魔王様の烏滸鳥①
西の彼方に日が落ちる。世界を紅に染めるそれは、辺りの輪郭を朧気にした。
逢魔が忍び寄る、黄昏の刻。昼と夜の間で唯一聞こえるのは悲痛な、懇願の声。
ーー誰かが、泣いている。
「逝くな、ーー逝かないでくれ」
緋く眩む視界。朦朧とした意識の中、その声だけはやけに鮮明に耳についた。鼓膜から全身へ染み渡るように響くその声に、うっとりと聞き惚れる。
ーーそうだ。この声は、大切なあの人の声だ。
「俺を置いて飛び立つつもりか?嫌だ、やめてくれーー俺はもっとお前といたい」
うん、と朧な意識の中で頷いた。私もーーもっと貴方と一緒にいたい。
ーーその暖かな手で撫でて欲しい。その心地よい声を子守唄に微睡んでいたい。慈しみに満ちた、優しい笑顔を見せて欲しい。
貴方が笑った時、辺り一面がまるで天の祝福を受けたかのように輝くのだ。ーー金や宝石なんて目じゃないくらいに。夜空に瞬く月や星も霞む程に。
キラキラと煌めくその瞳に嘆きの涙は似合わない。綺麗な瞳が翳る様が、酷く悲しかった。
ーーああ、泣かないで下さい、大好きな人。
けれど、同時に暗い悦びが沸き上がる。この人はこんなにも、私を損なう事を恐れてくれている。それはどれ程この人に必要とされているかを示すようでーー優越感にも似た歪な幸福に酔いしれる。
ーーなんと幸せな事だろうか。大好きな人にこんなにも愛されてーー看取って貰えるのだから。
安らかな気分で重い瞼を下ろそうとする、と。
「ーー許すものか。俺を蔑ろにし、神の身許に還れるとでも?」
突然、悲嘆と慟哭に濡れていた声が変わった。地を這うような凶気を孕んだ声音ーー思わずぶるりと身が震え閉じかけた瞼が留まった。
「なんと薄情な、そんなお前になど容赦はせぬ。今生で滅びようとも、必ずや俺の元へ喚び戻してくれる。神王だろうと魔王だろうとーー他への移り気など許さん」
ーーあれ?おかしいですね。何故か責められているように感じますが……私が、何か怒られるような事しましたっけ?
恐る恐る声の主を見遣る。大好きな人ーー今その瞳は凄絶にギラつき、瞳の色に反した、黒く歪んだ灼熱が燃えている。
びくっと私が身がすくませる様を見てとったその人は、徐にーー笑った。
時折見せてくれた柔らかで温かい笑みではなく、まるで獲物を前にした獣のように獰猛なーーけれど凄く蠱惑的で、鳥肌が立つほど魅力的な笑みだった。
「お前はいつの世だろうと俺のものーー決して、逃してなどやらぬから」
ーー台詞が悪どい!貴方こそ一体どこの魔王様ですか!?
神々への冒涜とも取れそうな際どい発言に呆然としーー思わず笑ってしまった。もう、本当にしょうがないんだから、この人は。
ーー良いですよ、仕方ないから喚ばれてあげます。
例え貴方が今の言葉を忘れても、私はその声を忘れない。例え貴方の手の温もりが失われても、私はその心地よい感触を忘れない。
私を捕らえるのは貴方の言葉、鳥籠は貴方の腕。ーー愛おしくて堪らない、私の至宝の止まり木。
ーー幾千幾万の時を経ようとも、私の魂は永遠に、貴方の僕でありましょう……。
暖かな陽気に満ちた午後。老朽化がそこかしこに見受けられる白い建物には多くの若者が収容されている。
木製の文机に腰掛ける同年代の若者達。その視線の先では、彼らより一回り以上歳重の男が、書物を片手に言葉を紡いでいた。
もう片方の手にある白墨を彼が操れば、それに追随するように若者達も手にした筆記用具を走らせる。
どこか厳かな雰囲気が漂う中、各部屋に設置されたスピーカーから電子音が流れ出した。それは時を告げる鐘ーー終業のチャイムが学校全体に鳴り響く。
意識の外で聞こえるその鐘の音は、まるで祝音のようだと思う。学徒達はこの音にて、窮屈な机から解放されるのだから。
がたがたと椅子を引く音とざわめき声が場を満たす。授業という名の労働から解放された生徒達が、各々の行動を開始したようだ。
「ーー滸、帰るよ!」
ゆさゆさと体が揺さぶられ意識が浮上する。うぴ?と間の抜けた音が聞こえた。自分の声だ。
「放課後まで寝るなんてある意味勇者ね。ほら、起きた?」
「起きた……」
未だぼんやりとする頭を緩慢に持ち上げ、黒板の上の壁時計を見遣る。時刻は午後三時二十分ーー六限目の終了時刻だ。いつの間にか眠ってたらしい。
そういえば昼過ぎからずっと眠気と戦っていたのだ。睡魔との2教科にも及ぶ激闘の時間ーー古典と世界史の授業だったと思う。それに敗れたのはこちらだったか。健闘したのに……無念。
それもこれも程好い腹加減と午後の陽気のせいなのだ。それらを味方にやってきた睡魔に屈するなという方が難しいのですよ。それこそ完全装備の魔王軍が突然、日和きった王国軍に攻めこんで来たような危機的苦境でーー。
「こら、目を開けたまま寝ない」
ぽかっと丸めたノートで頭を叩かれた。痛くないけどいい音がして、はっと意識が戻ってくる。
「ね、寝てないよ。しかも目を開けたまま寝るなんて、僕にそんな器用な真似は出来ないのだ」
「器用かどうかは関係ないし、そこで威張るのはおかしいからね。どうしていつもそう尊大なのかな、あんたは」
えっへんとふんぞり返った頭をまた叩かれた。今度はすぱーんと振り抜くようなスイングだった。
「痛いのだ、お姉ちゃん」
「目が覚めるでしょ?いいから帰る準備しなって。ほーら、明日から滸が楽しみにしてた三連休だよ。早く帰らなくて良いの?」
餌をチラつかせるように可愛いスケジュール帳を見せられ、慌てて帰り支度を始める。弟妹で慣れているせいかこの友達は飴と鞭が巧い。
お姉ちゃんと呼びはしたけど、僕は一人っ子なのだ。大家族の長女である彼女はついお姉ちゃんと呼びたくなる気質の持ち主でーー密かに実の姉のように慕っている。
鞄を開けた時、ひらりと紙が飛び出した。それは今朝書き出したーー買い物のメモだった。
「ーーぴっ!ごめんお姉ちゃん。今日は僕、買い物してくから一緒に帰れないのだった……」
項垂れる僕に、お姉ちゃんは憐れみの込めた視線を向けてきた。
「買い物ってーーまたお父さん出張なの?」
「うぴ……」
そうなのだ。楽しみにしていた三連休、お父さんが突然出張になってしまったのだ。お仕事だから仕方ないとはいえ、一緒に過ごせると期待してた分、気落ちは大きい。
「連休丸々お仕事なんだって。だから食料品とか纏めて今から買いに行っちゃおうと思う」
「三日間も一人で……大丈夫?」
僕が片親だと知っているからか、お姉ちゃんが心配そうに俯いた僕の顔を覗き込んでくる。不安気に揺れるその瞳から、心から案じてくれてるのが分かって胸がじんと温かくなった。
「うん平気!慣れてるし、お父さん帰ってきたら目一杯遊んで貰うのだ!」
今朝出掛ける時にそう約束してくれたのだ。いつもごめんね、出来る限り早く帰るからーーそう言ってぎゅっと抱き締めてくれたんだ。
ーーそんなんでほだされた訳じゃないけど!まぁ渋々納得してあげたのだよ。僕は偉いのだ。
ほくほくと回想に耽っているとお姉ちゃんがはぁと溜め息を吐いた。
ーー何さ、その呆れた目。さっきまでの慈悲深い眼差しはどこ行ったのだ。
「私も別に父親嫌いじゃないけど……滸のお父さんへの懐きっぷりは相変わらずおかしい」
「え、何で?おかしくないよ。お父さん格好いいし優しいしハンサムだし」
「格好いいとハンサムは意味殆ど一緒じゃん」
「そ、それだけ格好いいって事を強調する為に繰り返したのだよ。他意は全くこれっぽっちも微塵もないのだ。ーーただそれっぽい言葉を並べ立てただけなんて事はないのだよ!」
「この子は本当に、焦るとすぐ墓穴を掘るんだから。ほら、落ち着きなさい」
よしよしと頭を撫でられる。何なのさ、このわんこにするような扱いは。ーーしかしお姉ちゃんの手は気持ちいいな、けしからん。もっと撫でて欲しいのだ。
「あー……お父さんが滸を可愛がる気持ちは、分からなくもないかも」
ぴゃあぁと撫でられる気持ち良さに蕩けていたら、そんな事を言われた。
ぽんぽん撫でられ、それを区切りに手を離される。
もう終わりか、残念なのだ。未練たらたらにお姉ちゃんの手を目で追ってしまう。
「あーそうだ、忘れてた。私もお母さんに卵買って来るように言われてたんだった。買い物一緒に行こう」
唐突にそう言うと、お姉ちゃんは自分のリュックを背負って僕を急かした。慌てて鞄を肩に提げてお姉ちゃんの後を追う。
頼まれ事を忘れてた?しっかり者のお姉ちゃんが?
教室を出て昇降口へ向かいながらお姉ちゃんの後ろ姿を見詰める。
下駄箱で靴を履き替え、校門に向かう生徒達。それに流されるように僕達も学校の外へと向かう。春の麗らかな陽気は心地よく、風がそよそよと草花の香りを運んできた。
ーーもしかして僕の買い物に付き合う為に、気を遣わせないような嘘を吐いた?
そう思わずにはいられない。話こじつけたっぽかったし。本当、お姉ちゃんってば優しいんだから。参っちゃうのだ、もう。
大好き!という気持ちが抑えきれず、思わずぎゅっとお姉ちゃんの手を握ってしまった。驚いたように振り向いたお姉ちゃんは僕と目が合うと、しょうがないとでも言うように手を握り返してくれた。やった!
「人様の家の犬を手懐けちゃった気分だ」
ちょっと待て、犬ってそれまさか僕の事なのか。違うよ僕はわんこじゃないよ!
勉学に励む、偉い偉ーい、女子高生なのだ!
そう抗議を込めて繋いだ手をぶんぶん振ったら、お姉ちゃんに笑われてしまった。
「うー重い」
お姉ちゃんと別れてから一人、大きなエコバッグを抱えるように持ちながら、ふらふらと家へ向かう。
勿論、三日間もあるとはいえ、この量を一人で平らげるのではない。この量には訳がある。
「ぴふふんっ。帰ってきたお父さんに凄いご馳走を作って驚かせてやるのだ。ーー父不在時に成長する娘。それを目の当たりにして悔しがるが良いのだ」
スマホで検索したレシピを頭の中でなぞる。
お父さんの好物である鶏の唐揚げは最早僕の十八番だが、他サラダに煮物にと、栄養バランスを考えて献立を組む。
そうなると自然に買い物も嵩張るというものなのだ。
「あとは休み明けに持っていくお菓子の材料。お姉ちゃんに買い物付き合ってくれたお礼をするのだ」
お姉ちゃんも料理上手だけど、だからこそ他人の手料理ってあまり口にする機会ないよね。
ここは腕によりをかけてチョコレートケーキを作ろうと目論んでいるのだ。喜んでくれると良いな!
えっちらおっちらと大通りから閑静な住宅街へと進む。
遊具で遊ぶ子供達のはしゃぎ声を聞きながら公園の前を通り過ぎ進む事暫し、小ぢんまりとした我が家が見えてきた。
濃いブラウンの壁に黒々とした屋根の乗った家だ。両親が結婚した時に買った物で、落ち着いた外観が気に入ったんだとか。
そういえば昔、僕がこの家を前にしてチョコレートみたい!と言ったらお父さんが笑って頭を撫でてくれた。
その日から、家の戸棚にはチョコレートが欠かさず補充されている。お父さんの仕業なのだ。
ブラックの板チョコレート……もとい黒色の扉を前に一度エコバッグを下ろし、鞄から鍵を取り出して鍵穴に差し込んで解錠。
よいしょとエコバッグを持ち上げながら扉を開ける。
すっきり整頓された家の玄関。玄関口は家主の顔とも言われるらしいから、いつも綺麗にするよう心掛けているのだ。
ーーまぁ、その家主がいつも靴を脱ぎ散らかすんだけど。
この家は廊下の突き当たりが居間やキッチンになっていて、左手にお風呂やトイレ、洗面所がある。
向かって右手には部屋が設けられていて、手前がお父さん、奥が僕の部屋になっている。
エコバッグを一旦置き、洗面所で手洗いとうがいを済ませ、その奥の部屋入る。
六畳程の私室には好きな本を詰めた本棚と机があり、クローゼットが一つ備わっている。布団や衣類はその中だ。
壁掛けに鞄と脱いだ制服を引っ掛けて一息吐く。制服は嫌いじゃないけど、少し窮屈なのだ。
クローゼットを開け、中の箪笥から黒の七分袖のシャツとスパッツを取り出して着るーー全身真っ黒だけど部屋着だからいいか、凄く楽ちんなのだ。
部屋を出て放置していたエコバッグを拾おうと身を屈める。
これをキッチンに運んだら冷蔵庫にしまって、夕飯の準備をしよう。一人分ならあっという間だ。
ふと、夕日が目に入り窓の外を見る。
西の彼方、茜色の空の下で一日を照らした太陽が静かに沈んでいく。
ーー夕日を見ていると、独りの寂しさが浮き彫りにされる気がする。
長く伸びる影が唯一存在感を増すが、それとて心の慰めにはならない。寧ろ、一つしかない影に更なる寂寥感が掻き立てられる。
ーーいつも胸の奥にぽっかり穴が空いたように、寂しいのだ。
お父さんがいないからというのもあるけれど、何かしなきゃいけない事があったのに、それを忘れてるような、焦燥感と物足りなさがいつも拭えないでいる。
暮れる陽を見ていると、それがいや増す気がした。
空には気の早い一番星。彼も寂しいのか、夜の訪れを、仲間の瞬きを早く早くと急かしているようだった。
孤独よ去れ、眩い煌めきを闇に散りばめろ。寂しい夕暮れを塗り込める闇色が濃く深く増していくーー。
まるで不吉なものを一刻も早く追い祓おうとするかのようにーー。
「黄昏時って、大禍時とか逢魔時とも言うのだっけ」
妙にな薄ら寒さを感じ、それを誤魔化すように口を開いた。
一体どこで得た知識なのだったか。本かゲームか、それとも今日の古典の授業で先生が言っていたのかな?
確か、この世とあの世の境が曖昧になって、禍を喚びやすい時間なのだとか。
「語源は誰そ彼。夕焼けの逆光で顔が識別しにくくなるから。ーー昼と夜が交わる時、人と魔の世界も交わって、怪異と出逢ってしまうかも知れない。まさに、魔と逢う時って事なのだ」
こんなに綺麗なのに不吉な言葉も孕む時間。
綺麗だからこそ恐ろしい、怯えつつもつい魅入ってしまう。
反した色が交ざるグラデーション、瞬きの時の芸術。
そんな埒もない事を夕暮れに見惚れながら考えていると、不意にーー窓の外に何か影のようなものが見えた気がした。
変な事を考えてたせいか、身がびくりとすくむ。
「ーーいやいや、ないない。噂は影とか迷信なのだから」
そうは言いつつ気になり出すと止まらないのは人の性か。
ーー何もない、ない。それを確認してさっさと次の行動をするべきだ。時は金なり、今はこれこそ信じるべき格言なのだ!
外に目を凝らそうと顔を寄せ、そうっと窓に触れる。
「ーー来い」
寄せた耳にそんな声が聞こえた。
え?と驚いて窓を見るとそこに見慣れた窓ガラスはなく、黒い靄の様な物が立ち込めていた。
「ぴゃっ!?」
驚いて奇声を上げると突然ーーぐんっと全身を引っ張られた!
ーー何っ!?体はどこも掴まれている感覚はないのに、引っ張り込まれるのだっ!
さっきまでは普通の窓だった四角い窓枠の中にずるずると体が引き込まれている。
その色のせいか、靄の先は全く見通せない。
「う、嘘!誰か助け……」
恐怖心が一気に膨れ上がった。しかし、そんな事は意に介さないとばかりに、体はずぶずぶと靄の中に引き摺り込まれる。
溺れる者は藁をも掴むーー混乱の極地に慌てた僕は、手に触れた何かをしっかりと握り締めた。
けれどそれは欠片も抵抗にはならず、僕の体はそのまま黒の世界へとどぷんと飲み込まれてしまった。
ーー誰かに、呼ばれたような気がした。
強い力に引っ張られるまま靄の中を滅茶苦茶に突き進まされる。
真っ暗闇でジェットコースターに揺さぶられているよう、とでも例えれば良いのか。
しかし、無情な事にシートベルトも安全バーもここにはない。
頭の中で「死ぬ死ぬ死ぬーっ!」と絶叫するも、実際は恐怖で口は開かず硬直状態。
気絶寸前なのだ。これ、本気で心臓止まる!
ーーもう駄目だ、失神しよう。意識を飛ばせば精神的負荷は軽い筈。
さあ今こそ来たれ睡魔よ!その猛威を容赦なく満遍なく僕に振り掛けるが良いのだ!ーー是非とも来て下さいお願いしますっ!
全身全霊を込めて念じたのが功を奏したか、恐怖のアトラクション体験の終わりが訪れた。
ーーただし、引っ張られていたそのまま、ぽーんと放り出されたような感じで。
慣性の法則。物は力を加えるのを止めてもその勢いのまま前に進んじゃうんだぜーーってなもんで。
「ぴ、わゎぁっ!ーーぷぎゃ」
数歩跳ねたものの勢いは殺せず、躓いてべしゃりと床に潰れた。
ーーい、痛い。少しスライディングしてあちこち擦った!
ふかふかの絨毯がなければどこかしら出血をしていただろうーー長い毛足で織られた赤茶色の絨毯が視界の端に映る。
良い触り心地、高そう。勿論自宅にこんな物はない。
どこなのだ、ここは。
ーーいや待て、それよりまだダメージが体から抜けてないのだ。
心臓は未だばくばくだし、じんじんと地味に痛みが自己主張をして思考の邪魔をしている。
這いつくばったまま身を丸め、ぴくぷると悶絶を余儀なくされる。
軟弱な現代っ子に受け身なんて高度な技術は備わってないのだ。ぴくそぅ、傷心のこの身、誰かに優しく介抱して貰いたいーー。
「来たか、王女」
ーーぴ?
そんなつれない、優しさのない声が聞こえて思わず顔を上げる。いつの間にか目の前には奇妙な男の人が立っていた。
黒髪かと思えばちょっと違う。夕日に照らされたその色は、夜に変わる前の空ーー濃い藍色だった。
短めのその髪から覗く鋭い眼光も同じ色。
幻想的で綺麗だが、しかし、目付き悪いなお兄さん。三白眼ってやつか。
何故かその目で訝しげにじろじろと僕の全身を見ているようなので、負けてなるものかと対抗心を燃やし、お返しにお兄さんの格好をじっくりと見遣る。
黒の詰襟の上に、袖とかに細かな刺繍が施された白い甚平みたいな衣を羽織っている。
下は裾を縛る形のズボンで、チャイナっぽい靴を履いていた。
和洋折衷色々盛り込んだような不思議な衣装だが、その人は違和感なく着こなしていた。
「……王女?」
もう一度そう呼ばれて漸く、自分の事を言われているのかと理解した。
が、言った本人が「……これが王女?嘘だろ」って顔をしてるのはどういう事なのだ。
そう思うなら呼ばなきゃ良いじゃないか。理不尽なのだ。
「王女じゃないのですよ、お察しの通り」
皮肉を込めて、やや憮然とした口調になってしまうのは仕方ない。
だって初対面でこんな態度を取られたら多少の反発だってしたくなるじゃんか。王女じゃなくっても、女子は気高いものなのだ。
「……どういう事だ?」
それはこっちの台詞なのだ。
いきなり引っ張り込まれて床に潰れた挙げ句、見知らぬ人に不審者を見るような目で見られる僕のこの状況こそどういう事なのだ。大変遺憾である。
本当にーーどこなのだろう、ここは。
家に帰りたい。こんな所、知らないのだ……。
そうでなくても寂しいと感じていた所なのに、情況が悪化するとは何事なのだ。更なる心細さと不安に苛まれ、思わず瞳が潤みそうになる。
「王よ。これは一体……」
お兄さんは態度を改まったものに変え、視線を流した。つられて僕もそちらを見てみる。
ーー鼓動がどくん、と跳ねた。
そこは玉座みたいに段差があってーーその高座に設けられた大きな椅子に、その人は腰掛けていた。
黒い。最初の印象はそれだ。
ブラックホールみたいに光すら飲み込む圧倒的な黒。目映い夕焼けもその人の姿を染める事が出来ないでいる。
肘掛けに頬杖をついてじいっとこちらを見るその眼も同じく黒い。ゆっくりと瞬くと長い睫毛が繊細な美貌に影を落とす様が見られた。
ーーそう美貌だ。個人的にストライク、タイプな美形だったのだ。
黒髪は絹糸のように艶々のさらっさらロング。なのに肌は抜けるように白い。
逞しく、均整のとれた体つきが真っ黒な衣装の上からでも分かった。こちらも詰襟だが、顎布があって黒真珠のピンが付いていてーー中世西洋の貴族服か乗馬服みたいだった。
呆然と見惚れていると、その人は軽く首を傾げた。その動作にさらりと流れる艶髪が何とも恨めしい。
「……術を違えた、か?」
さも不思議そうな声が薄い唇から漏れ聞こえた。程好く響く低音。
べ、別に好きじゃないけれど!いい声ですねと言っておこうか。ーーいや嘘です、かなり好みなのだ。
「明らかに王女ではありませんね。容姿もそうだが色が違うーーかの姫は金色、と聞いております」
「ああ、年頃は似ていそうだがな。人違いか」
ぽーっとしていた頭に正気が戻ってきた。
ーーな、何だと!人違い!?
散々恐怖を味わせておいて「間違えちゃった、てへ」が通用するとでも思っているのか!そんなのが許されるのは、僕のような清純高貴な女の子だけだと相場で決まっているのだ!絶対っ。
「どうしましょうか、これ」
これとは何だ僕の事か、むっとするのだ。
「さて、どうしたものか」
気だるそうにその人が深く椅子に身を沈める。憂いを帯びた表情も素敵ですなーーってそうじゃない。
「元の場所に戻して下されば良いと思うのですよ」
居住まいを正し、優等生の如く挙手をして申し出てみた。間違えたという事なら即刻帰して欲しいのだ。
「黙ってろ、お前」
諸々の不満を抑え込み、丁寧且つへりくだって物申したのに、三白眼兄さんに睨まれてしまった。恐っ!
しかも、呼び方が王女からお前に位下げされましたか。急降下なシフトダウンに思わずおののく。
「元の場所?……面倒な」
ふぅと憂いの溜め息が椅子上の人から聞こえた。
先に面倒を起こしたのはそっちだろうに、見も蓋もない事を言わないで欲しいのだ!思わず黒い人を睨み付けてしまう。
脳内でのお叱りの言葉が相手に届いたのか、やれやれといった動作で、その人は椅子から立ち上がり僕の前までやって来た。
どうする気なのかと見ていると、手にはめた黒い手袋を片方、するりと外した。
現れたのは指の長い綺麗な手だ。その手が、僕の頭に乗せられた。
ーー瞬間、凄まじい感覚が稲妻のように体を駆け巡り、息が止まった。
全身がぶるっと震え、鳥肌がたつ。背筋にぴりぴりと緊張が走り、目が極限まで見開いた。
ーー嘘だ、こんなのありえない。
ーーこれは、まずい。まず過ぎる。
ーーとんでもなく超絶に、宙に突き抜けるほど至高に、天と地が震撼するほど衝撃的に!
この人の手、僕好みだ……っ!!
元々頭を撫でられるのは大好きなのだ。
お姉ちゃんの柔らかい手に撫でられると嬉しくなるし、お父さんの大きくて少し硬い手になら幸福の絶頂!溢れんばかりに幸せになれる。
だけど、これは一体何?
不動の一位であり続けたお父さんの手すらも凌駕するーー大きさといい温度といい、思わずといった感じで髪に滑り込んできた指の感触といい、完璧なまでの撫でられ心地。
叫び出しそうになるほどの興奮が身の内から溢れだす。涙と汗と鼻水が飛び出しそうだ。汚い。
「ぴゃあぁぁぁぁ……」
感極まって意味を成さない言葉が口から漏れた。
鳴き声みたいーーいや、無垢な乙女の儚い吐息である。
うわあぁ幸せだこれ!もっと撫でて欲しいっーーその欲望のままに自ら頭をその人の手にぐりぐり押し付けてしまった。
「何……?」
「そんなーー馬鹿な!」
途端に二人が驚愕を露に、ばっと飛び退いてしまった。
え、そんなに引かなくても。ーーそこまでドン引きされると凹むんですけどっ!?
ああ、僕好みの手が。数歩先に離れてしまったその人の手をつい目で追ってしまう。
持ち主は半ば唖然と自身の手を見詰めてーーそのまま視線を僕に向けた。
冷たく見下される!……かと思いきや、きょとんと不思議そうな顔をされただけだった。
ーーあれ、もしかして引かれた訳じゃない?
「……どういう事だ?」
何がなのです?
「何故死なぬ?」
……寧ろ何で死ぬのです?
突然ぽっくり逝ったらそれこそビックリじゃないか。脈絡のない発言は混乱するので止めて欲しいのですよ。
僕とその人は互いに穴が開くほど見詰め合ったまま動かない。
ーー痛い程の沈黙が流れる。
けれど僕は、それを嫌だとは感じなかった。その人の目に自分が映っていると思うと高揚感すらあってーーそんな自身の心境に戸惑ってしまう。
寧ろ、もっとこの人に見られたいと思ってしまうのは何事なのだ?
ぴむ、相手がタイプな美形だからかな。美人に見詰められて嬉し恥ずかし!な気分なのだろうか。自分の感情なのに、よく分からない。
「ーー人共が愚かにも、王に対抗しようと造り出したものでは?」
和洋折衷兄ちゃんがそんな事を言いながら割り込んできた。警戒心を滲ませ僕を睨み付ける。ーーだから恐いってんですよ!
「ああ、何かまた混ざりものを造っているのだったか。これがその成果と?」
話がよく掴めないけれど、友好的な雰囲気ではないのは分かった。好みの手の人が僕への視線に僅かに険を込めたからだ。何だか警戒されている。
何だっ、やるのか!と思わず身構えるとーーはあぁ、と呆れたような溜め息を盛大に吐かれた。
「ーーこれが、か」
「可能性が無くはないのでは。姫と入れ替え、王の術に割り込ませたのやも」
「ーーこれを、か」
「ーー身に秘めた術があるのでは。王の力が効かぬのがその証拠、警戒すべきかと……」
明らかに今、語尾を濁したな。「俺、何言ってんだろ……これに警戒とか阿呆らし過ぎる」的な視線を僕に寄越したよ。どつきたいのだ。
というか、さっきから僕の事「もの」とか「これ」とかーーなんというぞんざいな呼び方をするのだ。誠に腹立たしい。
僕には大好きなお父さんと、天国にいる優しいお母さんが付けてくれた立派な名前があるのだ。
光栄に思うが良いですよ、誉れ高きこの名をとくと知らしめてやるのだ!
「僕の名前は羽陽滸と言うのですよ!決して、これとかそれとかじゃないのです」
だからものみたく言うのは止めて欲しいのですよーーと続けようとした、のだが。
「ーーっ!?」
「なーーっ!馬鹿な!」
先程よりももっと愕然と驚かれてしまった。
な、何なのだ?さっきからオーバーなリアクション、こっちが驚くのですよ!
「こ、この大馬鹿野郎が!自ら死に急ぐとはどれ程の大阿呆か、若しくは大間抜けか!」
散々な言われよう!野郎じゃないし、レディだし!
いや、そもそも名乗っただけで何でそんな侮辱されなきゃならんのかーーっ憤慨だ!ブチ切れたっ!
「さっきから何なのですか!突然、恐怖の絶叫コースター体験をさせておいて散々これ呼ばわりした挙げ句、果ては馬鹿!?信じられないのだ!馬鹿って言った方が馬鹿なのですよ、この馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ!」
「煩い、喚くな!そも馬鹿とは俺の事か!侮辱するとはいい度胸だ、先から余程死にたいらしいな」
「誰が死にたいものですか!先に侮辱したのも喚き出したのもそっちなのですよ!こっちは一般的な礼儀で以て名乗ったんですよ、つべこべ言わず名乗り返しやがれってんですよ!」
ムキになって変な所に怒りをぶつけてしまったような気もするが、取り敢えず憤懣を当たり散らした。
だってこんな理不尽な事ないじゃんか。怒って当然、至極真っ当な反応なのだ!
「真名を握らせておいて、よくそうも吠えられるものだ」
どこか感心したように真っ黒な人が言う。
ちょっ、吠えるとか、これの次はわんこ扱いか。改善されてないぞっ!
ーーしかし真名って何だ?
それと向こうが名乗ってくれないから呼び方が定着しない。この二人も互いを呼び合わないから名前が分からないし。
いや、黒い人は王って呼ばれてたか。それが名前なのかな?
「貴方の名前は王さんですか?」
気持ちを沈めて艶髪の人に問いかけてみたら、その人は、くっと身を屈めて笑い悶え始めた。今のは余程、間の抜けた問い掛けと取られたらしい。
ーー怒りを沈めて損したのだ。暴れてやろうか。
「……お前、どこから来た?ここらの者ではないだろう」
笑い止まない王さんに代わって、異国風兄さんが漸くマシな対応をしてくれ出した。
全く、最初からそうしてくれたら良かったのに。女の子はもっと丁重に扱うべきなのですよ。
「日のいずる国、日本からですよ」
「日の……?何かの術語か、それは」
述語?現国の授業なのですか?
それよりも訝しげな紺色兄さんの様子に不味ったかな?と思う。
日本史で日の沈む国ーー中国の天子に向けてそんな手紙を出して「不敬である!」と怒りを買ったと習ったんだった。
同じように不敬と思われちゃったのだろうか?
「陽の恩恵を受けし異界の者が己の術に喚ばれるとはーー何かの天啓、または前兆であろうか?」
自分の事を己と呼んだ笑い上戸の人は、今度は面白そうに僕を見遣った。
笑い過ぎたせいで目が潤み、きらきらしている。まるで静謐な夜空に見詰められているよう。
ーーき、綺麗だなんて思ってないのですからね!
「真名を名乗るのが礼儀と。何とも恐いもの知らずな世界よな」
笑いの余韻を感じさせる楽し気な声音は心地よく耳に響く。
だかその内容が難有りだ。
ーー異界、世界。何となくそうかなとは思っていたけど、王さんの言葉に確信が芽生える。
「ここは地球じゃないのですか……」
つまりこれは異世界トリップというやつなのだろう。
ファンタジーでよくよく扱われる王道シチュエーション。僕の大好きな展開なのだ。
魔王が君臨して世界の危機が訪れる時、異界から勇者が召喚されるーーそういう本やゲームで、私室の本棚はほぼ埋め尽くされている。
だがまさか、そんな事態が自分に訪れるとは思いもしなかった。
神妙に事の次第を飲み込み始めた頭にーー更なる爆弾が投下された。
「お前の界でどうかは知らぬが、ここでは己の真名を明かす事はまず無い。真名とは命を守る盾、その身を世に留める楔。それを握られるは相手に命運を託すも同義ーー煮るなり焼くなり好きにせよ、と身を明け渡すのと大差ない」
「な、何ですとーっ!?」
驚愕過ぎて仰け反った。
ぴ、え?じゃ僕今、お二人に命を握られてる状態?俎上の鯉事態!?
「真名の感触を知るのは初めてではないがーーこのように押し付けるが如く与えられるは初めてだな」
「与えてないのですよ!そ、そうだ。今名乗ったのは通り名で、僕の本名は別に……」
「阿呆が!真名か現名かなど直ぐ分かる。ーー現に今、俺までもお前の感触を掴んでしまった。くそがっ」
とても嫌そうに眼付け兄さんに罵られた。
ぴうう、人の命を何だと思っているのだ。どうせ握られるなら、せめて大事そうに抱えていて欲しい。
押し付けたなんて言われよう、あんまりなのだ。
「真名は心を、現名は身を司る。心身の盾無くば、それは最早赤子よりも脆い存在だな」
「王の力が効かぬと危機感を抱けば、それを無に帰すように名乗るとは愚の骨頂ーー異界の者だろうと、到底理解出来ん」
「ーー王さんの力?」
そう言えばさっきもそんな事言ってたのだ。確か引かれた時ーー僕好みの手に撫でられた後だ。
思わずその手に目を向けて触れられた感触を思い出し、ぴゃっと恥じらう。
あ、まだ手袋はめてない!はめる前にもう一回撫でてくれないかなっ。
「王に対して何を企む、人のくせに烏滸がましい」
僕の物欲しそうな視線に何を思ったか、半チャイナ擬き兄さんが遮るように立ち塞がった。
ぴっ、邪魔する気か?撫でられる為なら宣戦布告も已む無しだぞ。
「よい。真名が手にある今、それが何を謀ろうとも取るに足らぬ」
手の主はそう言ってヤンキー気味兄さんの背後から出ると、僕渇望の手をひらりと閃かせた。
「己の力が気になるのだろう?」
実は力よりもその手の感触の方が気になってますーーという本音は明かさず、こくこく頷いておく。
黒の麗人は薄く笑みを浮かべると、夕陽差す窓辺に歩み寄った。
その横に飾られた色鮮やかな幾何学模様のタペストリーを徐に手に取るーーと。
「ぴゃっ!?」
驚いた。突然タペストリーの色が黒く染まったと思ったら、ボロッと形が崩れて塵となりーー跡形もなく消えてしまった!それも一瞬で。
まるで種も仕掛けもない、手品のようだったのだ。
「己が直に触れれば形あるものは皆、灰塵と成り無に帰すーーそれが己の力であり、業だ。故に己は他者から灰塵王と呼ばわれる。この力への賞賛と畏怖をもってな」
あっけらかんと、何でもない口調とは裏腹にとんでもない事を言う。
ーーさぁっと血の気が引いた。
「ち、ちょっと待って下さい。さっき灰塵王様ーーその手で、僕に触ったのではありませんでしたっけ?」
もしや気のせい?そっか、きっとそうですよねっ。会って間もなく殺されそうになっただなんて、そんなそんな。
それに、あんな夢のように理想的な手が現実にある訳ないのだ。
やはり至高はお父さんの手に限るーーと納得しようとした、その時。
ぽむっとーーその手が無造作に頭に乗せられる。
全身、総毛立った。
「ーーぴっ!?な、なななっ!なに僕の事殺そうとしてるんですか!止めて下さい死にたくな……い、ぴゃぁぁぁっ」
恐怖に身がすくんだのは一瞬だけだった。瞬く間に恍惚の虜となってしまう。
いかんマジでこの手、極楽感半端ない!あああ堪らないっ!頭茹で上がりそう!
ときめきのままに崩れる顔が余程気色悪ーーいや、可憐だった為か、直ぐにその手は離されてしまった。しかもぱっと即座に、だ。
あぁもうイケず!もう暫く堪能させつくれても良いのに、意地悪だ!
貴方なんて、灰塵王様じゃなくて魔王様だな!ーーRPGにおいて不動の諸悪の根源、この人こそ相応しいに違いない。
見た目も黒いしピッタリなのだ。
きっかけは虜になった手を無情にも離された反発心からだったが、一人呼び方が定着した。
よし、この調子でもう一人も考えるのだ。
「やはり効かぬ。どうなっているのか」
そう言うとーーああ魔王様、黒い手袋はめちゃうのですか。すこぶる残念……って、あれ?
「どうと言われましても、その手袋だって塵にならないじゃないですよ?」
そのお手を包む黒い手袋はどうなんですか?更に言えばお洋服だって塵になるべきなのではないのですか?
……いやストリップが見たい訳じゃないけども。
「それは俺の影で作った物だ。俺の力ーー影は王に準ずる同系の力だ、王に触れても塵にはならん」
そう言って、目付き極悪兄さんはチャイナ靴をとんとんっと床に打ち付けた。
ーーすると、その足下の影がするりと伸び上がったではないか!
掌に乗ったそれは形を成しーー精巧な馬の置物になった。
黒い硝子細工みたい、意外と職人系兄さんでしたか。
感嘆していると、無造作にその置物を床へ落とした。
ーー割れる!と思ったのも束の間、とぷんと音がしそうな感じで馬の置物は影の中に沈んでしまう。
ーー底無し沼を連想してしまった。その影、どうなっているのですか?
しかしなんとまぁ、塵の次は影ときましたか。
それでお洋服も置物も作れちゃいますか。
あら素敵、摩訶不思議のオンパレードやぁ……僕もうお腹一杯なのですよ。
頭が目に見えるものを拒否し始めた。夢だ、きっと。睡魔が今頃やってきて、達の悪い夢を見せてるに違いないのだ。
「はぁ。じゃあ僕はこの世界の者じゃないから効かないのですかね」
半ば投げ遣りな気分になってきて、もう何でもありなんじゃないかなって思う。
選ばれし異界の勇者に悪の力は通用しないってよくあるパターンだし。
あれ、僕勇者だったの?マジですか。
ーーそう言えば勇者だと言われた覚えがあるのだ、確か今日の放課後辺りに。
そういうお姉ちゃんはもしや予言者だったのか。格好いいのだ!
「その線がまぁ妥当だろうな。そうでなくばお前が塵にならぬ説明がつかん、忌々しい」
ちっと舌打ちしそうな罵り具合だ。
ーー決めた、影を扱うというこのいけ好かない兄ちゃん。こう呼んでやる。
「口悪いですよ、カゲヤン。魔王様への態度と違い過ぎなのです」
影を扱うヤンキー気味兄ちゃんを略した造語だ。
我ながらナイスなネーミングセンスだな。流石僕なのだ。
「……おい、まさかとは思うがーーお前今、俺の事をカゲヤンなどと呼ばわったか?」
「では、魔王様とは己の事か」
魔王様は少し面白そうに反復した。気に入ってくれたのかな。
対してカゲヤンは相当ご立腹してるらしい。元から悪い目付きが更に険悪なものになっているのだーー恐ぇぇっ!
「き、気に入らないなら名乗れば良いのですよ。そしたらそれで呼んであげます」
「誰が名乗るか。呼ばう必要などないだろうが」
「必要あります。呼び方が分からないから先程から困ってたんですよ、レパートリーも尽きそうでしたし。真名とやらじゃなくていいですから」
「訳が分からん。そも、お前に呼ばれる為の名など持たん」
「じゃあカゲヤンって呼びますよ、一番しっくり来たのこれなんで。それでも良いのですか?」
「…………」
「カゲヤンカゲヤンカッゲヤーン、カーゲヤァーンーカゲヤーンーー痛っ!」
「喧しいっ!調子外れに馬鹿馬鹿しく囀ずるな、馬鹿鳥が!」
頭をかなりの勢いで引っ叩かれた。
馬鹿馬鹿と連呼し過ぎなのだ!犬の次は鳥とか、人を何だと思っているのだ!?
人を人と扱わないこの所業、許すまじ。
「ちょっとカゲヤン、僕は名乗ったんですからちゃんとそれで呼んで下さいよ。忘れちゃったんですか?カゲヤンこそ馬鹿ですか?」
「俺を馬鹿と、お前などが言うか。ーーなんと烏滸がましい鳥だ、お前などもう烏滸鳥で十分だ」
烏滸って確か、今で言う馬鹿って意味なのだ。ーー古典より抜粋。
ーーってそれ変わらないじゃんか!
名前の字が使われている分少しは近付いたけど、カゲヤンこそ馬鹿の一つ覚えみたいだぞ!
馬鹿馬鹿言い過ぎだヤンキー擬きっ!
カゲヤンと僕がバチバチと熾烈な火花を散らしているのを、魔王様はどこか面白そうに見物している。
見世物じゃないのですよ、と言外に込めて鋭く視線を向けると、くっと一笑された。
「真名とはそう口にするものではない。己らの口から真名が出れば、それを耳にした者がまたお前の命を脅かす。それでも構わぬなら良いがーーお前は命の投げ売りでもしたいのか?」
心の底から遠慮します。
魔王様の冷静な声にぴたりと心の憤りが鎮まった。というか冷えた。
な、なんと恐ろしいーー。理屈は分からないけど名前を知られる、イコール、死に直結とか危険極まりない異界文化なのだ。
名前を基に呪いがかけられたり、魂を抜かれたりとかしちゃうのだろうか。
名前を軽んじた事なんてないけど、そんな命に関わる程だなんてーー僕の世界じゃあり得ないし、知らないのだ。
ーーけれど、知らないでいたから現にこうして、愚行と罵られるような事態になっちゃうのだろう。
知とは力、無知は禍を招くと言われる。禍を回避する為には力と知恵を身に付けなくちゃならない。
それを教えてくれるこの二人。まさか、もしかして親切なのか?
ーー態度とか言葉遣いとかに問題がありすぎてそうとは思えないけど、異界文化を僕に教えてくれている。
力を、与えてくれている。
「じゃカゲヤンの罵詈雑言は照れ隠し?そう思えば少しは可愛げがあるかもですよ」
「おい、妄言を吐き出すな烏滸鳥。どうせ出すなら、せめて金の卵にしろ」
なかった。可愛げなんて欠片もなかった。
どこの童話だ、僕は鶏じゃないぞっ!
ーー同じような物語がこの世界にもあるのか、ちょっと気になっちゃったじゃないか。
それにしても異世界かーー召喚されるなら魔王様の元ではなく、王城とかがセオリーだろうに。王室お抱えの宮廷魔術師はポンコツなのか。
いや、喚んだのは魔王様だったか。
でも魔王様、何故王女様でなく勇者らしい僕なんかを喚んでしまったのか。
あれ?でも最初、人違いとか言われなかったっけ?ーーという事は。
「ーー本当は王女様をここに喚ぶ筈だった?」
思わず口を吐いた疑問に二人は顔を見合わせる。
魔王様が軽く頷くのを見て、カゲヤンが話し始めた。
「そうだ。本来ならここには現王の娘である、金蘭姫と呼ばわれる王女が喚ばれる筈ーーだった。」
「金色の王女様ですか。華やかですね」
きらきら輝く長い金髪をもつ麗しい王女様を想像する。
ーー夢のようだ。是非そのお姿、拝んでみたい。
「そう、それなのに来たのはこの黒い烏滸鳥。肌は黄色いようだがーーこれは違う」
カゲヤンが僕の全身を眺めながら、やれやれと首を振る。
むかっ、黒くて何が悪いのだ。
「純然たる日本人は、黒髪の黄色人種なのですよ。その証を侮辱するつもりなのですか?ーー黒はなにものにも染まらない、崇高な色なのですよ!」
学校のクラスには髪を染めてしまう子もいたが、僕は断固、黒髪推奨派だ。
日本人はやはり黒!黒髪万歳、染め反対。
「黒が崇高と?お前、見目も中身も変わり種よな」
魔王様がくつくつと笑う。いつの間にか元の椅子に悠然と腰掛けていた。
それが塵にならないのは、匠の技が光る、その衣装のお陰なのかな。
「黒は闇に通じる、混ざりに混ざった成れ果て。混沌とした禍々しき魔を表す負の色だ。人の多くは忌み嫌うこの色ーーお前は至高と?」
自身の髪を一房手に取り、僕に試すような視線を向ける。
さらりとした黒髪は、大変美しい。触ってみたいのだ。
「無論です。世の女性垂涎、魅惑のチョコレートカラーじゃないですか。……ミルクチョコも好きですが、ブラックチョコレートのほろ苦さも堪らんのです」
ぴ……想いが猛って、色の話から脱線してしまったのだ。
じゅるりと滴りそうな唾液を飲み込んで、話と視線を魔王様へ戻す。
「ーー魔王様の色はとても綺麗なのですよ、羨ましいのです」
黒艶ヘヤーに見惚れつつ、後半は羨望を交えた本音を言ったら、魔王様に奇妙な顔をされた。
思いがけない言葉を聞いたって顔だ。その手から髪が流れ落ちる。
「……誠に、奇妙な鳥よな」
ちょっ、魔王様まで鳥と呼びますか!?
お前呼びとどちらがマシなのか……ぴぐむ、悩ましい。
「いや、今はそんな事より。どうして王女様を喚ぼうと思ったのです?」
もしかしてそこに、僕が間違って喚ばれてしまった理由があるんじゃないのだろうか。
帰る糸口になるかも知れない、と期待を込めて伺う。
「分からぬ」
ーーはい?
「分からないって……理由もなく王女様を召喚しようとしたんですか?」
「そうなるか」
ーーなんだそりゃ。
そんな理由もなく王女様を喚ぼうとするとか不遜過ぎやしないか。とばっちり食らった僕に対しても失礼だぞ。
「己には成さねばならぬ事がある」
重みを増す口調ーー真剣な話なのかと身を引き締めて聞く体勢をとる。
「が、それが何か分からぬーー正確には忘却してしまった様だな」
ーーはいぃ?
「魔王様も烏滸鳥ですか?」
「おま……っ!王に対してなんたる物言いーー王を烏滸鳥などと同類扱いするな!」
静かに魔王様の言葉を聞いていたカゲヤンにべしーんっと頭を叩かれた。
ーーい、今までで一番痛いっ!思わず頭を抱え込んでぴくぷる身悶えた。
「それをせねばと焦燥が募るばかりで、一向に思い出せぬ。何か、重大なものであった筈なのだが……」
魔王様、クール。可哀想に身悶える僕、スルーなのですか。
抱えていた頭を上げてーーそれは間違いだったと気付く。
今までの泰然とした雰囲気が薄れ、どこか口惜しそうにーー寂しそうに、魔王様は目を臥せていた。
魔王様には魔王様の葛藤があるのか。正直、少し驚いた。
だって魔王様だ。世の中のあれこれなんて無造作に蹴散らし、天上天下唯我独尊を貫く至高悪虐な存在なんだと勝手に思い込んでいた。
だが今の魔王様の姿はひどく人間味があってーー何故か、とくんっと鼓動が跳ねた。
そんな悲しそうな顔をしないで欲しいーー笑っていて欲しいと無情に思った。
何なのだろう?この気持ち。
「ーー故に、王女でも拐おうかと」
ーーん?
しんみり考え事をしてたせいで、途中を聞き逃したのだろうか。
……今、脈絡もなくとんでもない事を言われた気がしたのですが。
「己がここまで固執するなら、それ相応のものであった筈。なれば人世で至高の存在たる現王かと。だが、そんなものは要らぬ。ーーだからまぁ、王女なら良いかと、一から拐かしの術を組んだ。急拵えだが出来は悪くなかった。だが結果、こうして鳥が迷い混んで来てしまった」
「鳥とは僕の事ですか。人聞きの悪い、迷い混んだのではなく引き摺り込まれたのですよ」
魔王様は発想が斜め上過ぎて、かなり極端だった。
しかもその「そうだ、京都に行こう」的なノリで、召喚術を作っちゃうとか、とんでもない事なんじゃないのか。
魔王様達の力っていうのがどういうものなのか、いまいちよく分からないけど。凄いんじゃないのか……多分。
ーーあまりに呆れてしまったせいで、折角の驚嘆すべき凄味も霧散してしまうじゃないですか。
灰塵王は自分の持ち味まで塵にしてしまうのか。勿体無い。
「魔王が王女を拐うとか、とっても素敵なシチュエーションの筈なのに、なんでこんな残念なのだ……」
RPGを愛する身としたら、本来ここは大興奮する所だ。
さあ、王女を救い出すのは選ばれし勇者か聖騎士か!パーティーを組んで、いざ魔王城!ーーと猛る所なのに、脱力感しか湧いてこないのだ。
「お前……王女の拐かしを素敵だと?仮にも人だろうにーーいや、生粋の烏滸鳥か」
カゲヤン、僕は仮にじゃなく純正日本人なのですよ。珍獣を見る目をしないで下さい。
「違うのですよ。僕は常日頃から、非日常的ストーリーを嗜む愛読家なので、そういった展開は嫌いじゃないってだけです」
それも生き甲斐レベルで。その手の物語に触れない日はないと言ってもいいくらい。
ひょっとしたら、現実を過ごす時間より多いかも知れない。
今の生活が不満な訳じゃない。お父さんは大好きだし、友達にだって恵まれてる。
ただ少しだけーー寂しいだけなのだ。
いつもつきまとう空虚な気持ち。まるでパズルのピースが欠けたような、埋まらない虚構。物足りなさがつきまとう。
もしかして、僕が本やゲームが好きなのって、壮大な物語に浸る事で現実の虚無感を忘れられるからーーなのだろうか。
そんな現実逃避を毎日のようにしていたから、こんな所に連れ込まれる羽目になったのだろうか?
神様ーーこれは何かの罰なのですか?
「……もう一度、王女様召喚をしたらどうなのですか?さっきの失敗を活かして、今度は成功するように」
罰はもう充分。好きな世界には違いないが、こんな寂しい所は嫌なのだ。
現実を見るので、どうか早く家に帰して欲しい。
「王の不手際と断ずるな。王の術に誤りなどあるものか」
「でも召喚されたの僕ですよ?間違いが起こったに違いありませんって。なら、正さなきゃなのですよ」
そうすれば僕はお役御免、用済みとなって帰れるんじゃないだろうか。
お姫様には悪いけれど、僕にだって居場所があるのだ。愛しい我が家に帰りたい。
ーーだってもう夕日も沈んでしまった。良い子はお家に帰る時間。
僕は偉くてとっても良い子なのだ。悪い事なんて、何もしていない筈なのに……。
どこか鬱屈とした気分で暗い窓の外を眺めていると、カゲヤンがすっと動き出した。
小卓の上に置かれていた手燭に火が灯る。それを持って、壁際や暖炉にも灯りを点けていった。
暫くすると、まるで西の彼方に沈んだ筈の太陽がこの部屋に訪れたような、暖かさと明るさが室内に満ちる。
「正さねばと言うが、どうやって?」
暖かな暖炉を前に、魔王様に問われた。
「どうやってって……僕には分かりませんよ。その術を作ったのも使ったのも、魔王様じゃないのですか?」
「己は出来は悪くなかったと言ったろう?発動時の手応えも然り。ーーつまり問題点も改善点も見付からぬ。これを、どうしろと?」
ーー何ですとっ!?
「どういう事なのですか!?それ」
「王に二度も説明させる気が烏滸鳥め。一度で理解しろ、王の術は完璧だった。ーーお前のような烏滸鳥がやって来る要因は皆無って事だ」
「いやいやいや、現にここに居ますからね?これをどう説明するのですか!」
「この大烏滸鳥、理解しろと言った数秒で忘れるか。鳥頭にも程があるぞ」
「今は罵倒なんて訊いてないのですよ!どうせ吐くなら良い解決案でも吐き出せってんですよ!」
ーー何だかさっきと逆の展開だが、結果は同じになった。
僕とカゲヤンの間で火花が弾ける。
「何故そうも怒る?」
やはり面白そうに眺めていた魔王様が、険悪ムードを意に介さず訊いてきた。
つくづくゴーイングマイウェイですね、魔王様。
「最初にも言いましたが、帰りたいからですよ。それ以外ないのです」
「帰りたい、か。お前の言う元の場所、元の時間、元の姿ーー全く同じで良いなら出来ぬ訳もない。術の軌跡をそのまま辿れば良い」
「ーー何ですとっ!?」
今度は驚愕がそのまま口から出た。
出来るんかいっ!心配して損したーーそれなら全然問題ないじゃないか。
とてつもなく紛らわしい言い方だったから、帰れないのかと思ったじゃないか。全くっ。
「良いです良いです、それでお願いします」
しかも時間まで戻してくれるなんて、願ったり叶ったりなのだ。
今回は心から称賛しよう。凄いですね、魔王様!
「断る」
ーーぴ?
安心してにこにこしてたら、思いがけないお言葉を頂戴した。
な、何ぃ!?
「出来ぬ事はない。が、面倒だ。ーー最初にも言ったと思うがな」
意趣返しのようにそう返された。
「そ、そんな!そちらが勝手に連れてきたんでしょうに、面倒だから断るなんて、あんまりなのです!」
「己から言えば、そも迷い混んできたお前が悪いのさ。己はお前を故意には喚んでおらぬ。それをぴーちく非難されてもな、割りに合わぬよ」
これはーーお互いの主張が衝突しているのだ。
そうか。魔王様からしたら、突然やってきた迷い鳥に「お前のせいだ!帰せーっ!」と因縁付けられてる状態なのか、これ。
ーーって自分で鳥とか言っちゃったじゃないか、全く。あんまりカゲヤンが烏滸鳥って呼ぶから伝染ってしまったのだ。
くぴ、取り敢えずこれではまずいのだ、冷静になろう。
膠着状態は良くない。どう考えても、圧倒的に不利なのは力のない僕の方なのだ。
ーーなんとしてでもやる気になって貰わなくては。他に帰る手段など、探してる余裕はないのだ。
「では、割りに合えば帰してくれるのですか?」
挑むようにそう返すと、魔王様はちょっとびっくりしたように目を丸くした。
そして片眉を持ち上げ、爽やかさ皆無の笑顔を浮かべた。ーーとっても悪い顔だった。
「面白い烏滸鳥。己と交渉でもする算段か?」
どこか試すような、挑発的な声音だった。
ちょっ、魔王様にまで烏滸鳥が伝染ってるじゃんか!おのれ、カゲヤンめ!
「……本当に烏滸がましい鳥だな。お前などが王に何か持ち掛けられるとでも?思い上がりも甚だしい」
そんなカゲヤンも若干困惑気味だ。思いがけない切り返しだったのかも知れない。
ぴふふんっ、不満ばかり囀ずる烏滸鳥だと思ったら痛い目に逢うぞ!
ーーいや、違う。純然たる女子を侮ると、だ。間違えた。
「言っておくが、つまらんもので王を動かそうなどと思うな?下らん事を囀ずったその時は、俺が代わりにお前を絞めてやる」
カゲヤンは困惑を紛らわすように、不穏な事を告げてきた。
ーーニュアンスがもう、鶏を絞めるとかそんな感じ。信じられないのだっ!
「意外と悪くもない鳥頭のようだがな。ーーそれで、己に何を差し出すか決まったか?」
鳥頭って言う時点で馬鹿にしてるのでしょう。すこぶる信じられないのだ、この似た者主従めっ!
憤る心を宥めて考える。今の僕に出来る事で、魔王様に価値があると思われるものを示さなければーー帰り道は閉ざされる。
何かないだろうかと周りを見渡す。ヒントでもあればと思っての行為だった、が。
見慣れない調度品が並ぶ室内。落ち着いた色調で整えられたそこに、ぽつんと異色を放つものがあった。
大変見慣れたーー使い慣れたものだ。コンパクトに畳められて大容量入る優れもの。
それはーーお気に入りのエコバックだった。
ーーそう言えば引き摺り込まれる瞬間、何か掴んだとは思ったけど。
……どうやら、持ち込んでしまったらしい。
僕の視線を追った二人が「何だ?あれ」って顔をした。二人も今気付いたようだ。
そんな二人に向けて僕は一つ、明かす事にした。
この世界で僕にしか出来ない事ーー自分という存在の価値を。
「世にも珍しい、異世界料理を食べてみる気はありませんですか?」
この続きは同じタイトルの別枠に掲載されております。
不慣れで誤って別掲載にし、読みにくい仕様となってしまった事をお詫び申し上げます。誠にすみません。
宜しければ是非、そちらで続きをお楽しみ頂けましたら幸いです。