静まり返った
静まりかえった部屋で竃の中から木がはぜる音が聞こえる。
父親の声が響く。
「我が家に伝わる話ではフォス国に戻った大男でしたが、その後も何度か槐国と行き来していたと。
その話では槐国と季節のずれもあったようです。
フォス国はどこか遠い場所らしく、普通に行き来しているのではない様でした。
そして大男はある日を境に国に帰らずと言うか国に帰れず、この村でそのまま暮らしたと。」
「なんっ……だと?」
「なぜ私達だけがヒダッカさんの言葉が分かるのか不思議に思われたでしょう?」
「ああ。少し発音に違和感は有るが充分に通じ合えるな。」
「私達は大男の子孫だと伝わっているのです。代々フォス国の大男から聞いた話をそのまま、フォス国の言葉で受け継ぐ様に言われているのです。」
「なぜそんなことを?」
「理由については伝わっていないのです。色々考えて見たのですが……こちらには無い物や事柄を表す言葉が無かったと言うのが一番大きな理由かと思うのです。または帰れぬ故郷をただ懐かしんで、とも考えられます。」
そういった後少し気まずそうな顔をした。
どちらも有りそうなことだ。
このまま帰れないとは考えたくないがもし俺がこのままツグミ村で暮らす。
ある程度は意志疎通が出来ていたとしても。誰にも言葉を分かってもらえないのはきっと悲しい事だろう。
「まぁどちらの理由も相まってと言うのが妥当だろうな。」
俺は一抹の不安を隠しつつ言う。
「フォス国の人を見つけたかったんだよきっと。オレはヒダッカさんを見つけられたでしょう?」
ホウジが曖昧に笑った。
「峰司良いこと言うじゃない。ちょっとお味見してくださいませんか?」
母親が暗くなった会話を遮る。
イェローツリーを煮た鍋をテーブルに置く。
皿を並べてよそい俺の前に出す。
3人とも俺を見てくる。
先に食べろと言うことだな。
とろりと煮え湯気が出て良い香りが漂ってくる。
見つめられて食べにくかったが俺も1年ぶりのイェローツリーに舌鼓をうった。
「旨い」
俺の言葉につられてそれぞれに食べ始める。
「おおっ旨いな!」
「ヒダッカさん、美味しい!」
「まぁ!甘くて美味しい。とろとろなのもあとをひくわね。」
それぞれ楽しんでくれているようだ。
皆の皿が空になるとお茶が淹れられた。
「あの、ヒダッカ様は魔法を使えるのでしょうか?」
食い入るような視線で母親が質問してきた。
父親とホウジもはっと息を飲む。
なぜだ?そう思いながらも答える。
「俺は少ししか使えない。白く輝く魔法なぞ知らんし、魔法で嵐を倒す事は出来んぞ?」
ホウジはひどくがっかりした様子を見せたが、母親はさらに質問してくる。
「少ししかと言うことは魔法をご存知で、お使いになるのですよね?」
「まぁな、俺は触れた水を清める事と魔力を体の表面にまとわせる身体強化ぐらいしか出来んがな。」
3人は一様に驚いた様子を見せた。
「格好いい」
ホウジが呟く。
ツグミ村では魔法を使えないのだろうか?
俺の町と言うか国では皆、何かしらの魔法が使える。
ヒボラの様に攻撃魔法を使うには持っている魔力量が多くなければ出来ないが。
「では、魔力で病気になることはないのでしょうか?」
「病気?使い過ぎれば動けなくなるが、魔力のせいで病気になることはない。」
あからさまにほっとした様子で母親と父親が顔を見合わせる。
実は……と父親が話し出す。
「鶇村では魔法を使えるものは居ないのです。槐国でも聞いた事が有りません。しかし私たちの一族には魔力らしきものを授かっているのです。ただ……」
ちらりとホウジを見る。
ホウジは居心地悪そうにしている。
「魔力らしきものが有っても魔法を使えません。使い方の伝承は有ったと思われますがどこかで失われてしまったのです。そして時折、峰司のように魔力が強いのか多いのか?どの医者にも分からない不思議に体調を崩す者が産まれて来るのです……」
少し言いよどんだが続ける。
「そういう者は大体が短命になるのです。私達は魔力病と呼んでいるのですが……」
「どういう事だ?魔力が多くて羨ましく思うことはまま有るが……すまない、どういう事か分からないな。」
ホウジの顔を見る。
言いにくそうにホウジが口を開く。
「え~と、身体が熱くなって何かが身体の中を動き回ってる感じがする。
それと時々他の人には見えない物が見えたりする。そういう時は動けなくなっちゃうんだ。
オレ直ぐに熱を出して寝込んじゃうし。」
考えながら答える。
「ああ。魔法を使うとき魔力を練り上げると言うのだが、身体の中をバラバラに動いている魔力を一定方向に動かすんだ。それを感じているのか?それに力を使い過ぎれば動けなくなることもあるぞ。」
ホウジはうなずきながら真剣な様子で話を聞いている。
「他の人には見えないものが見える、と言うのは俺は無いな。俺とは違う系統の魔力なのかも知れない。系統についてだが……すまないが書くものは有るだろうか?」
母親が用意してくれた紙に書き出す。




