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青き竜とレモン色の小鳥  作者: しんた☆
20/20

20 いつの日か

「な、なんだよ。伊織、もう酔ってるのか?」

「お、おまえこそ、赤くなってるじゃないか。」

「と、とにかく。飲もう!」


 やっと親友を取り戻したという達成感と、やっと胸にあった空洞を埋められた安心感がこみ上げてくる。嬉しい、照れ臭い、愛しい、店内の雰囲気にも助けられて、二人は楽しい時間を過ごすことが出来た。そして、店を出るころには、ほろ酔いの二人が出来上がっていた。


「ごちそうさーん。」

「毎度ありがとうございました!」


 元気な店員の声に見送られて出て来た二人は、ゆっくりと駅へと歩き始めた。


「なぁ、伊織。俺、小説家を目指そうかと思うんだ。」

「え? 小説家?」


 思わず立ち止まった伊織が、明希に向き直った。明希はそんな伊織に目を合わさずに下を向く。


「いや、無理かもしれないけどさ。専門サイトでは、何度か取り上げてもらってるんだ。食べて行けるようになるまでは、父さんの仕事の手伝いをしながらだけどね。あのNostalgic Place、父さんがすごく気に入ってて、もう少し間口を広げて、いろいろ事業展開する予定なんだ。小説家だけで食べていける自信はないけど、会社員になるより時間の自由が利くだろうしね。」

「うん。明希にならできるよ。…、そっかぁ。僕もがんばらなくっちゃ。」


 こぶしを握り締める伊織を見て、明希は目を見張った。


「え? 伊織は何をがんばるんだ?」

「出版社だよ。出版社に入って、佐久間 明希の担当者になる!」


 珍しく強い意思表示に、明希は思わず声をあげて笑った。


「あはは。俺、がんばるよ。伊織が担当になってくれたら、最高だ。」


 二人はすでに改札口まで到着していた。


「じゃあ、またな。俺の小説、ここに載ってるから、予習しといてくれ。」

「うん。しっかり読ませてもらうよ。」


 そのまま伊織を見送るつもりでいる明希だったが、伊織から「それじゃ。」の言葉は出てこない。じっと立ち尽くしたまま、明希を見つめるその姿は、初恋の乙女のようだ。どんなに打ち解けたつもりでいても、あふれてくる気持ちには抗えない。


「…。明希、ごめん。」


 ふいにそう言うと、伊織は明希を抱き寄せた。


「お、おい。大丈夫か?」


 背中に回された腕に、ぎゅっと力が籠っているのを感じて、ドキっと心臓が跳ね上がる。その時、駅の構内放送が流れだした。


「お客様にお知らせします。先ほど信号故障があり、電車が一時ストップしております。お急ぎのところ誠に恐れ入りますが、復旧のめどが立ちますまでしばらくお待ちください。」


 アナウンスによって、一気に辺りの雰囲気はざわつきだした。抱きつかれたままの明希は、そっと伊織の背中に腕を回すと、トントンと宥めるようにして、落ち着かせる。


「こ、こら。よっぱらい。こんな公衆の面前でなんてことしてるんだ。ほら、電車がしばらく動かないんだってさ。コンビニで酔い覚ましのコーヒーでも買おう。」


 明希は、しがみつくように抱きついている伊織の肩をむりやりはがしてコンビニに誘った。伊織は赤らんだ顔を隠す様に下を向いたまま、明希に続いた。


 コンビニで買い物を済ませると、駅舎を出て少し先にある公園に向かって歩き出す。後ろからついてくる伊織の体がほてっているのが一緒に歩いていても分かる。明希は自分の心臓がうるさく脈打っているのを、ゆっくりと息を吐いて落ち着かせながら考えていた。


―まさか、伊織が俺なんかを?―


 それでも、あの洞窟の中で語られたレイモンの気持ちを思い出すと、うろたえてばかりも居られない。自分だって、アイツのことは大好きなんだ。ただ、その気持ちがどういうものなのか、自分でも分からない。


「やっぱり、迷惑だったよね。ごめん。」


 公園に足を踏み入れたところで、後ろから声を掛けられた。


「違う!そうじゃない!ただ、自分の気持ちが分からないんだ。少し、ゆっくり考えたい。時間をくれないか。」


 苦し紛れな言葉だったが、伊織はふっと肩の力を抜いてほほ笑んだ。


「分かった。拒絶されなかっただけでも、嬉しかったよ。僕が記憶を取り戻すまでの5年間、明希はずっと待っててくれたんだもんな。ちゃんと待ってる。」

「ありがとう。やっぱり伊織には敵わないな。」


 明希は夜空を眺めながら、ふうっと大きく息を吐いた。




 南の島の山の頂に、二つの人影があった。


「アイツ、どうしてるかな。」

「アイツって、アキのことか?ふふ、アイツならきっと大丈夫だ。オオカミの口を素手で開けさせたんだろ?」


 その話が出ると、二人そろって笑い出す。テオにとっても楽しい話になっていた。


「そうだよな。…なぁ。アイツも親友だって言ったら、テオは嫌?」

「くだらん! 俺たちには、一生モノの絆があるんだからな!」


 レイモンは満面の笑顔を浮かべて「そうだよね。」と答えた。


「シルシュール様はすでに下界に下りられた。気を付けて行ってこいよ。」


 頷くレイモンを見送るテオの表情は、どこまでも優しかった。




おわり


読んでくださってありがとうございました。

これで一旦このお話はおしまいです。

いや、これからだろう!って気持ちもあるのですが、謎も残したままなのですが、ふわふわモヤモヤしたまま第一章はおしまいとなります。

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