験台になった者たちであろう。

実験により、肉体の長寿化。精神移行の秘術等の研究資料があるが、いずれも成功はしていなかったようだ。また、ラバーハキアの病状の経過を示した日記があり、毒により殺害まで追い込んでいたようだ。


一通り部屋で調べものをした後、本人を再度探すことにした。

二十分ほどして、王座の間に、パーセルはいた。

王の座に座っていた。

最初は、驚きを浮かべていたが、口元を歪めた笑いを浮かべる。


「ずいぶん気が早いことだね」


「そうでもないが」


「お覚悟くださいませ」


「グエンの奴も使えないか。貴様ら、さんざん私の計画をかき回してくれたな」


「父の仇をとらせてもらうぞ」


「ラバーハキアの息子か、ちょうどいい探す手間が省けた」


【召喚】


突如十人の男女が現れた。皆、全く生気を感じる事ができない。

見たことのある者もいる。僕が助けた元主の使用人。


「既に実験室は見たのだろう?魔人は、人間の中で、濃度の濃いマナを蓄積し続けたものがなる事はしっているな?魔人は、それぞれ固有の能力を持っている。私は、それを人為的にそれを発現させる事ができないか長年研究してきたのだ。こいつらは、その過程でできた失敗作よ」


ただの死人ではないそれは、人間の動きと、力をはるかに凌駕している。一斉に襲い掛かってくる。動き自体は単調である為、何とかよける事が出来たが、よけた先の壁が陥没する。ゾンビたちは、攻撃の衝撃で、体を文字通り削っている。


「ぐぉぉおおおぉお」


再び、死人たちが襲ってくる。動きは単純だが、量が圧倒的すぎる。

バルバトスは、《俊足》により距離をおき。弓に力を籠める。冷気を纏った矢が、二体のゾンビを凍結する。

アズサも《俊足》にて三体を、みじん切りにする。


「なかなかやるな。だが、これを耐えきれるかな?」


【ベルセルク】


死人たちは、獣の様な咆哮を上げ、目は以前より赤く輝く。

速度、攻撃力共に、段違いに増加。目でとらえた時には、すでに近くに迫っている状態。

バルバトスは、右腹部を負傷。

アズサは、何とか回避するが、先ほどの様に反撃はできない。

いずれの死人も、自分の攻撃の反動で、トマトのように潰れる。

僕はというと、たまたま突き出したブロンドソードで、二体は自滅させる事ができたが、残る一体の攻撃をまともに受けてしまう。

肋骨は砕け、肺が破裂する。左腕はひしゃげ不自然な方向に曲がってしまった。

「つッ!」

肺が破裂したことにより、口からは大量の血を吐き出し、苦悶の叫び声すらあげることはできない。


「レオナール!」


「一人しか沈められぬか……」


「まあ良い。貴様ら程度は、私一人で十分だ」


パーセルは、注射器のようなものを自分の首筋に打ち込む。


「ううむ、たぎるな」


首筋から、血管のようなものが浮かび上がり、顔の半面が、骸骨化し眼球のあった部分は、赤く怪しく光る。


「私の研究の成果、人族を魔人にする高濃度のマナよ」


「何人の犠牲の末に作った薬だよ」


「ゴミの数など覚えていないがな」


瞬間、アズサがパーセルの後ろへ回り込み、短剣で首を薙ぎ払おうとするが、金属音と共に、首筋で短剣が止まる。

パーセルは無言で、アズサの首を掴み、放り投げる。


「くぁ!」


入口側付近の壁にたたきつける。

アズサはその衝撃で、意識をうしなう。


「他愛もないな」

バルバトスは、矢を三つ連続で射る。

全て、パーセルに命中するも、貫通するまでにはいかない。


パーセルは、バルバトスとの距離を詰めて、手に持っている黄金の杖を振り下ろす。

すでに義足についた魔石のマナも切れ、回避も不能になっている。まともに受ければ、死人と同じように、潰れたトマトのようになってしまう。


その時、黒い影がパーセルの杖を槍で受け止める。

金属のぶつかる音が、王座の間に響き渡る。


「なぜお前がここにいる?」


「このラバーハキアを、貴様に渡すわけにはいかぬ!」


「騎士長グエン!」


「グエン。見て見ぬ振りをしていれば、もう少しここにいられたものを」


グエンは、杖を打ち返し、パーセルに襲いかかる。

鈍い金属音が響き渡る。グエンほどの戦士でも、パーセルを貫くことはできない。

黄金の杖を横に薙ぎ払い、グエンの体は吹き飛ぶ。


「グッ!」


そのまま壁に突撃し、失神してしまう。


「この体に、ただの物理攻撃は通らぬよ」


僕は渾身の力を込めて、再びバルバトスに近づこうとするパーセルを、タックルで転倒させる。


「この虫けら風情が!」


怒りと共に立ち上がり、金の杖を何度も振り抜く。

腕、腹、足、顔面つぎつぎに、殴打され骨は砕け、内臓は破裂し血がそこかしこに散らばる。それでも、必死に闇に落ちないように、意識にしがみつく。

一通り殴打され、動くことができなくなっる。


少しパーセルの息が上がる。

忌々しい目で、黄金の杖についた血を眺める。

バルバトスの方に体を向ける。


目に映るパーセルの歩みは、スローモーションを見ているようで、非常にゆっくり見える。

口の中の血や、力が入らなくなった舌により、息もろくにできない。


いつもこうだ。僕は何もできず。ただ、失う。

できない言い訳ばかりを考え。

それ以外を放棄する

逃げることに慣れ。

かといって、死にもの狂いで逃げてるわけでもない。

いずれ袋小路に追い込まれる事を知りながら。

立ち向かう事を、恐れている。


大切な友達が、まさに殺されようとしている時も、どうせ僕なんかをこの世界に飛ばした奴が悪い。この体が圧倒的に強ければ助けられたはず。もしも、もしも……もしも。


それでも、考えうる答えは一つだった。


「僕のような人間では、助けることはできない。ごめん……」


そう、人間では助ける事ができないんだ……。


口元が少し釣り上がり、こぼれた言葉は。


「人間では助けることができないのなら、いっそ魔物になってしまえば良いじゃないか……」


【魔人化】

黒いオーラが身を纏い、目は赤い血の色に変わり、犬歯は伸び、髪は脱色されたように、銀色にかわる。全身が焼けるように熱い。破裂したはずの内臓は、捻じれるような激痛はあるも、機能が回復してきていることがわかる。


肉は再び人の形へと、戻ろうとする。

ただし、喉がひどく乾く、うまそうな血の匂いが、そこらじゅから漂ってくる。

あの少女、あの少年、あの男から滴る血は、極上な酒のように鼻を刺激して、すい尽くしたいという衝動を抑える事自体が、馬鹿らしく思えるほどの魅力があった。

衝動から逃れるように、ポケットに手を入れる。幾つもの魔石を掴み取る。

敵の血(生気)から作られたそれを、噛み砕く。


全身が、快楽に満たされ。

頭から、思考が抜け落ちていく。

次々に、魔石を食らう。噛み砕く。飲み込む。

砕けた骨が、より頑丈になり。

破裂した肉は、より強靭になる。

体内からマナがあふれでて、黒い霧となりまとわりつく。


その異常に、はじめに気づいたのは、バルバトスであり、声も出さず此方を、心配するような眼差しで見つめていえる。


パーセルが振返り、それを確認したかしていないかの隙に、彼の魔人化していない腕が、はじけ飛ぶ。


腕に着いた血を一舐めする。


「まずいな……」


赤く鈍い輝きを放つ各紋章は、当初設定したサーキットではありえないほどの、出力がでている。ブロンドソードの《硬化》は、パーセルの魔人化して強化された身体に傷を負わせることができるほど固くなる。


《反発》により、加速度を増加し、《俊足》により目にも止まらぬ速さとなる。

《硬化》されたブロンドソードを上段に構え、《落下》によりまさに神速に近い早さで振り下ろす。


渾身のそれは、パーセルの体を裂くには十分すぎる一撃となった。


「き……貴様……。わ、私は不死身だ……こ、この力がある限り……死なぬ……」


「この世に滅せぬものは無いよ」


ヒビの入ったブロンドソードを、パーセルの口の中に入れ、そこから《吸血》を行う、パーセルの顔から生気が消え、ミイラのように干からびた死体だけが残る。



――その後のお話し



パーセル死亡により、新たにラバーハキアの息子を名乗るバルバトスが、王の地位を次ぐこととなった。その後押しをしたのが、騎士長グエンであり、”王の鉄鋲靴の底”であった。

民衆からはラバーハキアの再来として支持を集めている。

奴隷制度の廃止や、元奴隷、身体的な障害を持つ者への仕事の斡旋を行なった。

当制度廃止とインフラの整備がすすんでいることから、他国から多くの民が移住してきた。

それに伴い、労働人口が増加し、帝国領内の国で随一の経済大国へとかわっていった。


治安維持が大変なようだが、グエンや”王の鉄鋲靴の底”の活躍により、大きな暴動は起きていない。


外敵との闘いでは、バルバトス自らが率いる弓兵の一団が、五百強の蛮族を、一人の犠牲も出さず撃退したことにより、”東国の弓取り”として他国にも名前が知れ渡っていった。


夕方と夜の境目。

ラバーハキアから十五里ほど離れた平原。

名もわからないその平原を、黒い馬に跨ったレオナールがかけていく。

黒い馬に見えるそれは、静音性の高い魔導二輪。

魔石をセットする事により、自動で、二輪が駆動し前進、後退することができる。

ラバーハキアからノェウまでは、道路が整備されており、快適にここまで走ってこれた。


「冷えてきたな……」

つぶやいても誰も返事をしてくれない一人旅

当然引き留められたが、様々な国を回り、もっと魔導具の勉強がしたかったので、丁重にお断りした。

最後の日、国の宝物庫にある、宝具を持って行っていいと言われたので、この魔導二輪を貰った。


天空の都、ノェウを目指し、ひたすら夜の闇の中を、駆け抜けるのであった。

小説をはじめて書いてみた。

読むのに比べ、100倍難しい!

基本的なところが出来ていないと思うので読みづらくて申し訳ない。

今回は単調になってしまったので、次回以降は最初に流れを考えて書くようにする予定。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ